第57話→王さまゲーム。
「小動物ごときが、俺の明晰な頭脳に勝てると思うなよ?」
何度か物を投げたりしてまたものの、全て避けられてしまう。
と、いうわけで、肉弾戦から頭脳戦にチェンジすることにした。
とりあえず、昨日の晩飯(食べ始めたのが深夜2時くらい)の残りである、食べかけのトースト(食パンにバター塗ってチーズを乗せただけ)を少し大きめにちぎる。
もちろん、チーズを多めに。
それを部屋の中心辺りに置き、気配を隠しつつベッドの上で構える。
もちろん、右手にはハサミ、左手にはカッターを装備。
殺る準備は万端である。
(ほら、早く来い。早く来い)
そんな俺の祈りが通じたのか、辺りを警戒しながらも、忌々しいネズミは姿を現わした。
俺は息を呑みながら、ハサミを持つ手に力をこめる。
(・・・・こうなったら、ひと思いに・・・)
「だめぇぇぇぇぇえ!!」
突然の声に反応する間もなく、体に衝撃が。
ネズミの野郎は、なぜか開いているドアの隙間からそそくさと逃走。
(・・・・逃がすかよ!)
俺はネズミを追おうと、痛む体に鞭打ちながら一歩を踏み出すが、お腹の辺りに強い衝撃を感じたかと思うと、誰かからベッドに押し倒された。
「なんなんだよ・・・・・・」
二度にもわたる理不尽な痛みのせいで、もう涙目である。
こんな大事な時に・・・・いったい誰だよ・・・。
「・・・・・・・・・何泣いてんの夏那華」
俺の上に馬乗り状態になっている人物・・・・夏那華に視線を向けて、俺は眉をしかめる。
「・・・・義秋、死なないで・・・」
死?・・・・・何言ってんだコイツは。
「・・・俺が死ぬって?」
「だって、両手に刃物持って、目が血走ってたし」
・・・・・・へぇ・・・俺の目、血走ってたんだ・・・・。
いや、そりゃあ命をひとつ刈り取ろうはしていましたけども。
自分の状態なんて、気づくはずないよな。
それだけで、俺が死ぬなんて勘違いがどっから湧いてくるかわかんないけど。
「・・・・・とりあえず、俺が悪かった・・・のかな?」
「何か心配事があるなら、言ってね?相談に乗ってあげるから」
ならネズミの抹殺でも手伝ってくれ、なんて言えるはずもなく、俺はため息混じりに頷く。
「とりあえず、俺の上から降りてくれないか?」
俺がそう言うと、夏那華はにやりと笑った。
「いや。最近、義秋とあんまり絡んでないし」
・・・・・最近は、誰とも絡んでないんだが。
そういえば、ルシフが来てからは他の人とはあまり喋ったりしてないなぁ。とかいまさら思ってみたり。
夏那華も構ってほしいんだろうか?
・・・・まぁ、とりあえず、馬乗りをどうにかしないとやばい。
もし、別の誰かが入ってきたりしたら本気でやばいんだよね。
前ほど酷いことはされないが、怒りの矛先が晩飯とか、俺の大事なコレクションとかに向かうのだ。
理不尽極まりないが、前よりまし・・・・・・だと思わないとやってられないよまじで。
「じ、じゃあさ。ゲームでもしない?」
「・・・・ゲーム?」
俺の提案に興味を持ってくれたのか、俺の上からイソイソと降りる夏那華。
「そ、王さまゲーム。ルールはわかるか?」
「・・・・義秋が持ってる漫画本に載ってた?」
「あー・・・あったかもな。そういうネタ」
そういえばこいつと迷梨、暇さえあれば俺の部屋で漫画本読み漁ってたな。
その漫画本がどれかなんて覚えてないけど。
「んで、やってみるか?」
「・・・・いいけど」
夏那華はにやけを抑えるのに必死みたいだな。
俺に勝つ気でいるみたいだけど、イカサマをしてでも負けるわけにはいかないのだ。
なぜなら、あの糞ネズミにぶつけるはずの怒りがまだ燻っているからな。
さて、どんな罰ゲームを与えてやろうか。
溢れだす思考を、抑えるのに必死な俺なのであった。




