121 突発的カミングアウト
八重樫さんが喫茶店を後にしたことで、この場には因幡さんと俺の2人だけが残された。店内は不気味なほどに静まり返っており、いつもは元気一杯な因幡さんは不自然に黙りこくっている。
「あー 最近の探索の調子はどうですか?」
「…..まずまずです」
「……..」
やばい。話の広げ方がわからない。今までは受け身で因幡さんと話していたせいで、こちらから話しかけるという行為に慣れていないせいだ。そうして俺まで黙りこくってしまうと、因幡さんは急に動きを見せた。
「謝らないといけないことがあるんです」
「へ?」
急なカミングアウトだが、正直に言って心当たりが全くない。そう困惑している俺に対して、因幡さんは重たい口を開いた。
「実はこの前、組合のステータス鑑定サービスを利用したんです」
「はい」
「そうしたら、移動系のスキルに覚えのないSランクのスキルがあったんです」
「それは… おめでとうございます?」
「ハッキリと言うんですが、このスキル…. 先生のですよね」
「え゛?」
どゆこと? EXランクの神足通ならば貸した覚えもあるので分かるのだが、Sランクの移動系スキルを貸した覚えは明らかにない。そう困惑している俺に、因幡さん言葉を続けた。
「一旦、私のステータスを確認してください」
「えーっと、良いんですか?」
「はい」
一応、因幡さんのステータスを確認してみる。
【精査】
⇒ 【種族】人間 Lv.89
【Name】 因幡 由衣
【天職】 奇跡士(A) Lv.5
【状態】-
【称号】 探索者(東京ダンジョン:31階層)
◇ 能力値
HP 412/412 MP 300/300 SP 498/498
筋力 427 魔力 373 耐久 347 敏捷 551
◇ 耐性
⇒耐性
苦痛耐性(C)Lv.7 恐怖耐性(D)Lv.6
物理耐性(D)Lv.4 毒耐性(E)Lv.3
◇ 職業技能
⇒奇蹟士(A) Lv.5
従者召喚(S)Lv.1 [ マジックディア(A) ]
天運(A)Lv.3 隠匿(B)Lv.5
神聖術 Lv.4 - 禊(B)Lv.3 耐久強化(C)Lv.5
短剣術 Lv.6 – 天穿(A)Lv.2 斬撃(C)Lv.7
移動術 Lv.5 – 蝋の翼(S)Lv.2 俊足(D)Lv.5 跳躍(E)Lv.9
◇ スキル
・法術スキル
⇒ 回復
中位回復(C)Lv.4
・特殊スキル
⇒ パッシブ
身体強化(D)Lv.7 聴覚強化(D)Lv.8
⇒ アクティブ
継承(S)Lv.2 人馬一体(A)Lv.1
以心伝心(B)Lv.2 武器庫(C)Lv.5
因幡さんが言っているのは、この【蝋の翼】というスキルの事だろう。確かにレベルにしてはスキルの充実している気はする。しかし、こんなスキルを俺が持っていたことはない。
「いやー 違うと思いますよ? スキルの名前が違います」
「え? そうなんですか? あの時、スキルを借りた時からずっと素早さが強化されたような感覚が消えなかったので、てっきり借りパクしてしまったものなのかと…」
んー 確かにそれは、ちょっと気になるな。しかし、俺の神足通のスキルレベルはちゃんと元のレベルに戻っているし、スキル名も明らかに違う。これは… まさか!?
「これ、もしかして【継承】のスキルなんじゃないですか?」
「確かに… 名前は、でも…」
よく見ると、継承のレベルが上がっているのもそれが理由だろう。あとは、EXスキルじゃないのは継承がSランクのスキルだから、その分だけコピーしたスキルに下方修正が入った可能性が高い。それなら色々と説明がつく。
「私自身のスキルは無くなったり、スキルレベルが下がったりもしていません。なので大丈夫ですよ」
「……..ふひゃぁ〜 安心しましたぁー」
先ほどまでの緊迫したような雰囲気が一気に緩み、因幡さんはテーブルに体重を任せた。どうやら、随分と決死の覚悟でこの場に臨んでいたらしい。そんなに俺って怖そうだったかな?
「もっと気軽に言ってくれても構わないんですが」
「そうは言っても、スキルを奪うって探索者の禁忌なんですよ? 噂なんですが、スキルを奪うスキルを持っていた人はいたらしいんですけど、高名な探索者に使ってしまったせいで見せしめに殺された事件もあったらしいんですよ」
「あー それは、故意にやったなら自業自得ですかね?」
「やり過ぎだという声もあったらしいんですけど、スキルを奪うという行為がどんな法律に抵触するのかもあやふやだったりして、結局は有耶無耶になったらしいです」
まあ、俺であってもスキルを奪われたりしたらどうするかわからないな。しかし最低でも、再起不能にはすると思う。また奪われたらたまったもんじゃないし、他の探索者にも被害が出かねないしな。
この前に手に入れた神毒の消えない毒を、MPやSPを使用不可にする麻痺毒に変質させた上で喰らわせて、あとは放置とか。それくらいはする。
「先生、ちょっと怖いです」
「おっと、すみません」
無意識に殺気が漏れていたようだ。まぁ、命を賭けて磨き上げた努力の結晶を奪われたらと考えると、それだけでもかなり気が立ってしまう。
「まぁ、故意でなければビンタくらいで済ませますよ、俺は。もちろん悪意を持って行った人にはそれ相応の対応はしますが」
「私、これでも結構人類の上澄みに入ったと思うんですけど、それでもなお先生に勝てるイメージが湧かないんですよね。ビンタされたらトマトみたいにグシャっと逝っちゃいませんか?」
「良い直観を持ってるんですね。それは大切にしてください」
そう言って、俺は席を後にした。これ以上話していると、グダグダになりそうだからね。話題が尽きてきたら、多少強引でも、場面を変えるか話を締めるかしたほうがいい。そのほうが、変なことを口走ったりすることもなくなるからだ。
「これからよろしくお願いします、先生!」
「はい、また今度会いましょう」
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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