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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
光の戦い≪ブライト≫
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光の戦い

ジャンヌ達は、敵の陣の中央を打ち破った。開いて拒まない門の中へと数十人の兵達が流れ込んだ。外の騒音とは違い、中は不気味なまでに静かだった。

「王は何処に行った?」

兵の一人が呟いた。確かに、ジャンヌ達よりも先に、此処に到達したのは王だ。彼はまだ中で奮起しているものだと思っていたのだが。まさか、死んだのか?

「別れて探そう」

ジャンヌは、ソフィアと兵達にそう告げた。そして、ばらばらになって《古き城》の中にいるであろう、敵と獅子王を探した。

《古き城》の中は、暗かった。寒空の下で淡い太陽の光を受ける箇所は少なく、暗い廊下に散らかった瓦礫で何度も躓きそうになった。数分、ジャンヌは静寂の中を歩いた、崩れ欠けた壁を撫でるように、細い指を這わす。指先には、積もった雪の様に、灰色の埃が付着していた。

もう、居ないのだろうか?

そう内心で思いながら、廊下に並んだ窓を覗き込んだ。朽ちた中庭を見下ろす、埃を被った老城の灰色の石路を眺める。すると、赤い鮮血が小さな円を描いて伸びていた、それは線となり、足跡のように、ジャンヌに道を示す。その赤い線は、城の横に立つ、屋根が崩れた、小さな塔の入り口まで繋がっている。


ジャンヌは、駆けた。長い廊下を走り抜け、硬い階段を飛び降りて、中庭に走る。赤い鮮血を辿る様に、その塔へ。扉は施錠されていたが、ジャンヌはその扉を目一杯の蹴りで、無理やり開く。暗い塔内に、淡い光が注いだ。扉に積もった灰色の埃が、その光に当たり、まるで銀砂のように輝きを放った。

階段は螺旋状に、上と下とに別れている。塔の上は、屋根が抜けていたし、行き止まりだ。敵が潜んでいるとすれば、下の可能性が高いだろう。ジャンヌは、剣を抜き、ゆっくりと塔の下へと、静かに、慎重に歩みを進めていく。

暗い階段を永遠のような感覚で下りた。寒さで悴んだ手を暖めるように、息を吐き出す。白い靄が、目の前に浮かび上がる。もしかして、自分はこのまま永遠に折り続けるのだろうか。そんな、有り得ない心配は、大抵、杞憂へと消えていく。今回も例外ではなかった。

地下には、部屋が幾つもあった。それはどれも、書斎のような場所で、高級な机や、大量の本が並んだ棚が並び、地上と違い、無機質さとは程遠いほどに生活感が見て取れた。ジャンヌは、部屋の隅の暖炉へと歩み寄り、吊るしてあった蝋燭で、暖炉に火を灯した。照らされる部屋の中、やはり微かに人の気配がする…。

ジャンヌは注意深く辺りを見渡した。そして、隣の個室で揺らぐ影を見た。再び剣を構えて、その部屋に続く、道に足を向け、駆け出した。

ジャンヌが、部屋にたどり着いた時に、影は、その部屋の階段を駆け上がっていた。ジャンヌも、慌ててその後を追う。長い階段を今度は駆け上がり、地上から零れだす、日光を感じ取る。ジャンヌが、光の下へと辿り付いたと同時に、目の前には、巨大な刃が飛んで来た。それを咄嗟に避ければ、転がり、距離を取る。

目の前には、黒い鎧の大剣を持った白狼が、顔を覆った兜の下から、呼吸を荒げて立っていた。

ジャンヌは、剣を構えてゆっくりと距離を詰めていく。


ジャンヌの横振りの斬撃を、身体を反らせて避けた白狼に、追撃を打ち込む。ジャンヌは軸足を支えに身体を回し、先程の横振りの反動も加えての一撃。その素早く、流れるような剣速に、誰もが息を飲むだろう。

寸分の狂いもなく、白狼の横腹へと向けられた軌跡が、その役目を果たすことは無かった。

閃光のように走る軌跡は、白狼の手によって止められた。文字通り、手で止めたのだ。

くっ――――

驚き、焦るジャンヌの前に、再び、巨大な刃が襲い掛かる。ジャンヌは剣を敵の手から引き抜き、膝を曲げて避ける。片手で、大剣を振り回すなど、聞いたことが無い。

そう考えるジャンヌが時間を与えられるはずもなく、首を掴まれれば、そのまま背後の壁に叩きつけられた。レンガと石で固められた壁は、ミシリと重く、屋根に溜まった埃や砂が、はらはらとジャンヌ達の足元へと落ちる。ジャンヌが、白狼の腹に蹴りを一撃入れようと試みるも、それよりも先に、自身の身体が浮き上がるのが分かった。そして、再び背中に衝撃が走った。今度は机に叩きつけられたのだ。埃被った机は、崩れなかったが、今にもその4本の足を折り曲げて床に伏しそうに、ギシギシと軋みの悲鳴を上げている。

けほっ――――

無意識に咳き込んだ、曇った吐息が漏れる。顔を上げたジャンヌは、身体を転がしながら、机から滑り降りる。白狼が振り上げた大剣が、ジャンヌがいた場所を叩く。机は、真っ二つに叩き壊された。

自身の大剣に手応えを感じないと知れば、鎧の足と大剣を引き摺るように、ジャンヌのほうへと歩み寄る。ジャンヌは、強く剣を握り締め、眼前の敵に一撃、二撃、三撃……と打ち込んでいく。白狼は見事にコレを防ぎきると、鉄の拳でジャンヌの頬に拳を叩き込んだ。

ジャンヌの身体がバランスを崩す。そして、彼女の無防備になった腹に、白狼は前蹴りを打ち込んだ。

ジャンヌは、扉を貫き、部屋の外に投げ出される。長い廊下、どうやら、此処は《古き城》だ。地下を通って戻って来たのだろう。

ジャンヌは、揺らぐ意識の中、剣だけは離さずに、這うようにして距離を取ろうとしたが、簡単に足を掴まれ、引きづられてしまい、そのまま階段へと投げ飛ばされた。

階段を転がり落ちる間、自身がどんな体勢か、全く分からなかった。分かったのは、全身の痛みと、敵が剣を振り上げている事だけだった――


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