33話
ついにことの真相が明らかになった。
私は勿論、怖い思いもしたし、腹も立つが、考えてみれば彼女は幼い頃からずっと旦那様のことが好きで結婚を望んでいたのにいきなり出て来た子爵家出身の私が結婚してしまったのだから、辛い思いをしたのは確かだ。
だから重い罪、ましてや伯爵家の取り潰しまでは望んでいない。
だってなんだかんだ言っても伯爵家当主は義父様のご兄弟なのだから。
旦那様にもお願いをして素直な今の自分の気持ちを伝えた。
旦那様も思うところがあった様で君がそう言ってくれるならと言って感謝の言葉を言って下さった。
私達は連名で重い罪は望まない趣旨の嘆願書を提出した。
一週間後、異例の速さで彼女は屋敷に戻された。
そして彼女は遠い北の地にある修道院に送られた。
加担した男は勘当され、炭鉱で強制労働をして生涯を送る事となった。
そしてもう一人の加担した女性は、内容は知らされず言われたとおりすればお金を貰えるからと協力しただけだったので、一年間の修道院での奉仕活動ということで全てが終わった。
最後まで彼女からの謝罪の言葉は聞けなかったが、私は返ってそれで良かった。その方が彼女に対し心が残らずにすむ様な気がしたからだ。
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私は義両親や伯爵家の方から謝罪をされ、それらを受け入れた。
そして今、私達はそれらを過去の出来事として前を向いて歩もうとしている。
あれから半年が過ぎ、私は今また絵を描く仕事を再開した。
オリバー様のお母様の紹介もあり、仕事は山の様に依頼が来ている。
只、今はお腹に新しい命が宿っているので無理をしない様ゆっくりとしたペースでこなしている。
あれ以来旦那様は心配症になり、あれ程忙しくしていた仕事をどうこなしているのか? それとも放棄しているのか、毎日夕食には間に合う様に帰宅なさっている。
今では世間からもすっかり、愛妻家と言われるまでになっている。そして、子供の誕生を皆が楽しみに待ってくれている。
私の父や兄、お義姉様もこの屋敷に度々、顔をだしてくれている。
そして義両親も領地から沢山の子供のおもちゃなどを持って来ては、これで安泰だ。いつ引退してもいいなと言っては、旦那様に引き留められている。
まさか絵を描く事だけが生き甲斐だった私に、こんな日が訪れるなんて誰が想像できただろう。
こんな幸せな生き方もあるのだとあの頃の自分に教えてあげたい。
旦那様は、そんな私に優しい眼差しを向けてくれる。
「こんな幸せがあることを教えてくれてありがとう」
旦那様は静かに微笑み、言ってくださる。
「それは私も同じです。今の私は誰よりも幸せです」
「そんなふうに言ってもらえて、とても嬉しい。それに、新しい生命を授けてくれてありがとう」
そう言われ、私は照れたように視線を落とした。すると旦那様はそっと私の肩を抱き、額に、そして唇に、優しく口づけを落とした。
その腕の中で、私は静かに願う。
生まれてくる子供と、旦那様と、そして私、三人一緒の肖像画を早く描ける日が訪れることを。
完




