118 銃設計座談会
400万PV感謝!
翌日の放課後に、俺と杉谷は部室の隅に集まっていた。そうして雑談から始まった会話で、杉谷は素っ頓狂な声を上げる。
「え゛!? クラスライン入ってないの?」
「おん」
「先生は.... あ~ まぁ、慣れてないだろうしな~」
「というと?」
「ほら、この学校って迷宮で遭難した中級探索者の生徒しかいないじゃん。そんな生徒の面倒を見れる先生なんてそんなにいないわけよ。それこそ、レベル50以上は必要になるし。だから、この学校の先生のほとんどは教員免許を持ってないってわけ。勿論、免許を持ってる先生は高給取りで雇われるし、カウンセラーとかの資格持ちも多いけどね」
「へぇ」
「世間一般では、探索者高等学校は”猛獣の檻”みたいな認識だからね。普通は未成年が探索者になる場合は、素行調査とか面接とかを経て、更に一週間の講習を受講して試験を受けて... それでやっと探索者の資格を得れるから。僕らみたいに不慮の事故で遭難したヤツは自動的にライセンスを取得できるけど、精神をやられてるのもいるし、力を持って横暴になってるやつもいるワケ。だから世間からの目はキツイし、そんなのを相手にしたがる教員なんていないってことよ」
「へ~ そんなことになってるのか」
だから色々と手続きに荒い所があったわけね、納得。と、そうして雑談を10分ほど続けて、話題は銃に関することに移っていった。
「というわけで.... 今日の本題! 早川の銃に関する要望を聞こうか」
「俺からでいいのか?」
「あぁ、早川の銃を見て設計を根本から見直す必要が出来たからね。今までの設計図が全部パァになった」
「なんか... ごめん?」
「いやいや、逆にこっちが感謝したいくらいさ。アレは迷宮における銃の、一種の完成形だ。それを直に見ることが出来て、インスピレーションが脳汁でウォータースライダーしてる」
「・・・・ま、俺としても好都合だよ。よろしく」
「任せとけ。それじゃ、どんな銃が作りたい?」
どんな銃... いわば理想の銃のビジョンか。俺にとってのマッチロックは、SPやMPを馬鹿食いするメインのスキルを節約するためのダメージソースだ。つまり、剣と一緒に扱えるような取り回しの良さ。それが一番に求められるだろう。
そして二番目は、継戦能力... いうなれば頑丈さ。詰まったり、ぶっ壊れたり、そんなことが戦闘中に起これば、それすなわち死だ。だからこそ俺は【不滅】のスキルがついている星月夜しか使ってこなかったし、そういうスキルの付いていないマッチロックを普段使いは出来なかった。
変に近代的な構造の銃を選択してしまえば、負荷の大きい600レベル級魔石などは使えなくなってしまう。それに、最近はアネモイの権能がマッチロックと相性がいいことも分かっている。なので、その過負荷に耐えられるような、頑丈な銃がいい。
そんな考えを、俺は杉谷に伝えた。
「剣と一緒に使えるような取り回しの良さと、頑丈さがある銃... かな?」
「剣と一緒... か。それはまた尖ったコンセプトだな」
「難しそう?」
「いんやぁ? むしろワクワクしてきた」
そう言って杉谷はPCのフォルダを遡っていく。そうして俺に見せてきたのは、俺のイメージとはちょっと違う。しかし、俺の言葉を体現したかのような銃だった。
「こいつは俺が中二病だった頃にモデリングした銃でさ。ハンドガンを銃剣にしたような見た目だろ? その頃は実用性は皆無なロマン武器だったんだが、ファンタジー要素を考慮すべき現代の銃器において、コイツは実用に足るんじゃないか?」
銃剣というその名の通り、映し出された銃のモデルは、小銃の銃口下部に短剣が取り付けられたような銃だった。
「確かに... 銃と剣を一体化すれば、剣術のスキルと銃術のスキルをこれ一つで完結できるのか」
星月夜には、その形態をイメージ通りに変更できる【形状変化】というスキルが存在している。それを銃剣のように銃と合体させれば、右手で剣と銃のスキル。左手で糸術のスキルを扱えるようになるか?
「そう、あとは頑丈さを取るのであれば、本体をボルトアクションにするってのはどうかな~ と思うんだ。連射は効かないが、頑丈さはピカイチだし構造も単純だ。あとは取り回しのために銃身を短くせざるを得なくて、そのせいで命中精度が下がりそうってのがあるが、その点は俺の【刻印術】のスキルで補えるだろうさ」
「完璧じゃん」
「そういうことだ。あとは... 銃床に工夫するのが良いと思う」
「ストック?」
「ちょっと聞き慣れないか。簡単に言えば、スナイパーライフルとかの肩に当てる部分の事を指すんだ。今回はピストルグリップっていう形を採用して、その真ん中に横長の穴を空けると.... こんな感じに剣として扱う時の” 柄 "として機能するんじゃないかな?」
そう言って杉谷は、手元のノートにイメージイラストを手早く書いている。先ほども言っていた通り、きちんと銃として機能しつつも、剣としての機能も十全に発揮できそうな見た目をしている。それに何より...
「かっこいいな!」
「だろ!」
そう言ってアツい握手を交わし合った俺と杉谷は、完全下校のチャイムを聞き流して話を続けた。
「あとは、その銃の銃身を流用したいって事だったが...」
「ああ、結構レアな武器を改造したヤツで、その分だけ素材も希少なんだ。できれば流用したい」
「オーケーだ。取り敢えず、今のうちにサイズを測っておこう。それさえ分かれば十分だ」
「材料力学的なアレは必要ないのか?」
「あ~ 力学の観点から設計をする必要はあるんだが、材料に関する部分はファンタジー要素で補えるからな。材料力学とかもう滅茶苦茶だよ。性質付与系のスキルと、【修復】のスキルでどうとでもなるんだ」
「なるほどねぇ。じゃ、コイツはいったん分解して、銃身の採寸する感じ?」
「そうそう」
銃身の採寸は10分程度で完了した。俺は良く分からないが、スキャナーみたいなのでいろんな角度からピッピピッピするだけで終わるらしい。そうして郷田先生が見回りに来るまでにこれから先の予定を話し合い、夏休み明けに制作を行うことに決定した。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応
* 探索者ライセンスの保持者の場合、武器製作を許可された者の監督下であれば銃刀法違反は適用されません。
* 主人公はクラスラインに入れました。




