119 黒服現る
最近、定期的に来る新作書きたい症候群に罹患したので、チャレンジ企画ついでに書いたのを投稿するかもしれません。
放課後、空が茜色に染まり始めた頃。ピンポーン... と、そんな聞き慣れない音が家中に響いた。
宅配も頼んでいないはずだし、自宅の住所を教えるような気さくな友人もそういない。先日の一件もあって、警戒度を上げつつ扉越しに訪問者を訝しむ。
そして、インターホン越しに相手を見ると、そこに映っていたのは黒いスーツに黒いグラサンをバッチリとキメた強面だった。
「んん?」
見覚えが... あるような~ ないような? そんな不思議な感覚に戸惑っていると、スピーカーから相手方の声が聞こえてくる。
「ボスより伝言を預かってきました」
そう言った直後に、俺の式神が破られる感覚がビビッと伝わって来た。これは... 擬人式? 感覚的に木の葉か紙か、そんな素材で作ったヤツ。
疑問符が怒涛に押し寄せる展開になってきたが、しかしそれもすぐに氷解した。というのも、画面に映る黒服がこちらに見えるように、手に持った人型の紙切れを破いていたからだ。
「あれ、大吾に渡したやつか?」
あの少しいびつな形の印刷用紙には覚えがある。多分だが、調停者の円卓の前に俺からダイゴに連絡用として渡していた紙の式神だ。ってことは、この黒服は極東の一員ってことか。道理で見覚えがあるわけだよ、あの市役所内に居たメンバーなら全員に顔を合わせたことがあるし。
大吾のヤツ、金払いはおっそいくせに人をよこすのだけは早いな。キングを介してクランの後ろ盾になる件を伝えてから、まだ5日くらいしか経ってないぞ。
「はい、今開けますね~」
そう言って一階ロビーの自動ドアを解錠する。そして、五分ほど経つと部屋の呼び鈴が鳴らされた。
「はい」
「ご無沙汰しております、ビッグボス」
「え?」
「今回は、ボスからの伝言を預かってきました」
「あ~ はい? 取り敢えず中にどうぞ」
入ってすぐの殺風景な応接室(仮)の椅子に座るよう促し、俺はキッチンにお茶か何かを取りに行った。
そう言えば、さっきアネモイが紅茶を淹れていたな、それも結構多めに。もしかしてわかっていたって事? いや、流石にたまたまだよな?
一応、アネモイに断りを入れて、熱々の紅茶を注ぐ。ふわりと風味が香り、紅茶のゴールデンタイムにドンピシャな気がする。もう俺は何も考えないことにして、黒服の前に紅茶とてきとうなお茶請けを出しに行った。
「ありがとうございます.... うま!?」
紅茶に口を付けた黒服は、ズゾゾゾっと紅茶を飲み干した。わかるよ、旨いよな。特に砂糖を入れたりもしていないのにほんのり甘いし、どうやったらそんなに上手く入れられるのかが全く分からない。そうして紅茶とお茶菓子を腹に収めた黒服は、一つ咳払いをしてから話を始めた。
「今回はウチのボス、石山さんからの伝言を預かってきました。私はクラン ” 極東 ” の広報部副長をしている郡山と言います」
そんな言葉と共に渡された名刺を受け取っておく。
「これはご丁寧に.... 私は、早川って言います」
「はい、ビッグボスに会えて光栄です。そして、早速本題なのですが...」
俺は長話が始まりそうな雰囲気に水を差して、先ほどから気になっている疑問を黒服にぶつけた。
「あの... その、ビッグボスって何ですか?」
「石山からの指示で、本名を秘匿するためにコードネーム的なものを定めた結果です。私共も大変お世話になりましたので、その呼称に反対する者はおりませんよ」
「えぇ?」
「他にも、特別顧問なんて称されていたりもします」
「........」
追い打ちに追い打ちを重ねられて、もう訂正する気力もない。まぁ、こちらとしてもありがたいっちゃありがたいんだが、如何せん名前が重役っぽそうなのがなぁ...
そんな複雑な心境をそのままに、黒服は話を本題に進めていった。
「今回は、ビッグボスがクランを作る際の後見を極東が務める事についてですね。結論から言うと、喜んで引き受けさせていただきます」
「おぉ、それは良かった」
「つきましては、実際にクランを立ち上げた後に話し合いの場を設ける必要がありますね。あとは、後見ということで幾人かを派遣するので、存分に鍛えてやってくれとのことです」
大吾の野郎、ちゃっかりしてんな。ま、それくらいならお安い御用だけれども。
「ちなみに借金については何か言っていましたか?」
「え゛!?」
「あぁ...」
天を仰いだ黒服は、一つ咳ばらいをして「必ず払います。ボスは締めときますんで」と... そんなことを言った。うん、そこまで急ぎの用事じゃないし、クランについてを優先してねと返しておく。
そうして本題を話し終わったところで、次に世間話のような... しかし、無視できない情報を黒服はぶっこんで来た。
「それと、最近は迷宮氾濫が増えてきていまして、3か月前の世界中で同時多発的に起きた迷宮氾濫が再来するのではないか... というような話があります」
「そうなんですか?」
「はい。実際、極東でも最近のスタンピード対処にかける戦力の割合が日に日に増加しています。ビッグボスも、余計な心配だとは思いますが、十分注意してください」
「えぇ、気を付けておきます」
そうして小一時間程の雑談を経て、黒服は帰り支度を終えた。そうして玄関まで見送りに行くが、そこでふと気になることを聞いてみる。
「そういえば、どうしてわざわざ手紙とかメールを使わずに情報を伝えに来たんですか?」
「極東は色々な勢力に注視されていますからね。手紙は暴かれる可能性がありますし、メールは追跡される可能性が高いんです」
「マジですか」
「はい。これからも、ビッグボスとの連絡係は私が担当するので、それ以外の者が偽って訪ねて来た場合は、インターホン越しに顔写真を撮って、後は無視しておいてください」
「了解しました」
なんともまぁ、物騒な世の中になったもんだ。こんなんじゃ、キングや大吾とおちおちメールも出来やしない。あー.... だからキングはわざわざ通信結晶を確保していたんだな。やっぱアイツ頭脳派だわ。しかしまぁ、監視されているのは探索者の上位層だけだろうし、俺は大丈夫だろう。
.....ダイジョブだよな?
そうして郡山さんを見送った俺は、さっそくある人にメールを送り始めた。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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