第48話 巣に乗り込む
『存外、簡単に見つかったな』
『うむ、カナタがゴブリンの足跡を見つけたからこその発見だがな』
木陰に隠れながら、ザグギエルとフェンリルは声を潜めて前方の洞窟を偵察していた。
切り立った崖にぽっかりと空いた洞穴の前に、二匹のゴブリンが動物の骨で作った槍を持って門番をしている。ここがゴブリンの巣で間違いないようだ。
『まったく、この白毛玉の鼻が利けば、主を働かせずに済んだものを……。何が追跡は我にお任せ下さいだ。鼻が利かない犬など、何の役に立つというのだ』
『い、犬ではない! 神狼だ! 元の体だったならば造作もないことだったのだ! 今のこの体が脆弱すぎるだけで……』
『ならば、その元の体とやらに戻れば良いだろう。なぜ戻らん』
『……これには深い事情があるのだ……。貴様なんぞに話せん』
『ふん、そうか。ならば、貴公のことはずっと神狼フェンリル(自称)と呼んでやろう。(笑)の方が良いか?』
『う、うるさい! 貴様だって役に立たん毛玉だろう!』
『一緒にするでないわ! 余がこの姿なのは自らを鍛え直すという崇高な目的があってのことでだな──』
「お前さんたち、静かにするのじゃ……! 見つかってしまうぞい……!」
二匹をモルモじいさんが押さえつける。
「どれほどの数のゴブリンがおるか、分からんのじゃぞ。ここは慎重に……」
『ふむ、だからといって、ここで待っていても事態は変わらぬだろう。カナタはどう思う?』
『カナタ様、どうか我に名誉挽回の機会を……! 囮となって見張りをここから引き離してご覧に入れます……!』
男三人がカナタに指示を仰ぐが、隣にいたはずの当人がどこにもいない。
「あ、あそこじゃ……!」
モルモじいさんが指さした先は、ゴブリンの洞窟だった。
「こんにちはー」
相変わらずのダイレクトエントリーに男たちはひっくり返る。
『か、カナタ……!?』
『ちょ、調査をするのではなかったのですか……!?』
「普通に挨拶しとるんじゃが……!」
正面から堂々とやって来たカナタにゴブリンたちは驚き、槍を向けて威嚇する。
そして、カナタの姿を見て何かに気づいたのか、ゴブリンたちの顔が見る見る青ざめていった。
「ご、ゴブゴフ……!」
「ゲググ、ゴブブ……!」
ついには槍を取り落とし、跪いて命乞いを始めた。
『む、あの者らはもしや……』
最初に気づいたのはフェンリルだった。
あの二体のゴブリンには見覚えがあった。
自らを逆さづりにして、夕食にしようとしていたあのゴブリンたちだ。
『奴らの巣とはここのことだったのか……』
思い返してみれば、オーガがどうのこうのと言っていた気がする。
『い、命ばかりは勘弁してくれろ……!』
『あの美味い飯はくれたんじゃなかったんだか……!?』
ゴブリンたちはガタガタと震えるが、カナタにはその理由が分からない。
「どうしたんだろう? 中に入れてくれるのかな?」
念話を使えないゴブリンの言葉がカナタには分からない。首をかしげるばかりだ。
「カナタちゃんや、魔物使いは心を通わせれば、念話なしでも相手の言っていることが分かるはずじゃ」
「えっ、そうなんですか!? すごい!」
「お手本を見せてやろうかの」
カナタに追いついたモルモじいさんが、ゴブリンたちの言葉に耳を傾ける。
「ふむふむ、なるほど」
「なんて言ってるんですか?」
「この洞窟は我らの城、去らねばこの槍で刺し殺す! と言っておるのじゃ」
「ご、ゴブッ!?」
「ゴブゴブーっ!!」
そんなことは言っていない! とゴブリンたちは激しく首を横に振った。
「なになに? 頭から丸かじりにしてやるじゃと? なんと物騒な」
「ゴブーッ! ゴブーッ」
「ゴブブ~……」
無茶苦茶な翻訳をするな! と一方のゴブリンは怒り、もう一方のゴブリンは誤解で殺されるんだと涙を流した。
