086 月に願うこと
86 嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな
なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな
【分類】恋 (男子・悲恋)
【超訳】月の所為って思いたいんだろ?
「嘆き悲しめ」って月が俺に命令したからだろうか。(だから涙が流れるのか?)いや、そうじゃない。うまくいかない恋を、俺が勝手に月の所為にして泣いていることにしたいだけなんだ。
【詠み人】西行法師
俗名は佐藤義清。鳥羽院に仕え「北面の武士」(上皇の身辺警護)を務めていたが23歳で出家。諸国を行脚し、「漂泊の歌人」と称された。
【決まり字】なげけ(3)
【雑感】作者は僧侶ですが、出家する前の叶わなかった恋のことを詠った歌だそうです。当時、鳥羽院の身辺警護の役職についていたそうですが、どうやらそのお后様(待賢門院)に恋してしまったそうです。天皇を譲位され院となられた方のお后様。しかも17歳年上という記述も残っています。
この方23歳で出家とありますから、恋していたころは二十歳ごろ? そのころに30代後半の人妻を好きになって? なんだか、きゃあと胸ときめくのは私だけでしょうか?
この想われ人のお后様、そののち出家して尼となり、40代の若さで亡くなられます。亡くなられたあとも西行法師はお后様の女房だった待賢門院堀河(80)とお后様を偲ぶ歌のやりとりが続いたそうです。だからなのか、この西行法師の歌には僧侶なんだけど恋の歌、とくに月を眺めて恋人を想う歌が多いそうです。なんてロマンティックなお坊様。
恋の歌ではありませんが、この方が詠われた有名な歌を紹介させてください。
願はくは 花のもとにて 春死なん その如月の 望月のころ
(できることなら桜の花咲く春に死にたいものだ。その如月(旧暦2月)の満月のころに)
願いは叶えられ、本当に旧暦の2月にお亡くなりになったそうです。天国では恋しい方は待っていてくださったのかしら? 満月の桜の木の下でその方と想いは交わせたのかしら?
♪次回予告
087 水分三変化




