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求・ヤンではなくクーな人達  作者: 綾織 茅


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話を数話繋げました!

ご迷惑をおかけした方、申し訳ございませんm(__)m

 あれから二日。さて、そう決めたもののどうしようか。

…まずは情報収集でもするとしよう。

そういうのは私の得意分野だ。



 ちなみに千鶴は神宮寺家から呼び出した人からダンスのレッスンを受けている。とても優秀な人で、社交ダンス大会の上位入賞、優勝回数が多々あるこれ以上ない程の教師(チューター)だ。

 幸い今日と明日は土日で休みだから心置きなく練習できるはず。



 私はといえば寮の私室でパソコンと向かい合っていた。片手にコーヒーの入ったマグカップを持ち、カタカタともう片方でキーボードを叩く。



 実を言えば、私はあの三人のプロフィールどころか名前すら知らない。顔はさすがにクラスメートだけあって分かるけど。話しかけることすらなかったし。

 …だって忙しかったんだ、フラグを折ってまわるのに。


 こういうのって全員のプロフィールを覚えてるマルチな人って私の立ち位置ではなるんだろうけど、そんなことは一切ない。むしろその逆でクラスメートすら危うい。



 まずは名前を調べるところからという相手からしたらなんとも屈辱的なことからやる私は存外鬼畜というものの素質があるのかもしれない。鬼畜?最高の誉め言葉です。



「小椋雅、高梨月子、支倉加奈、ね」



 画面には三人のプロフィールと写真が映し出されている。

ちょいと学園の生徒管理プログラムから失敬した。


 最近プログラムに侵入者がいることに気づき、少々厄介な防護壁を築いてきたみたいだけど、そんなもの、赤子の手を捻るより簡単に突破してやった。ふふん。


 師匠曰く、ここの生徒管理プログラムは生徒の家が家だけに厳重なものらしく、すごくスリリングでかつデンジャラスで楽しい、だそうだ。

完全にオモチャ代わりにされている。必死になって作り上げたものをそんな扱いされているとなれば制作者は泣き叫ぶだろう。ご愁傷さまです。


 さて。


 敵を知る時には徹底的に知れ。そして余す所なく弱味を握って対するべし。

 師匠が常日頃から言っていることだ。



 三人分を頭に叩き込み、プログラムを閉じた。

収穫はないこともないが、大していいものは見つからなかった。

 名前が分かっただけいいとしよう。あとは他の手段で見つけるか、それとも…。



 ブーブーブー



 バイブ機能にしていたスマホが机の上で振動している。

しばらくしたら止むかと放っておいてもなかなか鳴りやまない。


 電話か…誰だろう?……先生?



「はい、もしもし」

「な、奈緒様ぁっ!!あぁ、良うございました!!大変でございます!!」

「どうしたんですの?」



 千鶴のダンスレッスンをしてくれているはずの女性からの電話、しかも相手はかなり慌てている。

自然と私の眉が寄った。



「実はさっき生徒会が来て…

「分かりました。すぐに行きますわ」



 かなり狼狽えている先生に皆まで言われる前に私は立ち上がり、大急ぎで部屋を出た。



 あぁ、最悪だ。私がいない時に接触するなんて。


 千鶴……すさまじく頑丈なフラグだけは立てないようにしてよ?



 朝霞恵斗は主人公を海外の無人島購入して拉致監禁。

 西條呉羽は群がる男共に嫉妬して全て葬り去った後、次は主人公を永遠に自分のものにするために手にかけた。

 神園瑠偉は自分を傷つけ、一生側にいることを誓わせた。

 滝川由岐は…唯一の良心と言われるだけあって溺愛しまくり、激甘すぎて軽い軟禁状態。


 ちなみに霧島颯は私という支えから切り離した後、うまく誘導して彼しか信じられないようにした。

 七瀬礼司は彼女には男として接し、媚薬で主人公と既成事実を作った。



 これで分かっただろうか。

これが千鶴の置かれたキャラ位置だ。



 彼女が幸せになるエンドなんてひとっつも用意されていない。

 そして私はどのルートでもいいように利用されたあげくに殺される。



 それなのにっ!!



 私は絶対に千鶴がいるであろう場所に向かった。

つまり、彼らのテリトリーである生徒会室へ。




バタンッ!



「千鶴っ!!」

「…な、奈緒ちゃん」



 勢いよくドアを開けて中に入ると千鶴が皆に囲まれてソファーに座らされていた。驚いているのは千鶴だけで、他の四人はまるで私が来ることが分かっていたかのように至って平然としている。

 むしろ、私が来ることが前提だったという空気すら漂ってきているのは私の自意識過剰なだけなのだと思いたい。



 相変わらず生徒会室とは思えない豪華さに目もくれず、ただ千鶴の側へ足早に駆け寄った。



 服も乱れてないし、涙の後もない。他にも変わった所は……ないな。良かったぁ。



 千鶴を四人から隠すように仁王立ちになり



「千鶴を何の用で呼び出したんですの?彼女は今、ダンスパーティーのレッスン中ですのよ。邪魔はしないでいただきたいのですけれど」



 怒りを抑え、親玉である朝霞恵斗を睨みつけた。

しかし、奴は気にした風は全くない。

それが余計私をイライラさせた。



「神宮寺さん、落ち着いてください。彼女にはあなたと一緒に生徒会を手伝っていただけないか打診していただけです」

「私はその話を既にお断りしたはず。覆すつもりはありませんわ」

「それを受けると言ったのはこいつ自らだと言ってもか?」

「何ですって?」



 今、朝霞恵斗から何か聞き捨てならないことを言われた?