「まぁ、冗談じゃ」
「「ゴブッ!?」」
モルモじいさんはべっと舌を出した。からかわれたことが分かったゴブリンたちは地団駄を踏んで悔しがった。
「ワシの村を襲った仕置きじゃわい。ちょっとは懲りたかの?」
「……ゴブ~」
モルモじいさんの言葉に、ゴブリンたちは思い当たる節があったようだ。顔を見合わせて肩を落とす。
「反省したなら、何があったのか話してくれんかのう」
ゴブリンたちは観念したのか、道を空けて、カナタたちを洞窟の奥へと招いた。
薄暗い洞窟だが、中には光る苔が自生していて、歩くのに不便と言うほどではない。
ゴブリンたちの案内で先を進むが、他のゴブリンたちの姿は見当たらなかった。
「この洞窟、ずいぶん奥まで続いてるね」
『自然にできた洞窟を、さらに掘り進めているのか』
『いったい何のためにこれほど巣を拡げたのだ。話せゴブリン共よ』
頭の上に乗った白黒の毛玉に尋ねられ、ゴブリンたちは事情を語り始めた。
『元々うちは、いくつかの家族が集まって暮らす小さな集落だったんだべ』
『んだ。この巣も今よりうんと小さかっただ』
ゴブリンたちは魔物と言っても非常にか弱い。他の魔物どころか、普通の動物にさえ狩られてしまうことがある最弱の種族だ。
そんな日々に怯えながら暮らしていたゴブリンたちのところに転機が訪れたのは、傷ついたオーガを発見したときのことだ。
どこか遠い場所で縄張り争いに負けたのか、オーガは酷い傷を負っていた。ゴブリンたちはこの流れ者を如何するか話し合い、結局助けることにした。
息を吹き返したオーガは気のいい男で、ゴブリンに助けられた恩を返すため、この集落の用心棒となってくれた。
それ以来、熊や狼、他の大型の魔物に怯えることなくゴブリンたちは平和に暮らすことができるようになった。
噂を聞きつけた他の集落も集まってきて、そのうちこの洞窟は大集落の住処となったのだ。
『んだども、ある日から、オーガの旦那がおかしくなり始めたんだべ』
『集落の人数は増えたけんども、森の恵みで食って行くには充分だったんだ。それなのに、オーガ様はもっと食糧を集めるようにオラたちに命じるようになったんだべ』
しかもその食糧を食べるわけでもなく、どんどん溜め込んでいるという。
最初の頃は他の魔物や人間から守ってくれる頼もしい用心棒だっていたのに、急に横暴になったと思えば、近隣の村まで襲うようになった。
今のところ人間たちはオーガの姿に怯えて、抵抗せずに奪われるままになっているが、そのうち人間たちが反旗を翻してくるんじゃないだろうかと、ゴブリンたちは怯えている。
「何か切っ掛けはなかったのかな?」
『確かにな。だんだんと横柄になっていったというならまだ分かるが、急に変わったというのが気にかかる』
『何か思い当たる節があるのではないか?』
『そういえば……』
『オーガ様がおかしくなった前の日、変なやつが巣にやってきたべ』
てっきり集落を襲撃に来た冒険者なのかと思ったが、フードをかぶったその人物はオーガに呪文のようなものを囁きかけると、すぐにその場を去ってしまった。
オーガの体にも異変はなく、不思議には思ったが何事もなく済んでよかったと、みんなは胸をなでおろしたそうだ。
『どんなやつだった?』
フェンリルが尋ねると、ゴブリンは困った顔をした。
『うーん、人間の顔はあんまり見分けがつかないんだども、メスだったのは間違いないだ』
『んだ。乳がデカかったしな』
『あとは、フードの下に白い服を着ていたのが見えただな』
『白い服を着た女……』
その人物の特徴を聞いたフェンリルは考え込んでしまう。
『今思えば、オーガ様が帝国を作るとか、わけの分からんことを言い出したのはその頃からだっぺなぁ』
