生存本能だよ
木で作られた扉。外枠を金鍍金で彩られた脆い扉は、リアナとジオの蹴りで倒れた。固定具は光沢を放つも最早それはガラクタその物だ。無残に床へと平伏した扉が二人の視界を開け放つと、目の前には数人の兵士が剣を振り上げて、リアナ達目掛けて駆けてきた。
二人は剣を振り上げて剣を受けた。鉄と鉄のぶつかり合う鈍い音が響く。リアナが一人の兵士を切り伏せると同時に、白狼はその背後から大剣を振るった。白狼は、間一髪、紙一重でその剣を避けるリアナの腹部に蹴りを入れた。リアナの小さな呻き声を聞き、動きが止まるのを一瞥した後に、その振り払った大剣を離し、その手でリアナの首を掴み上げる。相変わらずの怪力に驚く暇も無く、リアナはそのまま背後の机の上へと叩き落された。又もや高級そうな金メッキに彩られた家具が破壊される。木の軋む様な音と共に、鉄が曲がる音がする。それが自身の骨があげる悲鳴だったかもしれないし、ただ机の外郭だったかもしれない。どちらにしても、リアナは呼吸が止まるほどの痛みと衝撃に堪えねばならなかった。
かはっ――
小さな吐息が口から嗚咽するように漏れた。その様子を見下ろしながら白狼は、楽しげに言葉を紡ぐ。
「お前は不屈だな、獅子王。だが、いくらお前が気高くとも、喰らい付いた狼の大牙は離せん。この生存競争は私の勝ちだな」
白狼は、リアナから手を離し、傍に落ちていた大剣を拾い上げた。
「ぬおおおっ」
敵の兵士を振り払い、ジオは白狼の腹部に飛び込んだ。白狼はバランスを崩し、リアナの心臓に突き刺さるはずの大剣は大きく目測を外した。リアナの肩の上の床を突き刺した剣はそのまま、白狼はジオの渾身のタックルを受け、廊下の外へと転がり飛んだ。
「老いぼれが…」
白狼は兜を持ち上げ隙間から血反吐の唾を吐き出し、背中を向けて歩む。
白狼を眺めるジオの背後から体勢を立て直した兵士が切り掛ってきた。
「ジオ、後ろにっ」
リアナは身体を起こし、白狼の剣を拾い上げ、ジオの背後から忍び寄っていた兵に剣先を突き刺した。
滴る流血が割れた甲冑から流れる様は、気味が悪かったが、リアナにとってはそれは、何度も見飽きた大道芸みたいなもので、その光景が視界に入ることすらなかった。
「リアナ様、無事か?」
「ええ、ありがとう。あいつは?」
「廊下を出て、階段を上に向ったようじゃ」
「屋上ですわね。追いかけますわよ」
痛む背中を伸ばしながら、リアナは再び白狼の後を追った――――




