13話
ジオ視点
妻が、仕事も一段落したので領地にある侯爵邸の庭を描きたいと言って出発する朝、見送りする為に表に出ると何故か従妹のルナが顔を出した。
妻に勘違いされたくなくて、絡んでくる腕を払おうとしたが、あまりに強い力なので簡単に振り払えなかった。
今迄だったらどう思われ用が気に掛ける事など無かったが、その時は自然とそうしていた。
今迄に無かった感情だ。
ルナにまとわりつかれるのは子供の頃からなのですっかり慣れてしまったせいか、妹みたいな存在だったので嫌悪感は感じなかったが、最近では何故か妻の前では辞めて欲しいと思う様になっている。
妻と初めて会っ時、清楚な感じで、芯の強そうな瞳をしているなと思った。
そして侯爵邸に来た時に廊下を歩きながら壁に飾ってある絵画を興味深げに真剣に見つめていたのが印象的だった。
絵を描くのが何よりも好きだと聞いていたのでどんな絵を描くのか気になった。
妻が領地に発って暫くして学院時代からの親友のオリバーの家に行った。
彼とは何故か馬が合い、時々お互いの屋敷を行き来する仲だ。
同じ侯爵家同士なので爵位に対する気使いがないのも気が楽なのかもしれない。
その彼の屋敷へ行った時に今迄は無かったオリバーの母君の肖像画が飾ってあった。思わず見入ってしまった。
他にも沢山の絵画が飾られているがこの作品は他の絵画と違って見えた。
何と言ったらいいのか、見た瞬間、目が離せなく、惹きつけられる絵だった。
確かにオリバーの母上は綺麗な方だが、そんな母上の特徴をよく掴んでいるだけではなく、全体的な雰囲気が柔らかく、上手く言葉では表現できないが、とにかく目を奪われる作品だった。
ただの肖像画にこんなに感動を覚えたのは初めてだった。
すると後ろからオリバーが話しかけてきた。
「最近、母が見つけたお気に入りの画家なんだ。なんなら同じ画家が描いた絵が応接室もあるぞ」
そう言って案内してくれた。
その絵は、薔薇の花を描いた作品だった。
先程の肖像画に感じた柔らかさに加え、花なのに存在感も感じた。
正直、絵にはあまり詳しくはないがこんなに感動をしたのは初めてだった。
そういえば妻も絵を描いているが、思わず妻はどんな絵を描くのだろうと一度も目にしたことのない妻の絵に興味が湧いた。
少しするとメイドがいつものようにワインとチーズなど軽いツマミを用意してくれた。
久しぶりにオリバーとの話に花を咲かせていると、そこに彼の母上が帰ってきた。
「あら、いらしていたのね、そう言えば新婚生活はいかがかしら? 楽しくやっているのでしょう? なんだ、奥様も一緒に連れてこられたらよかったのに」
「いや、今は私の両親の領地に行っているんです」
「あら良いお嫁さんね」
「嫌、違うんです。仕事が一段落したので今度は領地にある屋敷の庭に興味があって、そこの風景を描きたいからと先週から行っているんです」
「あらそう言えば画家のお仕事をしているってオリバーから聞いたわ。どんな絵を描くのかしら? 今度是非見てみたいわ」
「ええ、機会があれば今度是非」
尤も、この私もまだ見た事がないとは言わないでおいた。




