28話
ルナ視点
あの男、今日はちゃんと来てるかしら? あの男の父親は大勢の貴族を顧客に持つ商会をやっているのだから今日の社交界の招待状位、簡単に手に入るって自慢していたけれどまだ姿が見えないわね。
もっとも、今日は会場で会っても絶対声を掛けないでときつく言ってあるから私が気づかないだけかもしれないわ。
お兄様がエスコートしてくれないから仕方なくお父様に頼んだのだけどお父様ったら挨拶があるからって、何処に行ったのかしら? 今のうちに私はあの男の姿を見つけて、お兄様とあの女に近づかないと。
あら、あの二人、オリバー様のお母様達と一緒だわ。今は不味いわね。
漸くあの男の姿を確認して目で合図を送った。ちゃんと女連れで来ているわね。男一人で声を掛けたら流石に警戒されてしまうから、ちゃんと口の堅い女を選ぶ様に言っておいた。
私はあの二人がダンスから戻ってきた来たところでお兄様にはワイン、あの女には媚薬の入った果実水を持って近づいた。
そして二人にそれぞれ飲み物を渡してから
「お兄様エスコートして下さらなかっのだからこれを飲んだら一曲だけでいいので私と踊って下さい。ね、メアリーさん一曲だけお兄様をお借りしてもよろしいかしら?」
するとお兄様はあからさまに困った顔をした。
しかし、あの女が言ってくれた。
「旦那様、私は少し休憩するのでどうぞ行ってらして下さい」
そう言って窓際に移動して行った。
私はすかさずお兄様のワイングラスを近くにいたウエイターに渡してお兄様の手を取りダンスに向かった。
ダンスを踊りながらあの女が果実水を飲むのを確認して、心の中でやったーと叫んだ。
そしてあと一曲だけ踊ってくれたら、今日はお父様と大人しく帰るからと、お願いをして、もう一曲、踊って時間を稼いだ。




