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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
光の戦い≪ブライト≫
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ストロング砦1

ソラルは羊皮紙を取り出し、言葉を綴った。此れはソラルにとっての日課でもあり、使命でもあった。自身が死んだ時を想像して言葉を並べていく。王や国への恨み言、騎士として立派に死ねぬこと、喧嘩別れしたままの父への謝罪、その他諸々。言わば此れは遺書だ。名も無き男の馬鹿げた遺書。こんな無駄な手紙を誰かが読んでくれるかも分からない、恐らくは、誰にも届かぬ言葉として、風に流され、静かに土へと返っていくのだろう、それでも止められない。ソラルは、国と王の言葉を背負ったあの日から、日々書き続けた。壊れていく心をつなぎとめるように、それを片時も放さず身に着けている。

「センチュリオン、聞いてください」

唐突に背後から聞こえた声に、驚き慌てて羊皮紙を懐に仕舞い込む。

「どうした?何か問題か?」

ソラルは立ち上がり、従者の男を見た。華奢な男で、みすぼらしい容姿の男。戦場とは無縁の男の容姿だが、彼は生憎と戦場に居る。

「問題も何も、他の連中がブチ切れる寸前ですよ?ストロング砦を落せと白狼に言われて来て見れば、貴方が命じたことは、ラッパと太鼓を持って一日中、下手糞な音楽祭ですよ、俺たちは森の音楽隊じゃない、敵を殺しに来たんだ。何時、戦えるんです」

部下たちにこっ酷く扱われたのだろう、彼は頬に殴られたような痕を残していた。本当に気性が荒く、御しがたい連中だ。奴等と比べれば、南部一の荒馬を乗りこなす方が容易いだろう。

「ああ、何度も説明しているが、どうやらまた説明しに行く必要があるようだな」

ソラルは、内心で舌打ちした、何度も何度も。


「出てきやがったぞ、カマ野郎。ビビッてねえで、壁でも上るなりして、さっさと砦に砦に踏み込めば良いんだよ。いつまで俺たちに森の音楽隊ごっこさせやがる」

部下の荒々しい野次が飛んだ、それに釣られて、ソラルの四方から罵倒が飛び交う。

「聞いてくれ、お前たちの極小の脳みそにも届くように説明するが、ストロング砦は堅い、この人数じゃあ落とせない。俺たちは100人、相手は400人だ。どっちが多いか分かるだろう?」

「なら、何故、敵は迎え撃って出ない。俺たちにビビッてるからだ」

「違う、森に居る俺たちの数が分からないからだ、敵は俺たちの方が多いと考えてる。だから、出来るだけラッパと太鼓をでかく鳴らせ、出来るだけ喧しく、特に夜にはな」

「何時までだ!?」

「その内、敵が来るはずだ。説明は以上だ、この場は俺がボスだ、文句を言うな。お前らは俺が良いと言うまで子リスだ」

ソラルは踵を返して部下たちに背中を向けた。その内それも出来なくなる、あまり時間は無さそうだ。彼らは、キレたら抑えが利かなくなる。馬鹿で、不潔な北部の異教徒どもめ。

ソラルは苛立ちを感じながら、自らの居場所、天幕の中へと戻る。


その後、暴走寸でのゴリラ達の群れの中に天使が舞い降りた。

「お前達は一体何がしたいんだ。俺達の家を囲んでの演奏会か?余所でやってくれ、お前らの芸術的センスには頭を悩ませるよ」

ストロング砦から現れた男。名を、サー・ホラスと名乗った。ホラスは数人の護衛を引き攣れ現れて、話がしたいと告げた。無論、ソラルは待ちに待った機会に食い付く。

「話がしたかったんだろ、なら、さっさと用件を言え」

ソラルは、出来るだけ無感情に告げた。此方が数で劣っているのを悟られたくない。そんな彼の言葉に、ホラスは苛立ったように言葉を告げる。

「お前らの下手糞な音楽で寝不足だ、だから明日、お前達を殺す。理解したか?」

「なんだ、自ら死亡宣言するために此処まで来たのか?律儀な奴だな。だが、お前達に勝ち目は無いぞ。砦を600人で包囲している」

その数を聞いて、ホラス自身は表情一つ変えなかったが、背後の護衛は違った。恐怖で眉を微かに引き攣らせたのが見えた。

「大嘘をつくな、数が多いなら何故攻めてこない」

ホラスは、嘲笑するように鼻息を荒く飛ばせば両手を広げて煽って見せた。

「見方を変えたんだよ。大事な戦いが控えてる、別にお前らだって、こんな砦の一つで命を投げ出す必要も無いだろう。今すぐに、砦を明け渡すなら、全員無事に家族に会えるぞ。拒否するなら死ね」

「はっ、ははっ、俺は騎士だぞ、お前らみたいな異教徒に背中は見せない、今夜は良く休んでおくんだな。明日、森の音楽隊は解散だ。地獄で下手糞な音楽でも垂れ流してろ」

ホラスは、護衛に視線を向ければ踵を返して、天幕の方へと歩み出る。その眩しいまでの頑固な背中に苛立ちを覚えたソラルが声を張り上げる。

「騎士道か、笑わせるな。そんな物と命を引き換えか?お前の騎士道で、部下までも死ぬんだぞ?」

「俺はお前を、理解できない」

ホラスは退室する間際に、再びソラルに振り返り、哀れみを示す。

「そうでもないぜ?」

口を開いたのは、ソラルではなく、背後に居たホラスの護衛達だった。彼らの一人が剣を抜けば、ホラスの背中を強く突き刺した。鮮血が飛び、天幕が赤く染まる。

「お前と心中?笑わせる。俺達は御免だぜ」

護衛は力なく地面に息絶えたホラスを見下ろし、剣を鞘に収めれば、言葉を継げた。

「交渉の続きを始めよう」







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