 私の空耳かしら。

 いやね、ここ連日のストレスよ、きっと。



「奈緒ちゃん、私、奈緒ちゃんをこれ以上嫌な目にあわせたくないの。私が来るまでは女の子達に嫌がらせされることなんてなかったんでしょう?」



 千鶴が背中に詰め寄ってきて、制服の後ろをキュッと軽く引っ張ってきた。首だけを後ろに向けると、千鶴の目と視線がかち合い、ゆらゆらと揺れ動く瞳が私一人を映している。



 誰だ、その情報を流したのは。

彼女が来るまでそういったことがなかったのは確かだけど、それで今、嫌な目にあっていることなど全くない。



 千鶴が気に病むようなことなど何もないというのに。


 それに嫌がらせにあっているのは私じゃない。

 私に対して行う嫌がらせなら一族朗党皆路頭に迷うだけの覚悟がなくてはできない。せいぜいがあの女達のように嫌みを言うぐらいだろう。

 それすらも自分達の立場をわきまえて行動している生徒達から見れば命知らずにしか見えない所業だはあるけれど。



「生徒会は一流の家柄が揃っている。対価としてこいつにはこの学園にいる間だけでも立派な淑女でいられるようにしてやる。お前の隣にいるためにな」

「………」



 確かに、ここは一流揃いだ。家柄だけでなく本人達も。

決して親の七光りだと言わせないだけの実力を備えている。



 千鶴の意思はできるだけ尊重してやりたい。

でも、相手が彼らだと思うと……

どうしても了承することはできない。



「千鶴のレッスンなら私が手配いたしますわ。そのようなこと条件にださなくても構いません。それに生徒間の嫌がらせを止められないような生徒会には大事な親友を預けられませんもの」

「君はどうしたいの?」



 西條呉羽に話を振られ、千鶴は私をしっかりと見た。

その瞳はもう先程のように揺れてはいない。はっきりとした意志を持った強い瞳だ。


 あぁ、もう。腹をくくるしかないみたい。



「私はこの人達に協力してもらいたい」



 いつになくしっかりはっきりとされる意志表示は私なんかでは覆そうにはない。

 千鶴は天然でふわふわして精神年齢が幼稚園生並みなんじゃないかと思うくらいだけど、一度決めたら断固としてそれを突き通す。


 ちょうど今のように。



「…………はぁー、分かったよ」



 私がもっとしっかりしとけばこんな面倒なことにはならなかったはず。

 仕方ない、自業自得だ。



「さ、レッスンの先生が待ってるから。行っておいで。私はもう少しだけ話があるから」

「うん。じゃあ…よろしくお願いします」

「あぁ」

「こちらこそよろしくお願いしますね」



 千鶴が部屋を出た後、私はそれまで千鶴が座っていた椅子に座った。神園瑠偉が手招きしているけど、きっと枕代わりにするだけだろうからいくつもりはない。



「私が生徒会に入るにあたって一つだけ条件がありますの」

「なに?」

「今度のダンスパーティーで私が言うことに口出ししないでいただきたいのですわ」

「そんなこと。全然オーケーだよ。他ならぬ奈緒ちゃんの頼みだしね!」

「内容は聞かせてもらえないんですか?」

「ダメですわ。まぁ、あなた達にとっても悪い話ではありませんのよ?むしろこの学園のためでしょうし」

「それなら僕に異論はありません」

「…奈緒がすることなら」



 後は朝霞恵斗だけ。豪華な一人用ソファーにふんぞりかえったように座る男は私の瞳を真っ直ぐ見てきた。まるで、目だけで私の考えを読もうとするような。

 だけどそれも長くはなかった。



「好きにしろ」



 よし。生徒会長の許可はもぎ取った。

後は颯の方をなんとかすれば大丈夫。



「それでは私も失礼しますわ」

「えーもう行っちゃうの!?」

「…まだいればいいのに」

「やるべきことが残っていますから。ご機嫌よう」



 悠長にこんな所で時間をくっている暇は私にはない。さっさと戻って仕掛けをどこに配置するか考えなきゃ。

きちんと頭を使わないと有効な仕掛けもただのゴミになるからね。


 あぁ、忙しい。

だけど…こういう忙しさは嫌いじゃない。

むしろ…………大好物。




 その日、私と千鶴は正式に生徒会役員になった。

私にとっては悪夢の日として記憶に刻まれることになるのはまた別のお話。


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