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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
光の戦い≪ブライト≫
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リアナ

早朝、リアナは考え事をしていた。終わらない争いに振り回されて、もう何年経ったか。いつ終わるのか。岸壁にそびえ立つ北部の城、獅子王の城を見上げる。≪嵐の終わり≫そう名付けられた城は、誇り高く、自らが大きな山脈のクレバスとなって、多くの争いごとを見届けてきた。雪が積もり、凍る大地に飾られた白い城の壁、節目の窓から零れる暖炉の灯り、城の隣には雪融けの巨大な滝が城を掠るように永遠と流れ落ちている。

「リアナ様、どうなされた」

サー・モルトがリアナに問いかける。彼は凍傷で片方の耳と指の一本を失っていた。顔には額から口元に掛けて、大きな斬り傷が深く刻まれており、赤黒く変色していた。外見から年配に思われがちだが、結構若かったりする。

「別に、さて、行きますわよ」

リアナは地面を蹴り上げ、馬に跨った。凍りついた地面は、リアナの足元で軋むような、だらしない音を響かせる。

「目的地は≪氷が落ちる≫城でしたわよね?」

「はい、その城の城主、サー・クイテルと共に、敵の部隊を討てと、獅子王から指示をいただいております」

父バルレルの狙いは分かる。ブライト≪光の戦い≫に備えて、兵力を保ちたい事、今のうちに恩を売って、盟主達との信頼関係を可能な限り、強めたいと言う事。ギュンテル家がこれまで北部総督として、北部を監視し反乱を鎮めてきた強さが、諸侯との結束の強さだった。その強さは、些細なことでは崩れたりしないだろう。

然し、今回は、敵の大凡の数が分からない。誇張されているかもしれないし、あるいは……。指導者も姿が分からない。リアナ達は、敵について何も分からなかった。ただ分かっているのは、幼い頃に、乳母から聞いた昔話のお化け。布団の下から現れて、どこかに連れ去ってしまう、そんな得体の知れない恐怖が北部や南部の人の意思を支配していると言う事。馬鹿げていると思うかも知れないが、人は得体の知れない物を恐れるのだ。それが力を持っていると分かると尚更に。自身の生活や命までも奪いかねない、布団の下のお化けが、身近に忍び、息を殺してその時を待っている。気が気ではない。

リアナは背中や首筋に這う様な肌寒さを覚え、コートに深々と身体を押し込めた。首元に積もる雪が重みと冷たさを増していく。自身の吐きだした吐息と、馬の鼻息が白い気体となって、世界に溶けて行った。


≪氷が落ちる≫は、その名の通りの城だった。雪が積もらないように遮蔽が多く。また、雪が積もればその重さで崩れてしまいそうな程に心細い城だった。城の壁は補強を繰り返されており、所々で色が違う。継ぎ接ぎのだらけだった。

門の前には十数人の兵が居た。彼らはリアナの軍団の到着を知るなり、胸を躍らせて彼女たちを迎え入れた。その歓喜の中には、もちろん、サー・クイレルの姿があった。

「おお、まさか本当に来てくれるとは」

「他の諸侯のもとにも獅子王の精鋭達が向かっています。我らと貴方達の結束は破れたりしませんわ」

出来るだけ得意げに告げる。もうこの台詞を何度、彼に告げたか分からないが、今回のは今まで以上に効果絶大だ。タイミング的にも大成功だと言っても良い。

「早速ですが、状況を聞かせていただけます?」

「もちろんです。あー、敵の数は分かりませんが、奴らは毎晩、あの西の山を越えて現れます。決まった時間に同じような人数で」

「偵察にはいかせませんでしたの?」

「そうしたいのですが、あの山の向こうは深い森になっていて、遠目には敵の姿を確認出来ないのです。まさか森に入って行くわけにはいきません。兵達も待ち伏せを恐れて、とても追いうちなど掛けられない」

「情報が不足してますね」

サー・モルトが怪訝そうに告げた。

リアナは、彼の言葉を聞けば、お腹が空いたと返事を返した。

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