9話
侯爵邸の中ではお互いの家族が初めてとは思えない程、穏やかで心地の良い時間を過ごせた。
ただ、ジオ・ベイリー様だけは口元は笑っているが目は確かに氷の様な冷たさを感じた。
ご両親はとても仲の良い笑顔が素敵な方達なのにそこだけは残念に感じられた。
尤も、最初から優しさなど、期待はしていなかったので、さほど気にもならなかったというのが本音だった。
それから、暫くすると、あちらのご両親が気を効かせてくれて、二人で庭の散歩でもして来たらどうかと言って下さったので、早速案内をしてもらう事にした。
流石は侯爵邸のお庭、思わずキャンパスが有れば直ぐにでも描きたくなるような素晴らしいお庭だった。
暫く並んで歩いていたが、相手は黙ったままなので、私の方から話し掛けてみた。
「素晴らしいお庭ですね」
だけどシーン。(聞こえないのかしら?)
暫くしてから
「母の為に父が作らせたものです」
ポツリと言われた。
「そうなのですね」
言葉が繋がらない。
またシーン。会話が全く成り立たず気不味い雰囲気のところで後ろの方から女性の声がした。
「お兄様ー」
大きな淑女らしからぬ声がした。
その声の主はいきなり二人の間に割って入り、彼の腕にまとわりついてきた。
「ルナどうして君がここに?」
ジオ様は、腕組みされたまま驚いていた。
そして彼女は交戦的な態度で私を睨む。
「お兄様は私の従兄で幼馴染なんですよ、だから是非お相手の方にご挨拶したくって来てしまいました」
そう言いながらベタベタしたままです。そして私を睨みつけたまま言い放つ。
「初めまして私はラナーク伯爵家のルナ・ハミルトンです、確か貴女は子爵家のメアリー様ですよね?」
いかにも爵位は私が上よ、みたいな態度です。
そして、そのまま皆さんのいる所へ戻ると、いつの間にか腕組みをはずして、今度はしおらしく私の後に付いて来た。
それから皆さんに挨拶だけして、あっという間に去って行った。
(いったい何がしたかったのかしら?)
そして夕方になり私達は引き留められたが、もう既に宿を取ってしまっているし、明日いちばんで戻らないと兄の仕事があるので、今度は是非、足の具合が良くなったら王都でお会いしましょう。そう言って、侯爵邸を後にした。
相変わらずジオ様は黙ったままでした。




