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求・ヤンではなくクーな人達  作者: 綾織 茅


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 その次の日、私と師匠、御門君は京都行きの新幹線に乗っていた。

 一人分余分に座席のチケットを取り、四人席にしている。指定席だから空いた一つに誰か座ることになっちゃったらその人に迷惑だからね。マナーは大事だよ?


「それにしても、いや~その眼、いいね~」

「少しの間なら視えない人も視ることができるようにできますよ」

「ホント!?やってやって!」


 …楽しそうだなぁ、オイ!

 今から何しに京都に行くか分かってる?私の死相を御門本家できちんと祓ってもらいにですけどぉ!遠足違うし!…遠足より楽しそうだし!


「おー」

「どうです?」

「んーバッチリ。こんな風に視えてんのね」


 …………なんですか師匠。人の顔ガン見して。

 お金取りますよ。


「あーこれはヤバイね」

「でしょう?」

「なぜ煽る!なぜに今煽る!?」


 いやがらせか。いやがらせじゃないなら素か!

 ………余計タチ悪いなこの野郎!


「ごめんごめん」

「全く誠意が感じられない」


 てへぺろってか。

 その舌、今すぐ引っこ抜きたい。地獄の閻魔様に献上してやりたくてたまらんわ。


「飲み物にお菓子はいかがですか?」

「あ、お煎餅ありますか?」

「はい、ございますよ」

「くださいな」


 お煎餅とお金を交換するとお姉さんは後ろの車両にカートを押していった。

 袋を開け、バリバリと音を立てて食べる。作法も何も気にしなくていいなんて、煎餅万歳!


「先輩ってこうして見ると庶民感丸出しですね」

「当たり前じゃない。外はお嬢サマ、内は庶民よ。本当は内も外も庶民感覚でいたいけど、そうなったらお父様もお母様も卒倒するだろうからやらないけどね」

「お嬢様するのも大変なんですね」

「そーなのよ!あれはダメ、これもダメ!あれをしなさい、これもしなさい!男のためにお人形さんでいろなんて真っ平ごめんだわ!」

「あー…うん。一応僕達も男なんだけど」

「あら、師匠と御門君は別よ。だって私をお人形さんのように扱おうなんて思ってないでしょ?」

「そりゃあね」

「少なくとも暑いからって足を投げ出して煎餅をバリバリ食べている人はお人形さんとは言えないですね」


 ふん。何とでもお言い。

 ん~、この煎餅うま。


「………あ、ちょっと失礼します」


 御門君のスマホに着信が入り、デッキへと出ていった。


 まだ着かないかな~。今どこら辺だろ。

 足をパタパタと上下させながら窓の外を眺めた。


「師匠ぉ~」

「んー?」

「私なんかしましたかねー」


 死相が出るなんてよっぽどのことでしょ。

 でもまぁとりあえずはこの面子では死なないんだろうってことは分かった。だってそれだったら師匠にも死相は現れてるはずだし。


「あ、今窓の外になんかいた」


 ぎゃっ!な、なんかって何!?

 師匠ってばまだ見えてるの!?


 私は急いで窓から視線を外した。

 するとクックックッという笑い声。師匠の方を見ると笑いを噛み殺しているではあるまいか。


 ……………嘘つきやがったな?


「師匠ぉ~~?」

「ごめ、プッ、そんな怖がるとは……ブハッ」


 とうとう噴き出しやがりましたよ。そのまま笑い死にしてしまえ!


「ふはー笑った笑った」

「ようございましたね!」


 電話を終えて戻ってきた御門君が不思議そうに首を傾げたのは言うまでもない。


「先輩、本家で兄が待っているそうです」

「お兄さんが?」

「えぇ。今一番力があるのが兄ですから」

「へぇ~すごいのねぇ」


 敵に回って欲しくない一族よね、御門家って。つくづく最強な味方をつけたわ私。

 ホント運が良いんだか悪いんだか。


 この後、もうしばらく続く新幹線の旅を私は堪能……できたんだかどうか。




 京都の御門本家はやはり古都の趣をそぐわない純和風建築の平屋建てだった。門前には着物姿の二十代半ばくらいの優しそうな男の人が立っていた。


「あ、おじいさま」


 ちょっと待て。


 思わず御門君の腕を引っ張った。

 仕方ないんだよ。だって聞き捨てならないことを聞いてしまったんだもの。


「今、何て?」


「あ」


 だから何でそこで区切るの!昨日もあったよね、こんな場面!!


