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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
永遠の森
80/111

灰の街2

寒々とした空の下でジャンヌは憂鬱な感情を抑え付けた。薄暗い雲は、北から流れ込んでくる。厚い雲に覆われた空は、日の光を見つけることが出来ずに今にも泣き出しそうだった。

「此処のお店、ぼったくり」

小さな籠に食材を詰めて戻ってきたソフィアは、不満そうな顔で呟く。

「どうしてそう思うんだ?」

「定価がおかしいもん。芋が南部の倍以上なんて」

「この辺では、食料が手に入り難い」

「だからって、芋は手に入るでしょう?」

眉間にしわを寄せて愚痴を零すソフィアを宥めるジャンヌの目に鉄の剣が映る。それは、数人の男たちの腰で無防備に揺られており、冷えた冷気で、より鋭さを強めているように見えた。

「ソフィア、路地に入れ」

ジャンヌの言葉にきょとんとしたソフィアだが、真剣な横顔を見れば疑問を投げ抱える気持ちすら失せた。

「狼の旗印。ボニファティウスの兵達だ」

ジャンヌは路地の影に身体を滑り込ませて、意味も分からずに食材を抱えているソフィアへと言葉を紡ぐ。

「くそ、何をしにきたんだ」

ジャンヌがイラついた様子で地面の雪に目を伏せる。兵達は、気だるそうな様子でジャンヌたちが潜む路地を横切って行くとまっすぐに宿へと向かい。数人で宿を包囲した。二人の兵が扉を開き中に入ってから数分と経たずして、シルヴィアを引き摺り出す。

「報告と違う。3人いるんだろう?4人だったか?」

「3人と犬の一匹だ。周囲を探せ」

「それにしても偉く美人じゃないか。北部の貴族はお嬢さんみたいに美人さんばかりかい?」

兵の一人がシルヴィアに顔を寄せる。シルヴィアは一瞬、顔を歪めると思いっきり相手の鼻先に頭突きを見舞った。

「このくそアマ!」

鼻血が噴出し、指が赤く染まる。逆上した兵がシルヴィアを殴ろうとするも、もう一人の兵が制止した。

「この女は後の二人を誘う為の餌だ」

「嗚呼、分かったよ。連れて行け」

暴れるシルヴィアを二人の兵が苦戦しながらも引き摺り、そのまま去っていった。


ジャンヌ達は敵の捜索の目を潜りながら門へと駆ける。言うまでもなく、唯一の出入り口である門は敵と感じの悪い衛兵が目を光らせており、掻い潜るのは不可能だった。

「どうするの?」

ソフィアが囁く様にジャンヌに問う。

「今、考えている」

「シルヴィアのこと。助け出さないと」

「勿論助ける。少し、考えさせてくれ」

今にも剣を片手に飛び出しそうなジャンヌの肩にソフィアが手を伸ばそうとした刹那…。

「こっち」

背後から声がしてぎょっと振り返ると小さな女の子が此方に手招きしていた。

「こっちから出られるよ」

女の子は二人に呼びかけながら木柵の下に掘った穴からするりと抜け出した。ソフィアも続き、ジャンヌも後に続いた。

赤く湿った土の上をすり抜けるソフィアの背後からジャンヌが呻いた。

「すまない、少し、手を貸してくれ」

木柵と赤い土とに挟まれた上半身が身動きとれず身悶える。どうやら胸がつかえて抜けなくなったようだ。ソフィアはこのままにしておいてやろうかという黒い考えが頭を過ぎるも直ぐにジャンヌの手を掴み、強く引き上げた。

少女は二人が抜けたのを確認すると再び走り出す。ソフィアとジャンヌも少女の後に続いた。

「パパ」

暫く走り。灰色の雪が積もった小さな丘を越えると少女は荷馬車の隣に立つ男に飛びついた。

「大丈夫だったかい?そちらの二人は?」

男は娘を抱き上げながらジャンヌ達に視線を向けた。

「その子に助けられました。兵達に目を付けられて」

「嗚呼、南部の子か。南部の娘は高く売れるとか何とかで…。今のご時勢では良くあることさ。僕も、娘を守るので精一杯だからね。君達も此処から早く離れたほうがいい」

「いえ…。友達が一人、やつらに捕まって…」

「それは…残念だ。やつら、この近くの森に住み着いてる。探すのは簡単だろうけど、助け出すのは止めた方がいい…。そういえば、此処に来る途中に獅子の旗印を見かけたが…彼らが見つけてくれるのを祈るしかないな」

それだ。獅子の旗印、恐らくは獅子王の討伐軍だろう。事情を話せば助勢してくれるかも知れない。

「すいませんが、私達の頼みを聞いていただけないでしょうか?」

ジャンヌは微笑を男に向けながら言葉を放った。



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