Side百武 これからの世界
人生大一番(主観)の勝負が早期決着したので、これから更新を再開していきます。よんでね!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ.....」
自室の椅子へと深く座ると、自然と深いため息が口から洩れる。
全くもって災難な一日だった。なにせ二つの絶対契約書による板挟みによって、最悪の場合は廃人になっている可能性すらもあったのだ。誠君の奮闘もあって無事回避できたからよかったものの、やられた時は生きた心地がしなかった。
しかし、しかしだ。
「....フフ、フハハハハッ!」
あの巫女が負けたときの腑抜けた顔ッ! 最高にスカッとしたぞ! 普段から中間管理職をしているストレスが、まるで便所に流されるように消えていく。その爽快感は、あの笑えない状況が路傍のクソにしか思えないほど愉快だった。
そして、巫女と対峙していた時の彼が魅せた大立ち回りは、未だ脳裏に焼き付いて離れない。
そもそも、今までの私は隠者の力を数値としてしか捉えられていなかった。隠者という存在は、レベルも、技術も、戦闘に関する全ての領域において、名実ともに人類全一なのだろう。
しかし、あの時の彼はなんというか.... 私が今まで接してきた、掴み何処が無いが、どこか人間臭くもある雰囲気とは全く違う。まるで獲物を求める獣のような荒々しさがあった。
まぁ、あの人外じみた戦いぶりを一人称で体感すれば、そう思ってしまうのも無理のない話かもしれないが。
.....ふぅ、考えが逸れて来たな。話を戻そう。
まずは今回の巫女の発言と、急激な変化の渦中にある世界情勢の関係性。そして、その渦中で自分自身がどう立ち回るべきかについてを考えなければならない。
「とは言ってもなぁ」
力ある探索者が派閥を作り、各国の政府や高天原などの探索者制度の立役者がこぞって戦力の育成に精を出しては、有望株の頭数を奪い争う現在。その熾烈な水面下での争いは、海帝竜という共通の敵が倒されたことでさらに激化した。
それだけならまだいい。しかし、問題は増加し続ける過半数の底辺探索者だ。
現在の有象無象の探索者は、キングを筆頭にした一部の円卓メンバーによって、その暴走を抑えられている。しかし、未だに乱立し続けている探索者優遇制度により探索者の母数が更に増加すれば、その分だけ抑止力も効果が薄まってしまう。
また、レベルアップという分かりやすい力を得た人間は、多かれ少なかれ増長するものだ。特に、今の世界ではモンスターという脅威に対抗する力が求められている。であれば、そんな力を指標として格差が生まれることは必然。その格差は、その上位に分類されると思い込んだ人間に差別意識や選民思考を植え付け、人間を暴力のみを絶対の権力とする原始人に回帰させるだろう。
そんな選民思考に染まった原始人が何を言うかって? そりゃあ「強い者が正義だ!」と高らかに宣言して、革命の狼煙を挙げる左翼一揆の始まりだ。笑えない。実際に、そういった愉快犯は世界中で増加傾向にあり、そのような犯罪者をどう収監するかが社会問題にもなりつつあったりする。
そんな、探索者が暴徒化する危険を犯してまで探索者を増やそうとする理由。それが、巫女の言った人類の存亡をかけた戦争のために、人類全体の戦力を増やそうとしていると.... そう考えれば一応の筋は通っている。しかし、この調子で探索者が増え続ければ、人類社会の構造が崩壊するのも時間の問題であり、それも世界規模で行われているのだから止める手立てはないだろう。
これからの世界では、そんな探索者がクランという名の派閥を作り、互いを牽制しあう群雄割拠の時代が訪れることは想像に難くない。だが、そんな世界で隠者との繋がりというカードは、私にとって最高の切り札となり得る。
出来る事なら、現在編成を進めている手勢のリーダーとして雇いたいところではあった。しかし、彼に鎖をつけるのは逆効果。文字通りのババは、時として爆弾にもなってしまう。
だからこそ、現状の最適解は持ちつ持たれつの利害関係を維持することだと判断した。
彼は武力を、こちらは人脈と情報を。私の持てる全てを以て、彼の信頼を勝ち取ることこそが、これからの不透明な世界を生きるための、もっとも賢明な選択肢だ。
だが、あの女がああああああああああああああッ!!!!
「ふぅ」
少し絶叫したら、心持ちも軽くなる。それに、一瞬だけ頭に手が伸びそうになったが、ギリギリ押さえられた。掻き毟りでもしたら、あとで猛烈に後悔するところだった。危ない危ない。
よし、起きたことを後悔しても意味はないのだから、これからのことを考えよう。
まず、巫女が誠君の持つ力の"一端"を知ったというのが現状であり、あくまでも隠者だという事実は隠し通せている。であれば必要なのは、その力を手に入れることと天秤にかけても割に合わない労力.... つまりは後ろ盾だ。
今回の失態を帳消しにできる程の成果を提示することが私の急務。とりあえずは、不自然にならないような後ろ盾の選別と、高天原の組織調査。もしも私の予想... 巫女が独断で今回の事に及んだという考えが事実であれば、そこに解決の糸口を見いだせるかもしれない。
よし、今日の振り返りは終わりだ。寝よう。睡眠不足は毛根の敵だ。
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感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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