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第7話 心の欠片『マンボウのカツカレー』②

お待たせ致しましたー

 美味い。


 美味い、美味い。実に美味だった。


 普段から、自宅でカレーを作る翠雨(すいう)だったが。火坑(かきょう)の作ったカレーは桁違いに美味いのだ。


 作り方もすべて見えていたので、翠雨も真似出来なくはない。


 ないのだが、このカレーは至高だった。


 ほくほくのジャガイモ。


 柔らかく、歯で簡単に崩れるにんじん。


 とろけてしまいそうな、玉ねぎ。


 素揚げした茄子とピーマンも、歯に当たったらとろけてしまいそうになったが。岩塩に塩気が際立って、カレーとよく合う。


 やはり、本職の料理人だからか。


 ひとつひとつの仕事が丁寧で、無駄がない。それがこの至高の味わいを生み出したのだろう。


 そして、彼の伴侶となる女性から取り出した『心の欠片』。


 去年の暮れに、夢喰い達に頼んで楽庵(ここ)に運ばせたのと同じマンボウの肉。


 あの時は旬ものではないが、たまたま立ち寄った海際で打ち上がっていたのが見つかり。


 死していたと判別してから、馴染みの魚屋に持ち寄って捌いてもらったのだ。


 だが、今回はそれ以上に心の欠片で生み出したマンボウの肉。


 久しく心の欠片を食していなかった翠雨は、ロースカツのように食べ応えがありそうな、マンボウのカツを。カレーに少し浸してから口に運ぶ。



「んん!?」



 幾度か食したマンボウのように、鶏の胸肉のような歯応えはあるが。


 それ以上に、脂身が強く感じて。舌の上で蕩けてしまいそうだった。市販のルゥだが、スパイシーなカレーととても相性が良くて。


 サクサクとした衣、肉、カレーと楽しんでいけば。終わりを迎えるのはあっと言う間だった。



「美味しー!」



 翠雨の恋人である、紗凪(さな)にも満足してもらえたようで、彼女もぱくぱくと食べていた。



「カレーにスッポンのスープも合いますね?」



 美兎は半分くらい食べ終えてから、セットにと出されたスッポンのスープを口にしていた。なら、と翠雨達もスープを口にすれば。強烈なニンニクの風味があれど、相変わらず優しい味わいだった。



「……美味だったでござる」



 カツはもうないが、カレーだけおかわりを頼むと。猫人の店主は『はいはい』と新しい皿に盛り付けてくれた。



「ふふ。すーくん、本当にカレー大好きだもんね〜?」

「何かきっかけとかあったんですか??」



 紗凪達が笑い合っていると、美兎が聞いてきた。そう言えば、この前偶然会った時はともかくとして。初めて会った時は、伝えていなかったのを思い出した。



「……カレーパンが初めてだったでござる」



 格式のある、烏天狗の頭領の孫として、日々精進していた翠雨だったが。


 明治を過ぎた頃、たまには人間界に行ってみようと人化して紛れた時に。


 東京へ行っていたので、ある行列を見て不思議に思った。まだパンが普及していくらか経った頃だったので、甘いパン以外の香りに吸い寄せられて。


 結果、買ってしまったカレーパンの美味しさに感銘を受けて。


 そこから、カレーライスも登場してからは見事に沼にハマってしまい。


 現在も、カレー行脚なるものをするくらい、好物となっているのだ。お陰で、祖父には興味を失せてた孫が意欲的になったのを安心するくらいだった。



「カレーパンですか? そんなに古いパンだったんですね?」



 あんぱんについては知っていたらしいが、カレーパンの歴史に触れた美兎は、梅酒を飲みながら聞いてくれていた。



「名古屋に来たのも、結構後だし? 今じゃ普通のカレーパンだけじゃないものね?」

「すーくんの最近のお気に入りは、半熟卵入りのカレーパンだもんね?」

「あれは至高でござる!!」



 などと、カレー談義になってしまっていたが。紗凪にも楽しんでもらえたので。


 最後には、彼女からも心の欠片を取り出してもらい、〆のデザートとなったが。


 さすがは、(かんなぎ)の素質を持つ高密度の霊力の持ち主。


 カレーの〆に相応しい、チョコチップアイスクリームの箱を出せる程だった。

次回はまた明日〜

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