「帝国とは、ずいぶん大それたことを考えるやつじゃのう」
『元はそんな魔物じゃなかったんだべ』
『んだ。やっぱりあのメスが怪しいべ』
うんうんと頷きながらゴブリンたちは進み、やがて集団のざわめきや生活音が聞こえてきた。
洞窟の道はいくつも枝分かれするようになり、他のゴブリンたちの姿も見るようになった。
カナタたちの姿を見るとびっくりして逃げたり、威嚇したりする者もいたが、案内のゴブリンたちに説得され、いつの間にかワラワラと集団で洞窟の奥へ向かうことになった。
そうこうしているうちに、道が大きく開けた。
かなりの敷地の広間だ。天井も高い。
しかしまだ掘削途中なのか、手製のツルハシやシャベルでゴブリンたちがせわしなく部屋を拡げていた。
「あれがオーガさんかな?」
カナタが確認するまでもなく、その巨体の持ち主はオーガで間違いないだろう。
節くれ立った樹木のような堂々とした体つき、カナタの支援魔法でムキムキになったモルモじいさんが可愛く見えるほどの差だ。
今は石の玉座に座っているが、立ち上がれば大人が三人肩車をしても届かないくらいの身長になるだろう。
『何者ダ、オ前ラ……』
オーガの鋭い目がぎょろりと動き、カナタたちを捉えた。
「カナタです!」
『ザッくんである!』
『フェンフェンだ!』
「モルモじいさんじゃぞい」
四名の名乗りを聞いて、オーガは額に血管を浮かばせた。
『人間トソノ人間ニ使ワレテイル魔物ガ、何ノ用ダ……? 食糧ヲ貢ギニデモ来タノカ……? ソウデアレバ、滅ボス順番ヲ少シ後ニ回シテヤッテモ良イゾ……』
「逆ですねー。村のみんなから取り上げた食糧を返して下さい」
にこやかにカナタが答える。
それに同調するようにゴブリンたちも口々に訴え始めた。
『オーガ様、もうこんなことやめてくんろ!』
『オラたち、帝国なんか欲しくないだ!』
『今まで通り、みんなで慎ましく幸せに暮らすべ!』
『元の優しいオーガ様に戻ってけれ!』
ゴブリンたちの言葉を聞いたオーガはますます額に筋を浮かばせ、怒りに握りしめた玉座の肘置きがぴしりとひび割れる。
『オ前ラ……今マデ俺ニ守ッテモラッタ恩ヲ忘レテ、裏切ル気カ……』
オーガが黒い瘴気を纏いながら、ゆっくりと立ち上がった。
『我ガ帝国ノ建国ヲ邪魔シヨウトスル愚カ者共メガ……。今スグ殴リ殺シテクレル……!』
『カナタ! 余の後ろに下がれ!』
『ここは我らにお任せを!』
「わしもいるぞい!」
男たちがカナタを守るべく前に立ち塞がる。
そんな彼らをあざ笑うかのように、オーガは今し方まで自分が腰掛けていた玉座を持ち上げる。
そして、その場にいる全員をまとめて叩き潰すべく振りかぶった。
「な、なんという怪力じゃあ!?」
『潰レテ死ネェェェェェェェェェェェェェッ!!』
渾身の力で振り下ろされた石の玉座は、凄まじい激突音を洞窟に響かせた。
土煙がもうもうと舞い上がり、それが晴れたとき、そこにはまったく無傷のカナタたちがいた。
強力な障壁が半球状に拡がり、ゴブリンたちを含む全員を守り切っていた。
『ナッ!? 俺ノ渾身ノ一撃ガ……!?』
『たいした威力ではなかったな』
『ああ、まったくもって温い攻撃よ』
特に活躍していない二匹が自信満々に鼻を鳴らす。
『グ、ググ……!』
オーガは悔しげに歯を軋らせた。
カナタはそんなオーガの様子を見て、つぶやいた。
「なんだか、あなたから見覚えのある術式を感じます」
カナタがその術式を見たのは、王都の下水道でみた悪霊だ。
下水道を汚染する核となっていた悪霊だが、あれを現世に縛り付けていた呪詛と似たものをカナタは感じ取っていた。
「とりあえず解呪しちゃおっか」
『グ、グオオォォォォォォォォォッ!!』
カナタの笑みに本能的な恐怖を感じとったオーガが手当たり次第に落ちているものを投げつけるが、カナタの障壁はその全てを弾き返す。
