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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
22/55

異世界召喚されたヤツザキ先輩とニノマエ会長

これは一年くらい前にメモしていたネタです。

小林、つい最近に作品の保管に使っていたUSBがバグったので……なんと中身の9割が失われてしまいまして。

フォーマットする前に無事(文字化け/データ破損して無い)モノをサルベージしとこうと漁っていたら、こんなものを発見しました。

異世界召喚された八崎先輩と一会長




 その日、世界の片隅で。

 二人の青年が、生まれた世界から消えた。


 時間は昼の午後三時。

 掃除の時間をサボって生徒会室で昼寝していた部外者と、生徒会室に忘れ物を取りに来た生徒会長。

 名前は八崎刃金と、一威。

 二人は誰もが「タイプが違う」と口をそろえて言う対照的な二人で、そして親友だった。


「八崎、そんなところで寝てると七限目に遅れるよ?」

「ああ゛? んなだりぃもん出てられっかよ」

「そんなこと言って……次の時間、確か現国だろう? 見山先生、次に八崎がサボったらポエム調の反省文書かせてやるって息巻いてたよ」

「そんなん無視だ、無視」

「単位貰えなくっても知らないよ。あーあ、来年は八崎だけ学校に残留かあ……俺の後輩だね、八崎」

「………………単位だったらギリ計算してあっから平気だ。あと四回は」

「課題はどうするんだい」

「はっそんなもん……俺には便利な舎弟っつう下僕共がいるからな」

「また誰にやらせるつもりなんだか……まあ、八崎の人生だからね。俺があまり口を出す事じゃないんだろうけど」


 それじゃあ授業に遅れるから、と。

 生徒会長の一君が生徒会室から出ようとした瞬間。


 窓ガラスを突き破って、三階の窓から乱入してきたモノがいた。


 唐突に現れたそれは――大蛇。


 一口でぱくりと二人を丸呑みに出来そうな、冗談みたいな大蛇がそこにいる。

 鎌首をもたげ、睥睨するように青年達を睨み降ろす獣の目。

 いきなり現れた非日常に二人は唖然とし……ほぼ同時に、蛇に睨まれた二人は動いていた。

 このままでは大蛇に呑まれる。

 直観的に悟ったが故の、生存本能に突き動かされての突発的な抵抗。

 

 即座に動いた二人の内、早かったのは物理的で物騒な方向に行動力溢れるデンジャーな毎日を送る八崎の方。

 彼は培った喧嘩の勘に逆らわず……小回りの利かない大蛇の喉元へと、顎の下から潜り抜け、反骨精神に任せて勢いの乗った前蹴りを放つ。

 その動きを読んでいたとばかりに、同時に動いていた一は迷わず赤い金属缶へと飛び付いた。

 人はそれを――消火器と呼ぶ。


「一!」

「真面目に受けてて良かった防火講習!!」


 真っ直ぐにホースの口を、自らの身に迫る大蛇の大口……よりやや角度上方、大蛇の目へと向けて……

 一は冷静に安全ピンを引き抜き、レバーを握った。

 まだ。まだだ。

 まだ、距離があり過ぎる。

 恐怖から今にもレバーを握りこみたい感情を、理性で抑える。

 そうして図ったタイミング通り、確実に相手に打撃を与えられる射程範囲へと大蛇が飛び込んできた瞬間を見計らい。

 絶対に避けようがない消火の技を、一は大蛇めがけてお見舞いした。

 ついでに噴射し終わっていない消火器を蛇の喉奥めがけて全力投擲するおまけまできっちりお付けして。

 怯んだ大蛇に、機を見失わず。

 八崎は蛇の背へと駆けのぼり、頭上へ回り……そして、蛇の頭から飛び降りがてら。


 蛇の眼球めがけ、体重の乗った踵蹴りをお見舞いした。


 蛇の絶叫。

 非現実と呼ぶしかない現象が、現実感を伴う生徒会室の中で響き渡る。

 割れ残っていたガラスが、共鳴してびりびりと震える。

 しかし大音声の筈のソレに……何故か、駆け付ける者はいない。

 蛇が暴れているこの場に、異変を察して駆け付ける者がいないのは変だ。

 そのことに気付いてか、一は生徒会室のドアを開け放とうとするが。


「っ開かない! 鍵なんて掛けてないのにっ」

「くそ、どうなってんだ!」


 苛立ちに任せて、八崎は蛇へとパイプ椅子で殴りつける。

 それも大して堪えた様子は微塵と見せず。

 

 だが、大蛇は動きを止めた。


 行動不能に陥ったようには見えないというのに。


 先程までの荒ぶった様子は削ぎ落とされ、未だ警戒に毛を逆立てる青年達へと静謐な眼差しを注ぎ。

 蛇の閉じられた……内部は泡だらけの……口から、人のモノとは思えぬ異質な声がした。


『――勇敢な青年達よ、選定はなされた』


「えっ」

「はあ!?」

 

 戸惑う彼らの様子にはお構いなしに、大蛇の声は……突如として溶けかけたチョコレートのように歪曲し出した『生徒会室(くうかん)』に反響し、空気を染める。


『そなた達のような強き心の持ち主を、ずっと探していた……。そなたらこそ、我が世界の救い手に相応しい。どうかその強き心で、強き力で……我らが故郷を守り、導いておくれ』

 

