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第1話『祇園四条のわらび餅』

新章スタート!


 ここは、錦町(にしきまち)に接する妖との境界。


 ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。


 たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。


 元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵(らくあん)』に辿りつけれるかもしれない。













 祗園(ぎおん)精舎(しょうじゃ)の鐘の声。


 諸行無常の響きあり。




 と言う有名な古典の書き出しがあるのを、美兎(みう)はなんとなく覚えていたが。


 祇園はなんと言うか、別空間に思えた。


 景観維持のために、定期的に修繕された箇所はあるが。煌びやかに見えてちっともいやらしく感じない。


 夜になったら、もっと華やかに見えるだろうなと思うが、宿泊先はここじゃないので少し残念だった。


 小休憩も兼ねて、道真(みちざね)に会いに行く前に、祇園の街並みを軽く歩こうと火坑(かきょう)が言ってくれたので。大きなステージ会館のような敷地のすぐ隣にある、出来立てわらび餅で有名なお茶屋さんに入り。


 ゆっくりゆっくり、京都ののんびりした空気を満喫する。


 それに、大好きな恋人も一緒だから余計にまったり感が味わえた。火坑も響也(きょうや)の顔でにこにこしながら美兎を見てくれているし。


 笑い合っているだけなのに、こんなに楽しいだなんて。


 しかも、実は人間じゃない彼氏が出来るとは思わないでいたが。



「楽しんでいただけてるようで良かったです」

「響也さんが一緒だからですよ?」

「! ふふ、そうですか」

「お待たせ致しました。わらび餅セット二点とお薄です」

「!」



 わらび餅は、市販の半透明やピンクの白玉みたいなのや四角ではなく。黒糖を使ったような黒くて、少し透明感があるものだった。


 これが、本場のわらび餅なのだろうか。



「左の花のようにかたどってあるのがきな粉です。匙でお好みの量を、よそったわらび餅にかけてお召し上がりください。右は黒蜜になります」



 では、と店員の女性は帰っていき。美兎もだが、火坑も着物屋で事前に渡された布の前掛けをつけてから食べ始めた。



「! トロトロ……ほとんど歯がいらないですね!」



 つるん、と飲めるような喉越しに、柔らかさ。


 きな粉もむせることなく、きめ細やかでいて黒蜜も優しい甘さだった。箸でつるんと持ち上げて、黒蜜の小皿に軽く浸して、仕上げにきな粉を取り皿に置いたわらび餅にかける。これが、非常に美しく、金粉をかけたように見えた。


 お茶のお薄も非常に飲みやすい。昔、大学の講義で日本文化を暇だったから受講したが。茶道を学ぶのは良かったが、お抹茶はおいしいと思えなかった。


 講師の先生はともかく、素人がたてたものが美味しいと思うのが無理はあるが。おまけに半期の講義だったから。


 だから、このお薄はとても美味しく感じたのだ。



「今日はあまり並びませんでしたが、ここは人気店だそうですからね? 美味しい出来立てを食べれてよかったです」



 お茶屋なのでしょっぱいものはないが、火坑から北野天満宮に行ってから遅めの昼食にしようと提案されたので頷く。


 劇的にお腹が空くことはないが、適度に甘いものを食べたせいか、ちょっとしょっぱいものを食べたい気分ではあったのだ。


 ここのわらび餅はお土産用もあったので、影にいる真穂(まほ)に食べさせてあげようと購入したのを。小径に入ってから彼女に渡したのだった。

次回はまた明日〜

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