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番外編 Re…… 王子編3

 ミカエラがなおも言葉を継ぐ。

 

「失礼ながら、殿下。愚かな父親というものは、豊かな才能に恵まれた息子に嫉妬するものです。命を奪うほど激しく。そして、全力でその才能を潰す。


 本来、優秀であるあなたは恐れられていたのです。優しく残酷に才能の芽が摘まれたのでしょう。

処刑はおそらく早まります。陛下は、神獣について多くを語ることはなかったようですが、殿下はとても強い力を宿しておられます。


 他人の力を借りずとも、本当はこのような牢を破ることなど造作ないはずです。

 ここで死を待つのも自由です。ですが、あなたが、死を選べば、動乱が始まり、国民が長く苦しむことになります」


 少女が死んでから、初めてリュカの心動く。彼の心には、まだ王族としての矜持が残っていた。


「もし、お前のいうとおり、過去に戻ることが可能ならば、それは私にとって都合が良すぎないか? 私はどうあってもフェリシエルを守るだろう。場合によっては彼女を連れ去り、国を捨てるかもしれぬ」


 ふっと老婆が笑う。


「僭越ながら、殿下はそのような御方ではございません。それに戻ることはそう容易い事ではありません。

 仮に、無事、過去に戻れたとしても、あなたが変われば、周りの人間も変わる。才能を伸ばせば嫉妬され憎まれ疎まれる。あなたを邪魔に思う者達から、日常的に命を狙われ、もしかしたら、今世でこのまま処刑された方が幸せだと思うかも知れません」


 ミカエラの言葉に思い当たる節がある。


「確かに、真実から目をそらしていた私は、皆に愛されていると思い込み、偽りの幸せに満足していた。うすうすは気付いていたはずなのに」


 真実を指摘してくるフェリシエルを鬱陶しく思う事もあった。あの時、彼女の言葉にしっかりと耳を傾けていれば。今思うと自分は隙だらけだった。


「やり直しは一度だけ、断頭台を祭壇と見立て、あなた自身がこの秘術の生贄となります。首が落ち命の尽きる瞬間、時間遡行がはじまります。生きるために死の恐怖に向かい合うのです。あなたは死に戻りの苦しみに耐えられますか」


「彼女の生を奪った刃で刻まれるのならば本望だ」


 王子の瞳が昏く熱を帯びる。


「今ある神獣の力は、一部失われます。そのうえ、新月の晩、あなたはとても非力な存在に。何らかの手を講じなければ、おそらく、いずれそれは命取りとなることでしょう」


 リュカが頷く。


「それともう一つ、この術は非常に難しく、必ずしも成功するとは限らないという事です」

「ああ、それは分かる、これが大規模な魔術であることは」


「そして、そのよりどころはあなたの中に脈打つ神獣の力とあなたの命です。

 もちろん、先ほど提示したようにあなたには他の道もあります。

 ここから逃げ、態勢を立て直し、国王を倒し、成り代わるのです。さすれば、この国はまだ救えるかもしれない。それも今となっては確実とは言えませんが……」

「国王を倒す……」


「現在の王があなたに王位を譲らない限り、倒すしかありません。そして例え、術が成功して死に戻ったとしても、いずれは国王や王妃と対峙することになるでしょう。どちらの道を選ぶにせよ茨。

そして、そのどちらも確実に成功するという保証はありません」


 リュカが黙り込む。少女を失ってから初めて彼の頭脳が動き出す。


「ただ、死に戻りが成功すれば、あなたは味方を増やせるかもしれないし、何よりも愛する人に会えるでしょう」


 リュカが沈痛な表情を浮かべる。


「その魔術はお前が執り行うのだな? だが、それほどの術、ただで済むとは思えない。お前も命の代償を払うという事か?」

「はい、この術により命を落とすことになるでしょう。しかし、私も近いうちに処刑される身、もう充分に生きました」


 そういうとさっぱりとしたような微笑を浮かべた。


「あともう一人協力者が必要となります。まず断頭台を祭壇に見立てるための準備をしなくてはなりません。そして、私は殿下が処刑されるその日ここで祈祷を執り行います。何人たりともこの場に立ち入らないようにしていただきたい。それが出来る者が必要です」


「そのお役目は私がお引き受けいたします」


 ガタンとエスターが椅子から立ち上がる。


「エスター、なぜ? 下手をすれば、その場で切り殺されるぞ」


 静かに首を振るエスターの瞳が絶望に翳る。


「私の大切な友人達はエルウィン殿下が訓練と称して殺していきました。そして結婚を誓い合った女性もこの度の粛清で命を落としました。……やり直せるならば、という気持ちは正直あります。

ただ、殿下がここから逃げ、国を建て直すというのならば、もちろん協力いたします」


 エスターの深い絶望と悲しみが胸を打つ。このままでいいはずがない。



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