『何者ナンダ貴様ハァァァァァァァァッ!?』
目前にまで迫ったカナタに、オーガは渾身の拳を叩きつける。
「モフモフをこよなく愛し、モフモフではないものにはそこそこな対応を取る、そんな魔物使いです」
カナタは障壁を解き、オーガの拳に自分の拳をぶつける。
「よいしょー」
どう見ても質量差がありすぎる拳撃の激突は、物理法則の限界を超えて、カナタに軍配が上がった。オーガの巨体が弾き返される。
『ヌオオオオオオオオオッ!?』
大きくのけぞったオーガの足元にはカナタが高速で接近していた。
「解呪ぱーんち」
カナタの打撃には、オーガにかけられた呪詛を破壊する術式が込められていた。
『ガッハァァァァァァァァァァッッ!?』
強力なジャンプアッパーを食らったオーガは天井付近まで吹き飛び、やがて重力に従って落下してくる。
大音を立てて地面に落ちてきたオーガの体からは、不審な黒い瘴気は消え去っていた。
「もう大丈夫かな? 回復魔法かけときますねー」
元々頑丈な体なだけあって、カナタが回復魔法で傷を癒やしてやると、オーガはすぐに意識を取り戻した。
『お、おいどんはいったい、何をしとったんじゃあ?』
朦朧とする頭を振ってオーガは周囲を見渡す。
『お、おお、オーガ様が元に戻っただぁぁぁぁぁぁっ!』
ゴブリンたちが歓声を上げてオーガの元に集まった。
『みんな、いったいどうしたんじゃあ? 巣穴もこんなに拡げてぇ。おいどんはこげな広い部屋なんかなくても寝られるでごわすよ』
どうやら、オーガはこれまでのことをほとんど覚えていないようだった。
詳しく事情を聞くと、フードを被った女に何かされてから記憶がないらしい。
女が何者かは、やはりオーガにも分からないらしく、歯切れの悪い結末となった。
『ほんにすまんこってす!!』
オーガ率いるゴブリンたちの大土下座を、カナタたちは受けていた。
『どうやって詫びれば良いか……。全部おいどんのやったことでごわす! なにとぞゴブリンの衆は見逃してもらえんでごわすか!』
「わたしは部外者なので、モルモ先生はどう思いますか?」
「せ、先生とは気恥ずかしいのう』
モルモはカナタに先生と呼ばれ、気恥ずかしそうに禿頭をなでて、それから咳払いした。
「反省しておるようじゃし、食糧を返して荒らした村の復興に尽力することで手を打つのはどうじゃろうな」
『い、良いんでごわすか!?』
「うむ、おぬしらはワシの魔物として登録されることになるが、問題を起こさなければ処分されることはなくなるじゃろう」
『ありがとうございます! ありがとうございます!』
「礼なら、このカナタちゃんに言うんじゃ。この娘がおらねば、大変なことになっておったじゃろう。操られたお前さんは村を滅ぼし、ゴブリンたちは数を増やしてさらに勢力を拡大し、どこぞの軍隊が出張るまで略奪は続いていたかもしれん」
『ありがとうございます! カナタ様!』
「いえいえ。それより聞きたいことがあるんですけど」
口元に手を添えて、内緒話をするようにカナタは尋ねてくる。
『な、なんでごわすか? おいどんたちにできることならなんでも……』
「お友達にモフモフな子とかいません?」
† † †
「モフモフいなかったぁ……」
『気を落とすな、カナタ』
『カナタ様には我らがおります!』
しょぼーんとなったカナタを、ザグギエルとフェンリルが慰める。
村人たちに謝罪させるため、オーガたちを村に引き連れて帰ってきたカナタたちだったが、事情を知らない村人たちは一時恐慌状態に陥った。
モルモじいさんが説明しなければ大パニックになっていただろう。
その後、オーガたちから謝罪を受け、モルモじいさんが全ての責任を負って魔物たちを監督するということで、村人たちに許してもらえることとなった。