「その後」

「おじいさま」

「どちらが?」

「門の前に立っているのがですよ」

「見えない」

「眼科行きます?」


 そっちじゃない!見えてるし!

 どー見ても三十過ぎてるようには見えないんですけど!?

 あれがちょっと歳離れてるけどお兄さんかと思っちゃったし。


「こんにちは。お久しぶりです」

「おぉ!千茅君!随分と無沙汰だったなぁ」

「すみません。なかなか時間がとれなくて」


 嘘つけ!毎日毎日暇だ~と言いながら惰眠を貪ってるだろうに!

 ………しかもまさかの知り合いですか!?

 師匠の交遊関係って謎だわ~。


「おじいさま、ただ今戻りました。それでこちらが」

「神宮寺奈緒です。今日はよろしくお願いします」

「おぉ。これは可愛らしいお嬢さんだ。神宮寺家には代々お付き合いがあるからね。精一杯やらせてもらうよ?」

「ありがとうございます」


 どうかどうか一つお願いします。

 私、まだ死にたくない。ぐすん。


「さぁ、どうぞ。準備はもうできているからね」


 若々しすぎるおじいさんに連れられ、私だけ家の奥に通された。師匠達は他の部屋で待ってるんだって。

 もう表家業として陰陽師を名乗ることはないけれど、今でも昔からの付き合いがある所からは度々こうやってお祓いやまじないを頼まれたりするらしい。


 てっきりすごく立派な神棚とかが置いてある所なのかと思ったらそうじゃないみたい。至極普通の部屋だった。

 相手の家に呼ばれてすることもあるし、神社じゃないんだからそれもそうか。


「こんにちは。初めまして、彰の兄の御門雪成と申します」

「あ、神宮寺奈緒です。よろしくお願いします」


 うーん。お兄さんも優しそうで全く過激思想の持ち主そうに見えないな。となると御門君だけか。危ない道に突っ走ったのは。


「始める前に一つだけお伺いしてもいいですか?」

「はい。なんでしょう?」

「正直ここまで強い死相を見たのは初めてです」


 なんですと!?


「これは神様に愛されている証拠です」

「あ、愛されて死相?」

「えぇ。神様というものは加護を与えるばかりではありません。時に惜しみ無く奪う。そういう意味ではまさに究極の愛でしょうね」


 や、ヤンデレ?神様が?…………まさかの盲点!


 お、落ち着こう!?今までの事を整理しようじゃないか!

 私この世界に来る、ヤンデレ予備軍共に会う、千鶴に会う。

 ここまでで神様が怒る要素はなかったんだろう。あったとしても許容範囲だったのか。

 きっかけは……あの夜会でのキス未遂、だね。

 あれで神様ブチギレ、殺して自分の元へ、今の死相。

 立派に繋がってるぞ!!


「あ、あの~もし、もしですよ?私のような境遇の人がいて、その人が他の場所から来たのだとしたら」

「呼ばれてますね、確実に」


 ……………………オワタ。


「ど、どうにかなりませんか!?」

「落ち着いてください。私の質問はこれからです。死相を祓ってもあなたの場合何度でもそれこそ死ぬまで表れると思います」


 は、早く結論を…。お、お腹と頭がぁ!


「私の式をお貸しします。ただ、少々視えるようになりますが構いませんか?」

「構いません!だからお願いします!」


 もう土下座しかないよね。っていうか土下座ってこういう場面を想定して考えられてるよね。


 式って言うからどんな物騒なものを持たされるのかと思ったら、なんのことはない、むしろ私好みな子狐ちゃんでした。

 はうぁ~可愛すぎる。返してって言われても返せるか心配だわ。


 

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