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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
神の涙
108/111

最強の二人

「我が王よ、本当にあの野蛮人達との約束を守るのですか?あいつ等が国を手にすれば、再び叛旗を翻るに決まっている」

サー・モルトはリアナに詰め寄る。リアナはいい加減にしてくれと怪訝そうに眉間を寄せながら、彼に言葉を返した。

「少し、お黙りなさい。テアノとの約束は、守りますわ。貴方もその場に居たじゃありませんか」

「ですが、民や諸侯が納得しません。勝利したのは我々で、我々には勝者としての報酬が必要なのです。それを争いの元凶の蛮族どもに統治する国を一部譲渡するなど、考えるだけでも甚だしい」

「分かってますわよ、それくらいは。心配性ですわね」

モルトにとって、リアナは已然にもまして不可解な存在となった。飄々としてどこか掴み所のない彼女は、雲のような存在で、手にすることすら許されない、高嶺の花だった。(現に女王となった彼女に触れることは許されなくなったが…)



「このような多忙な時に、我々の様な愚民に時間を取っていただき感謝します、獅子王」

テアノはリアナの前に現れた。それこそ、この崩れた城の傍に急造として建てられた謁見の間(仮)に、流々と流れる鉄の川となって流れ込んできたのだ。総勢は三百人、誰もが鉄の剣と鎧を身に纏い、王が率いる大軍団となって小さな廃墟を押し流していく。

「テアノ、わたくしが此処にいるのは貴方の功労があってこそですわ…。随分と客が多いですわね、見て取れるように、大勢の客を出迎えるほどの物資はありませんのよ?」

「ありがたきお言葉です、陛下。いえいえ、私は駄目だと言ったのですが…貴方を一目見たいと…気付けばこんな状況で。何しろ、あの白狼を打ち倒した御方です、兵達の興味は事欠かない」

「そう、まあいいですわ。さあ、話し合おうべき国事がありますわよ」

リアナは、テアノを小さな天幕へと招き入れる。中には、サー・モルト率いる諸侯が顔を連ねており、誰もが此の北部の野人を怪訝そうな瞳で睨み付ける。テアノは気にする事無く、長い机に並べられた椅子の一つに腰をおさめた。

「さて…、貴方と交わした公約を憶えていますかしら?」

「勿論、憶えていますよ。私が言い出したことですから」

「では、貴方に地峡の南を差し上げます。あそこは広大な空き地が広がってますし、わたくし達南部人も住んでいませんし、あなた方には打って付でしょう?」

リアナが発言したと同時に、背後に立つ諸侯が不満そうに声を漏らす。それを静止するようにリアナが片手をひらひらと揺らした。

「ええ。感謝します」

「感謝は結構です。話は終わっていませんし」

「というと?」

テアノは、そら来たと言わんばかりに身構えた。勿論、このまま簡単にことが進めば問題なかったのだろうが、生憎とそんな期待は彼女と初めて瞳を重ねた時からない事は理解していた。

「此方からも条件を…二つほど。まず一つは、貴方がその領土の領主となること」

「僭越ながら……私は不適任です。私は彼らを裏切って、貴女方に白狼を差し出した。そんな私を一部…いや、半数以上が良く思っていない。私はその決定には従えません。統治者は彼らが決めるべきだ」

「いえ、此れは決定ですわよ?貴女は地峡の領主となり、彼らの行動を一片たりとも見落とさず報告すること」

「つまりは、私にスパイになれと?」

「ええ、得意でしょう?貴女以上の適任者はいませんわ。何しろ、あの白狼を騙したのですから」

「あれは致し方なかった。それだけだよ…」

テアノが寂しそうな顔をしたのでリアナも少し沈黙するも、直ぐに気を取り直して言葉を続ける。

「これが、一つ…。後、一つは…、あなた方が軍隊を持つことを禁じます。誰一人として武器を手に持つことは出来ません。ただし、クワやショベルは道具ですので例外ですわよ」

「ははっ、これは大きく出たね。君はまだ理解できていない。私達は奴隷ではない。我々は我々でしか支配できないんだ。これ以上私達を掻き回して、何になるのかな?」

「今より、いくらかは平和になりますわよ」

「束の間だよ」

「それで充分。今、私の民が平和なら何でも構いませんわ」

「思ったより残酷だね。流石は獅子王。もとより、此方に拒否権は無いんだよね?」

「うーん、そう言われて考えてみれば……ありませんわね」

「君は、民が気になって仕方が無いんだね?」

「ええ、女王ですから」

「君が私達なら…今頃、下着一枚で踊ってるよ」

「わたくしが?下着で?」

「楽しそうだ」

「ふふ、ええ…楽しそうですわね」

「それで私が君を殴る」

「左手でなら許可しますわ」

「一日中、飲んだくれて気付けば朝だ」

他愛も無い会話。リアナは自身の表情が綻んでいることに気付く。

「私達はそう言うものだ。私も、君も」

「わたくしはもう違いますの」

「変わらないよ、人間は誰しも。生まれた時から」

「…………」

「いいだろう。その条件を呑むよ」

「え?よろしいのですの?」

「ああ、構わないよ。名前は何にしようか?」

「じゃあ、白銀同盟で」

「軍隊もないのに同盟か……。いいよ、気に入った」

「テアノ……ありがとう、ですわ」

「これで、私達が居る間は平和だね。いつになるやら」

「さあ、その時は、蜂蜜酒でもご一緒に」

「いいね。楽しそうだ」

呆気に取られる部下や諸侯を尻目にテアノとリアナは声を出して笑った。



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