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【更新再開】朝起きたらダンジョンにいたんだが ~異世界転移?いいえここは現実世界です~  作者: sei10
第三章 学校編

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113 夢の中の闖入者

作者のストーリーのプロットも兼ねたエピソードになってるので、ここから二話ぐらいはちょっと振り返りパート+α。

俺は夢を見ているのだろう。


所々がぼやけた風景の中に浮かぶのは、俺が高校生になって引っ越す前に住んでいた古い瓦屋根の一軒家。


導かれるようにドアノブに手をかけると、抵抗なくドアは開かれた。


「.....懐かしいな」


置いてある女性用のスニーカーと、少し小さい運動靴。

小さい方は昔の俺が履き潰していた物で、スニーカーの方はよく家で家事をしてくれていた、不愛想(ぶあいそう)だが気遣いのできた家政婦さんの物だ。


そのまま玄関を通り過ぎて二階へ向かうと、上り切ったすぐそこに部屋がある。そこは十年以上を共にした俺の部屋。


中にはノートパソコンが一つと、棚に整理された漫画本と参考書が少々。そして棚の上には、この落ち着いた雰囲気の部屋から圧倒的に浮いているガン〇ムのプラモデルが鎮座していた。


「これは…」


これはいつぞやに貰った... 叔父さんからのクリスマスプレゼントだ。彼はフィギュアやプラモをこよなく愛する人物であり、年に一度の鹿島の方にある本家に行った時には、叔父さんの趣味が詰まった部屋を見て回った記憶がある。


「懐かしいなぁ...」


高校生になって引っ越してからも、これだけは小さいアパートの一室に飾っていた。しかし、あの更地になった中ではすでに消滅してしまっていると考えると、ぼんやりとした物悲しさを覚える。


中学を卒業して一人暮らしを始めてからは家政婦さんと連絡を取る手段がなく、叔父さんはいわゆる”古い人”でスマホやメールを使わないタイプの人だった。昔は文通や固定電話で連絡を取っていたのだが、茨城全域が避難区域に指定された今ではそれも叶わない。


「......」


昔のように座布団へと腰掛けて、天井のシミを数えながらボーっとする。しかし、そんな感傷に浸る時間も長くは続かなかった。




ギィ.....  ギィ....  ギィ...




木造建築によくある床鳴り.... 


しかし、その音は明らかに人の足並みで鳴り続けていた。


三度目の不自然な床鳴りを耳にしてすぐ、先ほどまでの油断していた心持ちが引き締まり、無意識のうちに息づかいから衣擦れの音まで全てを静め、流れるような動きで俺は音の主へと向かう。


そして、一階の階段横。いつもは食事をするのに使っていた場所にそいつは居た。


着物に、手には錫杖(しゃくじょう)を持った修験者(しゅげんじゃ)や僧侶を思わせる奇天烈な恰好。そして顔には白いモヤのような物がかかっていて、横顔を見ることは出来なかった。


....少なくとも、俺の知る人物ではない。普段ならば夢の中の登場人物とスルーするところなのだが、そいつからは顔をしかめる程の異物感.... もしくは不快感というべき何かが感じられた。感覚としては鑑定スキルを使われた時や、精神異常に近しい。


まずは拘束して、それから尋問だな… と。己の夢というプライベートな空間に土足で踏み入った不審者の処遇を決め、俺はすぐさま部屋へと押し入った。


夢だからか、隠密スキルや持ち前の敏捷も全く感じられない。しかし、それでも培ってきた経験から来る早業は、正面からでも拳が当たる直前まで気づかれることなく、(あご)へと向かって吸い込まれるように迫る。


「ひゃ.....!」



女? と、そう思うような高くて短い悲鳴が聞こえたかと思うと、まるでブレーカーが落ちるかのように周辺が暗くなり、俺の意識は落ちて行った。






ジリリリリリリリリリリッツ バキャッ!



「んぁ、あ。壊しちゃったか」


寝ぼけざまに振り下ろされた拳の下敷きになっていたのは、ちょっと前に買ってきた目覚まし時計だった。


不幸中の幸いでキングから貰った高位の布団の上だった為に大事には至らなかったが、布団自体の耐久力は半分を割っている。


「あー、後で治しとかなきゃな。いや、いっそのこと修復系の武器スキルを付けるか」


掛け布団を畳んで軽く伸びをし、時計を見ると...


壊れてるな。




家具が圧倒的に足りていない、はたから見ればミニマリストの家のような光景の寝室を出る。そして隣のPC部屋から自分のスマホを手に取ると、時刻は6時と表示されていた。


丁度いいな、ランニングと訓練と朝シャンをして、大体8時くらいか。余裕を持って.....



