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29. 鈴木太陽



【私は、御社の社員である鈴木太陽と交際しておりました。私から御社に、ご報告をさせていただきたいことがあり、こうしてFAXを送らせていただいております。私と交際中、鈴木太陽は浮気をしました。そして浮気相手からもらったであろう性病を、私にうつしました。そのことを本人に告げ、償うように言いましたが、別れたいと言われました。浮気され、性病もうつされ、私は心身ともにボロボロになりました。また鈴木は、御社の会社グッズをフリマアプリで転売しておりました。小銭を稼ぎ、私に自慢げに話していましたので間違いありません。その他も、悪徳業者だとわかっていながら営業に行ったりと、会社に背いた行動をかなりしておりました。匿名で申し訳ございませんが、私から摘発させていただきます。正当な処置の方、宜しくお願い致します。】



 何度読んでも、現実のものとは思えない。

 頭の悪い、つっこみどころ満載の文章がいかにも風香らしい。

 閉め切った会議室で部長と二人きり、向き合って座り、間にはこの紙が置かれている。


 何もなく全て終わったと安心して生活していた俺は、仕事中に突然呼び出され、これを見せられた。

 午前中、人事部のFAXに届いたらしい。

 とりあえずは人事部の中だけで口外はせずということだったが、社内中に広まるのも時間の問題だろう。


 肌寒くなってきた秋の始まり、しばらく恋は休んで仕事に打ち込もうと思っていたらこれだ。

 そして思い出す、彼女が最後に言った地獄のような言葉を。

 怒る、というよりも憐れむような目で俺を見る部長は「とりあえず事情を説明してくれ」と言った。

 仕方なく、俺は風香との全てを部長に話す羽目になった。


 おそらく五十代後半であろう佐々木部長は、どちらかと言えば嫌いだった。

 いまだに昭和のノリが残った、飲み会好きのオヤジ。そのくせに仕事中は厳しく、些細なミスも見逃さない。すぐに怒るし、ネチネチしている。

 そんな佐々木部長は、真剣な表情で俺を見つめて言った。



「警察に行きなさい」



 “警察”

 考えたことがなかったわけじゃない。

 榊原さんと上月さんにも同じこと言われた。



「でも、そんな大げさなことじゃないような気も……」


「あのなぁ鈴木」



 佐々木部長は呆れたように頬杖をつく。



「それはもう立派なストーカーだ。現に会社に脅迫状が来ている。これを持って行って、今私に話してくれたことと全く同じ話をすれば、警察が彼女に警告をしてくれる」


「そうなんですか……?」


「僕は昔、不倫相手が家にFAXを送ってきたことがあったよ」


「えっ」



 禿げ上がった、どう見ても冴えないこのオヤジが不倫だとか、想像がつかない。



「まさかこのご時世にFAXとは、君も厄介な女に引っかかったね。まぁこれも勉強だと思って、これからは見る目をしっかり養うこと。今後誰かと付き合っても、裏切らないこと。いいね?」



 まさか佐々木部長にこんな説教される日がくるなんて思いもしていなかった。



「わかりました」


「警察に行きなさい。いいね?これ以上のことをしてくると会社でも問題になってくるからね」


「……はい。今日行きます」



 部長はゆっくりと頷いた。



**



 警察署へ行くために今日こそ早く退勤したかったのに、なんやかんやと仕事が長引いて結局午後八時になってしまった。

 つくづく自分の要領の悪さが嫌になる。

 

 駅に向かってとぼとぼ歩きながら、風香と付き合っていた頃の自分を思い出した。

 仕事を辞めて、ニートになったりキャバ嬢になったりする風香に、俺はいつも偉そうに説教じみたことを言っていた。

 あの頃、俺の中には優越感があった。

 世間的には決していい男ではない俺のことをなぜか尊敬し、言うことを聞き、反省する風香に、俺は気持ち良さを感じていた。

 悪いのは風香だけじゃない。

 本当に警察へ行っても良いのだろうか。そんな迷いが生じてきた。

 しかしさすがに会社にFAXを送られてきたのには焦った。これ以上大変なことをされる前に手を打った方がいいに決まっている。

 俺は覚悟を決め、勇気を出して、家の近所にある警察署へ行くことにした。



**



 やっと警察署を出たのは午前二時をまわっていた。およそ四時間以上、事情聴取をされていた。

 ストーカー関連に長年携わっているという初老の警察官は、俺の話を全て聞き終えると、それはかなり深刻なケースだと言った。

 もちろん今すぐ警告をするかどうかは俺が決めていいと。しかし彼は、もし君が自分の息子であれば間違いなく警告をすすめるだろうと言った。

「災難だったねぇ」と苦笑いしながら、彼は教えてくれた。



「女の子をメンヘラにさせる要素って知ってる?」


「ちょっとわかんないっす」


「面白い、優しい、適度に人付き合いが多い」



 警察官は三本の指を立てて俺の前に突きつけた。

 その瞬間、はっとした。たしかに、と全てを納得した。

 女の子をメンヘラにさせるのに、イケメンとかカッコいいとかいう要素はあまり関係ないのだ。風香が俺みたいな奴にあんなに重くなったのは、そういうことだ。

 大学時代の元カノも、重かった。

 つまり俺には、女をメンヘラにさせる要素がある。

「これからも気を付けてね」と最後に言われ、俺は警察署を出た。


 警察署に行ったのは、大学に入りたての頃、車で衝突事故をした相手が飲酒状態だったとき以来だ。

 まさかストーカー案件でまた来るとは思わなかった。



「面白い、優しい、適度に人付き合いが多い……」



 眠たさをこらえて家へと歩きながら、一人呟いた。



「俺って、罪な男……」



**



 翌朝仕事へ行き、榊原さん、上月さん、佐々木部長に、警察署での流れと、警告をしてもらうことになったことを話した。

 興味津々で聞いてくれる上司達に、俺はどこか気持ち良さを感じていた。

 俺って、こう見えてモテるんですよ。実はメンヘラ製造機で、悪い男なんですよ。

 大きな声で、みんなに伝えたい。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!

面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、↓にありますブックマークと⭐︎評価、お願いいたしますm(*_ _)m

作者たいへん喜び、励みになります……!

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