これにて、一件落着である。
「ありがとう、カナタちゃん。みんなカナタちゃんのおかげじゃよ」
「そんなことありません。モルモ先生が最初に行動しなかったら、きっとこうなってはなかったと思いますよ」
「ふふ、引退の前に花を咲かせることができて良かったのじゃよ」
「引退するんですか?」
「ワシもいい年だし、元々そのつもりだったんじゃよ。家財を処分してきたのも、この村に腰を落ち着けるつもりだったからのう」
壊れた建物を手分けして修繕しているオーガたちを眺めながらモルモじいさんは言う。
「それで、カナタちゃんさえ良ければ、ひとつ譲り受けてほしいものがあるんじゃ」
「わたしに?」
「バイコ! おーい、バイコや!」
モルモじいさんが声をかけると、馬車を引いたバイコがカポカポと足音を立ててやってくる。
「この子と馬車を連れて行ってくれんかのう。この馬車は見た目こそ古いが、いい樹を使って作られている一級品じゃ。長旅に馬車はあって困るものじゃない」
「ば、馬車で旅……! 素敵……!」
カナタが前世でこよなく愛したゲームも、魔物と一緒に馬車で世界を旅する話だった。
カナタにとって馬車とはロマンである。
「良いんですか、モルモ先生!」
「うむ、遠慮なくもらっておくれ」
モルモじいさんに促され、カナタは馭者席に座ってみる。
「わぁ」
自分で手綱を握ってみると、隣に座っていたときとは景色が違って見えた。
「どうじゃね?」
「最高ですっ!」
カナタは満面の笑顔で答えて、しかし手綱を置いた。
「でも、やっぱり受け取れません」
「な、なぜじゃ!? 気に食わんかったかのう?」
「いいえ、わたしじゃなくて、バイコちゃんが」
「ヒヒン……」
バイコは悲しそうにモルモじいさんを見つめた。
その目はモルモじいさんと離れたくないと強く訴えていた。
「おお、バイコや……。ワシと共にいたいというのか……」
モルモじいさんがバイコの首を抱きしめると、バイコは切なそうにいなないた。
「離ればなれは悲しいもんね。だからこの馬車は──」
『ふっ! お任せくださいカナタ様! こんな馬車、バイコの力を借りずとも、我が引いてご覧にいれましょう!』
「ええっ!? フェンフェンが!?」
『いや、無理だろう』
無理だった。
バイコと入れ替わりに馬車に繋げようにも、フェンリルの体は小さすぎて輓具を付けることも難しく、そもそも力がなさ過ぎて、馬車はぴくりとも動かなかった。
『ぬおおおおん! 申し訳ありません! カナタ様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
「良いんだよぉ良いんだよぉ」
嘆くフェンリルを撫でられて、カナタはご満悦だった。
「馬車だけでも連れて行ってもらえたら嬉しいんじゃがのう。牽ける魔物がおらんとどうにもならんか……」
「あ、じゃあ、そうします」
「え?」
カナタはアイテムボックスを開くと、難なく馬車をしまってしまった。
「なんともはや。カナタちゃんには驚かされてばかりじゃわい。じゃがこれで、ワシも憂いなく引退できそうじゃ」
「まだ駄目ですよ。モンスター図鑑の二巻を楽しみにしてるんですから」
「ほっほっ、そうじゃったそうじゃった。必ず書き上げるから、いつかまた遊びに来ておくれ」
「はいっ」
そうしてカナタたちは村人やゴブリンたちに見送られ、旅の続きを始めるのだった。
オーガとゴブリンの問題を平和的(?)に解決したカナタたち、モフモフは残念ながら見つからなかったが、まだ望みは残っている。
当初の目的地である聖都に向かって旅立つカナタたちを待ち受ける者とはいったい──
次回「偽聖女マリアンナが死亡フラグを立て始めたようです」






