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第9話 化け猫の告白

お待たせ致しましたー

 まったく、わざとなのかそうじゃないのか。


 風吹(ふぶき)は送ることになった、想い人の人間の女性。田城(たしろ)真衣(まい)を背負いながらとりあえず、地下鉄の名城線に向かった。


 他に荷物もあったし、抱き抱えるよりも背負う方がいいと思い。徐々に濃くなる人肉の匂いに耐えながら、まずは改札で駅員に掛け合い。


 酔って寝てしまったので、支払い等を改札口で済ませてからホームに向かう。


 地味に目立つが、仕方がないので視線は総無視。


 匂いが濃くなっていくにつれて、風吹も気分が悪くなってきたが。役目をまず真っ当せねばと、なんとか我慢した。


 植田(うえだ)までの乗り換えの間も。


 比較的端が空いていたので、その席に下ろしてから休ませて。着いたら、また背負ってを繰り返して。


 途中、気を遣ってくれた人間もいたので、スムーズに駅まで行けた。はるか昔もだが、争うだけの人間だけじゃないのは、風吹にとって嬉しく思えた。


 だから、あの大戦で血肉の臭いがダメになっても。風吹は人間がすきなのだ。


 食べる対象ではなく、交友する側として。


 矛盾はしているが、ここ最近変化もあった。


 田城と再会してからだが、少しだけ人肉の臭いに耐性が出来てきたのだ。


 今日くらいの、ちょっとした混み具合だったら気分が悪くなくなった。きっかけが、ひょっとしたら彼女かもしれないと、そう思えるくらい。


 だって今も、背負っているとは言え。密着しているのに、彼女の血肉には気分が悪くならない。むしろ、花のような良い香りがするのだ。シャンプーとかの匂いかもしれないが。



「……さて、と」



 植田の駅に降りるのも久しぶりだったので、適当に地上の出口から出たが。田城の家はこのままだとどこかわからない。


 同期の美作(みまさか)が言ったように、匂いをたどることも出来るが彼女を背負っているので、紛れてしまう。


 なら、目立ちにくいこの時間なら妖術を使えるかもしれない。



「……導け、導け」



 目を閉じて、意識を巡らせ。


 紡いだ言の葉を頼りに、田城の家を探る。


 すると、風吹の頭の中に地図が浮かび上がり。目を開ければ、赤い糸のようなものが道しるべをしてくれていた。


 それに沿って、田城と荷物を落とさないように背負って、ゆっくりと歩き出した。


 道は住宅街に向かう感じで、血肉の臭いがあまりしない。比較的住みやすそうだな、と思ったらそれらしきアパートの前に到着して。


 部屋の前に着くと、いい加減田城を起こそうと声をかけた。



「田城さん。……田城さん、起きてください。着いたっスよ?」

「……んぅ? にゃ〜? 不動(ふどう)さぁん?」

「その不動です。家に着きましたよ?」

「あにぇ〜? 私ぃ、場所教えましたっけ??」

湖沼(こぬま)さんに聞きました。部屋の鍵出してください。てか、立てます……?」

「えーとぉー」



 眠いのか、酔いがまだ回っているのか、相変わらず可愛過ぎる舌ったらずな声だが。とりあえず、上着のポケットから鍵を出してくれたので、受け取ってからドアを開けた。


 中は一人暮らしのワンルームで、綺麗に片付いていた。界隈に自宅がある風吹とは大違いだった。



「……じゃ、俺はここで」

「え〜〜、せっかく来たんですから。上がってくださいよぉ〜〜」

「田城さん、まだ酔ってます?」

「ひとりじゃさみしいんですぅ〜。不動さぁん、帰らないでぇ」

「……俺、男なのわかってます?」



 さらに言うと人間でもないのだが、とは言えないので。


 そこをグッと堪えていると、田城は玄関に座り込んでふにゃふにゃの笑顔になったのだ。



「知ってますぅ〜〜、不動さんはぁ、素敵な男の人ですもん!」

「……田城さん」



 たしかに、酔って本音が出まくり、店でも告白のようなのをされてしまったが。


 未だに酔ったままでも、本音を言ってくれるのだ。嬉しくないわけがない。けど、自分は人間じゃない。かつては屍肉を貪っていた妖と呼ばれる化け物だ。


 それを知った上でも、受け入れてくれるかわからない。


 だが、彼女の想いにも応えたい自分がいるのも嘘じゃない。



「不動さんが〜すぅき!」

「! 俺の正体、知ってもですか?」

「しょーたい?」

「…………俺、人間じゃないんです」



 完全に人化を解かずに、目を猫目にさせて、猫耳を出してから田城と向き合った。


 田城はポカンとしてたが、すぐにまたふにゃふにゃの笑顔になった。



「……猫しゃん?」

「……半分あってますけど。化け猫ですよ、火車って」

「……それが悪いことなんですか?」

「……え?」



 もう一度田城に顔を向けると、彼女はふにゃふにゃどころか苦笑いをしているだけだった。おそらく、今ので正気に戻ったのかもしれない。



「……私は。不動さんが好きです。何者でも、いいんです」



 完全に酔いが覚めてしまったらしく、風吹は背筋が凍るような感覚を得た。


 けれど、田城はまだ言葉を続けてくれた。



「人間じゃなくても、なんでもいいです。それだけじゃ、ダメですか?」

「……化け物ですよ?」

「けど、不動さんは不動さんです」



 そして、座ったままなのに風吹に抱きついてきたのだ。


 間近に感じる、好きな人間の匂いに。血肉とは違う匂いで酔いそうになった。



「田城さん!?」

「なんだっていいんです。私は気にしません」

「……後悔、しないんですか?」

「絶対、と言い切れないのは申し訳ないけど。今は言えます。あなたが好きです」

「……俺も、です。真衣、さん」



 風吹も生まれて初めて。生きている人間を抱きしめて、幸せな気持ちになれたのだった。

次回はまた明日〜

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