抱きしめ愛してくれる
わたくしも剣を構えた。
陛下がなんと言おうとも、負けはしない。
勝って終わりにする――。
「いきます……!」
「来るがいい、クリス。お前の実力を見極めてやろう」
距離を一気に詰め、わたくしは剣を振るった。
その攻撃を陛下は防御していた。
さすが決闘を申し込んでくるだけある。
「……!」
「ほう、やるな。クリス」
「陛下の方こそ」
続けて剣を交えていく。
一撃、二撃と続いていくけれど、陛下の反撃はない。
ならば、これで決める。
陛下の剣さえ弾いてしまえば、こちらの勝ち。
だから。
「おいおい、クリス。私の剣を弾くつもりだな」
「……!」
「驚いたであろう。だが、この立場にもなると普通のことなのだ。人の感情を読み取り、命令を下す。それが私の仕事だ」
今度は陛下の反撃。
鋭い剣裁きでわたくしを追い詰める。
…………予想以上の剣の腕。
さすがフェイルノートに習っただけはある。
でも。
わたくしは陛下以上に経験を積んでいる。血みどろの戦いの目の当たりにしてきた。あれから自分を強くしていこうと努力もしてきた。
だからっ!
「残念ですが、これで」
陛下の突き攻撃を回避し、わたくしは陛下の首元に刃を向けた。
「………………」
陛下は剣を落とし、ゆっくりと下がっていた。
「……わたくしの勝ちです」
「見事だ、クリス。お前の実力は本物だ」
「では……」
「ああ、フェイルノートと幸せになるがいい」
「本当ですか!」
「いい余興であった。お前の愛、しかとこの目で見届けた」
「え……」
陛下は背を向け奥へ歩いていく。
もしかして試されていたのかしら……?
なんにせよ、これでようやく終わり。
「お疲れ様、クリス」
「ありがとうございます、フェイルノート様」
「どうやら陛下は退屈だったみたいだね」
「そのようですね」
お城を出て邸宅を目指す。
帰ってからはフェイルノートと幸せな日々。
毎日抱きしめ愛してくれる。それだけで、わたくしは十分。




