招かれざる客だ
ソフィアが放った矢は何かに遮られる事無く進んでいく。そこにいた筈のスノウは身を屈め、その矢を軽々と避けた。同時に切りかかるジャンヌの腹部に蹴りを見舞っては身体を器用に捻り、ジャンヌの反撃を避けた後に再び二度目の蹴りを入れた。
まるで人間らしい動きをしない彼女は、怯むジャンヌを押し倒し手に持ったナイフを振り下ろそうとした。
ソフィアは駆け出し、スノウの無防備な側頭部に剣を叩き込もうとするもスノウは又もや攻撃をかわし、ジャンヌに突き刺そうとしたナイフをソフィアへと伸ばした。ソフィアは自身の命を刈り取ろうとする腕を避けるどころか正面から向き合った。彼女の手を取り、両足をかける様に飛びあげると見事にスノウの腕の関節を捕らえた。
太い巨木が嵐に靡き、悲痛な軋みを生み出すように、スノウの腕もまた悲痛な音を漏らしている。ぎりぎりと骨が軋み磨り減るほどの力でソフィアはスノウの腕を締め上げた。スノウをジャンヌから引き離し、ソフィアは腰を僅かに浮かせた。
ばきっ!
硬い何かが砕けた音がする。ソフィアは気味の悪い感覚に表情を歪めるも、その手を離すつもりも無かった。
起き上がったジャンヌが剣を手に取り。ソフィアによって動きを封じられたスノウの胸に剣を突き刺そうと腕を振り下ろした。
黒い霧が舞い上がる。闇色の砂が微かなそよ風も逃す機はないと言うほどの軽い、軽い闇色の砂。
ジャンヌが振り下ろした剣は冷たい地面に突き刺さり、ソフィアの手からはその感触すら残らなかった。
「少し、甘く見すぎていましたか」
地面に伏していた筈のスノウは、二人から数メートル離れた場所に立っていた――――
――――
リアナはジオを引き連れて、城の中へと歩みを進める。長い廊下に並んだ窓は、外の轟音によりびりびりと軋みを上げている。外の騒々しさに反して、城内は誰もいないかのごとく静まり返り、リアナとジオに一抹の不安を植えつけるのだ。
もう、白狼は逃げたのではないか?何処か遠くへと走り去り、此処ではない何処かで再起を盛ろうと、悪知恵を働かせてるのではないか…と。
今にも割れそうな窓が悲鳴を上げる度に、警戒心を強め、一つ、一つと部屋を確認する作業にも飽きてくる。
階段を駆け上がり、最上階にまで達したときに、リアナは彼女の姿を見た。長い廊下の突き当たりに黒い鎧が立っている。彼女は手を拱く様に、リアナ達、二人の姿を眺めた後に踵を返して再び姿を消した。
「あの様子。罠かしら?」
リアナは、剣を握る指に一層の力を込めて呟いた。
「しかし、行くしかあるまい。わしが援護しますぞ」
ジオが一歩先に出て、廊下の突き当りを覗き込む、誰もいないことを確認すると廊下の奥へと視線を向けた。長い廊下の先には扉が一つ。
リアナとジオは足を速め、駆けて行けば、その扉を思いっきり蹴り飛ばした。