いや、今日って土曜日じゃん。



今朝は何か夢を見ていたような… そんな気がするが、起き抜けの時計粉砕事件のせいでぼやけていた記憶が完全に霧散していた。


そんなポッカリとあいた記憶の置き土産は、喪失感と、少しの懐かしさ。元となった夢の内容は綺麗に消え去ったのにも関わらず、その感覚だけは中々消えなかった。


そして、その穴の底を次に満たしたのは、端的に言うならば不安感。憶測でしかものを語れない現状は、迷宮での死という恐怖とは別ベクトルの不安を感じさせてくる。


「全く、何が何だか...」


昨日だけで色々なことが起こりすぎていた。


まず俺がアネモイやバロムなどと契約していることが高天原とかいうよくわからないクランにバレて、しかも俺をこれから始まるという大戦争の戦力として使いたいとか…


いや、情報過多だって。


起き抜けの頭で昨日の話を整理しながらリビングへ向かうと、テーブルにはアネモイがちょこんと座っていた。


「おはよう」


「おはようございます」


アネモイは奥側の椅子に座っており、手にはティーカップを持っている。そして対面の位置には、薄っすらと湯気を立ち上らせているティーカップが一つ置かれていた。


なんでもお見通しってわけですかね。


アネモイと面と向かって椅子に座り、手元の紅茶に口をつける。あいも変わらず、俺の好みにドンピシャな甘さをしていた。


「で、色々と聞きたいことがあるんだけど。いい?」


「ええ、私で良ければいくらでもお相手致しましょう」


「じゃあ天使と悪魔が攻めてくるって話についてを詳しく」


「わかりました」


アネモイは手に持っていたティーカップを凹みのある皿に置き、「まずは…」と話し始めた。


「天使と悪魔の侵略は、前にも言った通り確実に起こるでしょう」


「その心は?」


「ダンジョンという物は、天使と悪魔の技術が結集して作られた一種の侵略兵器です。そのダンジョンの役割とは、現世を魔力で満すこと。そして、魔力が満ちたことで侵入が可能になった現世と、天界や魔界を繋げる通路になることです。この世界の言葉の中で最適なものは... ” テラフォーミング ” ですね」


「テラフォーミング... ね。それを止める方法は?」


「一つはダンジョンを全て破壊すること。二つは天使と悪魔の戦力を大幅に削ること。その二つに一つでしょう」


「それは実現可能だと思う?」


「不可能に近いです。

 一つ目は世界を一つ潰すような行為を何万回と行う必要があり、生半可な権能を以てしても不可能。

 そして二つ目、これは単純に戦力不足ですね。私の知る限り、天使と悪魔には共に神が八柱存在しています。最低でもこれらの過半数を滅ぼし、更に何十万と存在する雑兵を駆逐するのは不可能に近いでしょう。

 結果だけを言うならば、戦力を集めて総力戦を行うのが唯一の打開策ですね。もちろん勝率は微々たる物ですが」


「………」


俺、こういう時どんな顔すればいいのか、わかんねえわ。


「笑えばいいと思うぞ」



背後から聞こえた声は、先ほどまではゲーム部屋でアニメ鑑賞をしていたはずのバロムのものだった。というか、こんな返しをしてくるのは家の中でもこいつだけだろう。


「で、バロムは何かいい案あるのか?」


「ふーむ… そうだな。今のマスターにこの言葉を送ろう。「諦めたらそこで試合終了だよ」… とな」


「古いな。なんでしってるんだよ」


「…思ったのだが、なぜマスターは奴らと戦おうとしている? それほどのレベルに達していれば、逃げ隠れるのも、我々を介して別の世界へと渡ることも可能だが。なぜ茨の道を選ぼうとする?」


「……」


逃げるなんて、考えたこともなかったな。


そもそもとして逃げるという選択肢があること自体を失念していたし、逃げたところで俺はきっと後悔する。しかし、かといって命を捨てるのを分かった上で戦えるほどに、俺は覚悟はガンギマってはいない。


命を賭けた戦いには慣れているが、それでも本能的な死への恐怖はダンジョンで嫌という程味わっている。だから、慣れているとはいえど積極的に戦いに身を投じたいというわけではないのだ。


むしろ俺はレベルアップという努力が目に見えた形になる成長に依存することで、ダンジョンの過酷な環境でも精神を守っていただけ。そして、それによって得た力を存分に振るえる戦いが好きなだけの、大層な力を持っている割にはちっぽけな存在だ。


だけど、俺の気持ちの天秤は戦う方に傾いているのか、自分の内から戦えと(ささや)かれているような。そんな感覚がある。


「…なんで戦うのか、その答えを言語化するのは正直難しいけど。いろんな理由が積み重なって、その上で俺の心が戦いたいって言っている… とか?」


その煮え切らない答えに、バロムはほくそ笑むように答える。


「これはこれは。喜劇的で、楽しみでもあるなぁ... よし。どうせ戦う以外には選択肢はないのだろうし、個人的な意見としては戦う事ををおすすめるぞ」


「…私としても、人類の存続は望ましいことですから。最大限に協力は致しましょう」


「ふむ、珍しく意見が一致したな。どれ、吾輩の方でもめぼしい戦力に唾をつけておこうではないか」


明日は槍の雨でも降るのではないかと思う程に意見が合っている二人を尻目に、俺は少しぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。


「...紅茶で少し腹も膨れたし、溜まってる洗い物だけ済ませた後に訓練でもしてこようか。アネモイ、茶器は俺が洗っておくよ」


「結構です」


「え?」


「私が洗うので、他のものとは分けておいてください」


「あー うん。わかった」


急に思春期の女子が男親と自分の服を分けて洗って欲しいみたいな… そんな棘のある言い方をするアネモイ。


なんか気に触るような事を言ったかな? と、そんな風に思ったが、多分何かしらのラインがあるのだろう。


特に気にせずに、俺は昨日の夜に使った食器を洗うことにした。



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