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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
神の涙
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私の愛しい悪魔2

ソフィアは矢を番え、一つ、二つとスノウへと放った。彼女は右へ左へと身体を揺らし、剃刀の鋭利さ宛ら、鋭い足捌きでソフィアへと迫った。彼女が動くたびに地面に敷かれた積雪の白さとは相反した影のような黒煙のような煙を放っていた。影から影へと彼女は瞬時に移動し、後退しながら矢を射るソフィアへと距離を詰める。 

番えた矢を放つたびに、その矢は目的を成すことはないのだろうとソフィアは感じる。勿論、ソフィアが放った矢は的確に目標へと飛んでいたし、相手が人間ならば簡単に射止めていたのだろうが…。残念ながら、目の前の光景を見ることでその期待は薄れていく。弧を描くことなく真っ直ぐに飛ぶ矢が掠りもせずにスノウの横を抜けていく。その都度、彼女は迫り、ギラリと光る短剣の切っ先を伸ばす。ソフィアはこれ以上逃げ切ることは出来ないと悟り、弓を背中へと備え、腰から剣を抜いて振り下ろした。

一瞬の不意打ちだが、スノウは仮面のガラス構造の瞳を光らせながら、腰を低く沈め、裏手に短剣を握れば、ソフィアの一撃を地面へと受け流した。見かけによらず怪力(半吸血鬼としての力だが)のソフィアの剣は、水のように皇かなスノウの短剣の輪郭を撫で、雪の地面へと叩きつけられた。舞い上がる粉塵で視界を奪われた刹那に、その粉末を裂くような閃光がソフィアに向けられる。上手く顔をずらし、その閃光が空を切るのを感じるまもなく粉塵の中から現れたスノウの蹴りを反らした顔で諸に受けることになったが、いまだに呼吸をしているだけで吉としよう。身体は浮き上がり、冷たい岩陰に叩きつけられる。

「良い反応ですね。ダンスの相手としては問題なしです。私と死のダンスを踊っていただけますか?」

転がるソフィアを見下ろしながら、スノウはまるで地面を擦るほどの長いスカートを捲り上げるような素振りで両手を広げて片膝を僅かに曲げて優雅にお辞儀した。

ソフィアは、鼻から滴る血を腕で拭い(まだ、体の中に血が流れていることには自身でも驚いた)ながら、無垢な笑顔を向けて答える。

「勿論、喜んで」

ソフィアは立ち上がり背後を見る。先ほど背中をぶつけた岩陰には、また頭を垂らすように鎖が揺られている。ソフィアは、それを岩陰から引き抜くと両手に巻きつけた。

ソフィアの短い呼吸が漏れた刹那に、スノウは影を散らせ、一瞬にしてソフィアに詰め寄った。裏手に構えた短剣をソフィアの首筋目掛けて叩き込む。剣を持っていたならば防御は間に合わなかっただろう。ソフィアは鎖を巻きつけた鉄の拳で短剣を受け止めた。スノウは足を擦り、止められた短剣を早業で左手へと移し変え、再び切りつける。ソフィアはそれも受け止める。

スノウは、短剣を自身の背後へと回し、左手、右手、自由に斬撃の軌跡を描いた。どちらから飛んで来るか分からない恐怖に堪えながら、ソフィアは防ぎきる。スノウは自身の攻撃を防ぐソフィアの反応と視力の良さ(と言うよりは動物的な勘が冴えていた)に驚かされつつ、短剣を同じように背中に回せば、密かに隠していたもう一本の短剣を握り、両手を振り抜いた。手品のように洗練されたその技術に、自身が第三者ならば感嘆の吐息と拍手を送りたかった。ソフィアは、咄嗟に身体を縮めて攻撃を避ければ、身体を捻り、裏蹴りをスノウの腹部に叩き込んだ。スノウの体が背後へと浮き上がる。この程度では致命傷どころか驚かしただけでダメージにもならないだろう。

スノウは、一息つこうとふら付き揺れる身体を持ち直した刹那に、自身の右手に重い鉄の感覚を覚えた。鉄が擦れる無機質な音に視線を向ける。そこで漸く、自身の腕に鎖が巻き付いているのに気が付いた。

「まだ、序曲でしょっ?」

ソフィアはニヤリと笑みを向け、自身の左手からスノウの右手に巻きついた鎖を引き込んだ。スノウの体がくるりと回り、ソフィアへと引き寄せられると、ソフィアは右手を振り上げ、鉄の拳をスノウの仮面へと思いっきり、容赦なく、一片の慈悲や自愛もないくらい本気で叩き込んだのだ。スノウは地面へと叩き付けられ、その衝撃に白雪はわなく。硬い仮面は砕けて、ガラスの目玉が銀砂とかして粉末に紛れた。

それでもやはり、トドメとは行かなかった。スノウは再び影となし、ソフィアから距離を置いた場所に立っていた。

ミルク色の素顔を青白い手で覆う。長くしなやかな指の隙間から、金色の…月のごとく金色の瞳が光の下で陰る事無く揺らいだ。怒りに打ち震える獣のような呻き声を漏らし、スノウはソフィアを凝視する。

ソフィアは滴る汗をひた隠し、恐怖で震える肩を吐息で打ち消し。その瞳を睨み返した。

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