 そうして、時間は昼の午後三時。

 青年達は自らの防衛本能からの行動を、知らぬ間に審査された結果。

 大蛇の声が掻き消えるのと同時に、青年達の姿も大蛇に呑まれて『世界』から掻き消えていた。


 彼らの行く先は、常世か現世か有為の奥山の彼方なのか。

 彼らの行く先は、いずこ。






 いつ意識を失ったかもわからないまま、目が覚めた時。

 二人の青年は、自分達が全く見も知らぬ場所にいることに気付いた。

 そこは炎を内包するかの如く仄赤く輝く石の列柱に囲まれた広間の真ん中で。

 室内から窺える建築様式が自分の知るどの文明文化のものとも異なることを見て取った瞬間、一は自分が未知の文明の中に身を置いていることを悟った。

 八崎の方はそこまで頭が回った訳ではないが、寝起きの不機嫌さと癖でまず周囲を囲む人達へと威嚇代りにガンくれる。

 

「へ、陛下! 『蛇の祭壇』に身を現しになられた英雄様方が、お目覚めに……!」


 説明口調、お疲れ様。一は口の中だけでぼそっと呟く。

 この状況を鑑みて、察するものがない訳ではない。

 何しろ日本の環境で、アニメ文化に全く触れず成長するのは難しいもので。

 一も八崎もそこまでオタク文化に詳しい方ではなかったが……折良く、馴染みの何人かが異世界召喚などという怪しいワード満載のライトノベルに昨今はまっていた。

 そいつの最近の口癖は「異世界に行って俺TUEEEEEで無双したい……!」だった。

 二人はそれを馬鹿らしいと鼻で笑ったり苦笑したりと、あまり真面目に取り合わずに流している側だったのだが。

 まさか流していた我が身の方に起きるとは。

 得てしてこういうことは、本当に望んでいるモノにはチャンスすら訪れないものである。

 もしもあの日の午後三時、馴染みのそいつも生徒会室に居合わせていれば……夢が叶ってしまう可能性もあったものを。


「おい、一。これどういう状況だ?」

「よくわからないけど……多分、三宮が言ってた『異世界召喚』ってやつじゃないかな」

「は? そんなん現実に有り得っかよ」

「有り得ないとは思うんだ。だけど、ねえ? 八崎? それこそ周囲(まわり)を見回して、現実ってヤツをお目にかけてみよう?」


 百聞は一見にしかず。

 目に見えるものを、そのままに。

 現実から目を逸らして、状況が好転することは……まず、ない。

 八崎はきゅうりと間違えてゴーヤを思いっきり噛み砕いてしまったような顔をして、心底嫌そうに自分の身が置かれた環境を見回した。


 周囲にいる人間の、実に九割が金髪美女だった。


 計上すればその数、三百二十二人。

 これだけ金髪美女ばかりが取り揃えられると、有難味もくそもない。

 しかもその美女達は、頭から『巨大モモンガ』としか形容しようのない毛皮を被っていた。

 よーし、間違いなく異文化だ。

 美女達の服装を観察して、八崎は確信した。 

 彼女達の毛皮の下からチラチラ垣間見える肉体を包むのは、黒地に紫ストライプの一枚布トーガ風。

 基本黒い布の癖にうっすら肌色が透けて見え、かなり際どくセクシーなことになってしまっている。毛皮さえなければ、だが。

 おまけに肉体の凹凸を忠実に反映させてしまっている布地越しのボディラインが確かであれば……まず間違いなく、下着を付けていない!

 三百人余の破廉恥美女達に囲まれていることに気付き、八崎は若干居心地悪そうに身じろいだ。

 彼だって若い男、美女も破廉恥も大好物だ。

 しかしここまで誰はばかることもなく堂々と、恥じることもなく、堂々と。

 何という事のない顔で、平然と大量の異文化美女に囲まれているのだ。

 ちなみに全員、能面のような無表情。

 ここまで極められると、いくら若い女が好きでもたじろいでしまうというものだ。

 









八崎先輩

 本名:八崎刃金(やつざきはがね)

 高校三年生 18歳

 向かうところ敵なしの喧嘩番長。暴君。

 沢山の舎弟と謎の人脈を有しており、いつだって携帯一つで呼び出してしまう。

 親友の一会長と一緒に勇者として召喚された。

 誰もが(本人もが)ジョブは物理戦闘系だろうと予想する中、職業欄には『召喚士』の文字。

 契約した魔物や幻獣を呼び出せる職業のはずだが……

 それは決して携帯で舎弟を地球から呼び出せる(時間制限あり)職業ではなかったはずだ。

「あ? 坂下か? てめぇ五秒で出ろや。……おう、そうだ。今から三分で俺んとこ来い」

『三分って! ちゃんと行きますけどー、先輩いまどこに…………ええぇぇぇ!? ここどこ!!?」


一会長

 本名:一威(にのまえたける)

 高校三年生 18歳

 物腰穏やかで誰もが認める完全無欠の生徒会長。

 紳士で優しい人格者と評判だが、思考回路の方が割とブラックであることは知られていない。

 その前面に押し出された会長オーラでうやむやに誤魔化されているが、冷静に、客観的に考えると言動が酷い。

 呼吸をするよりも自然に策を巡らせる、優秀な頭脳の持ち主でもある。だが天然。

 親友の八崎先輩と一緒に勇者として召喚された。

 誰もが(本人もが)ジョブは僧侶や賢者といった後衛だろうと予想する中、職業欄には『支配者』の文字。

 今までに例のない職業なので、どういった能力があるのか未知数。

 しかしスキル欄に並んでいる暴君のお手本のような文字の羅列から察せられるものはある。




電話一本で時空の向こうから世界の境界を越えて舎弟を召喚してくるヤンキーと、にこやかな笑顔と穏やかで真人間っぽい物腰で全てを支配してこようとする生徒会長。

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