077 恋する川
77 瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ
せをはやみ いわにせかるる たきがわの われてもすゑに あはむとぞおもふ
【分類】恋 (男子・悲恋)
【超訳】また逢える。信じてる。
流れの激しい川で岩にぶつかった流れがふたつに分けられても、またひとつの流れに戻るだろ? 今は離れていてもきっとまた逢える。俺はそう信じてる。
【詠み人】崇徳院
第75代天皇。鳥羽天皇の第一皇子。父と不仲だったため退位させられる。保元の乱に敗れ、讃岐国(香川県)に流された。
【決まり字】せ(1)
【雑感】私が参考にした文献には、どなたに贈った歌かは書いてありませんでした。実際の恋の歌なのか、「歌合」などで詠まれた架空の恋の歌なのかはわかりません。でもとてもわかりやすいストレートな恋のお歌です。岩のせいでいったんはふたつに分かれる川の流れだけれど、下流でまた一緒になれるよ、また逢えるよ。切ないですよね。そうよね、岩ならそこを過ぎればまた同じ流れに戻れるものね。また出逢えるわよね。
ここからまた漫画ネタに入ってしまうのですが、大和和紀さんの「はいからさんが通る」という漫画があります。漫画自体は大正時代のラブストーリ―です。会ったこともない許嫁同士として出会う主人公ふたりがやがて本当に恋に落ちるというストーリーなのですが、どうしてこのふたりが許嫁同士となったのかというところにこの和歌が使われていたのです。ヒロイン紅緒さんのおじいさまは武士でお相手の少尉のおばあさまは華族の姫だった。そのふたりは恋に落ちたのだけれど、さまざまな事情で結ばれることはなく、いつか子孫が結ばれるようにと約束をして別れます。そのときにこの歌が詠まれてます。そして次に生まれたのが両家とも男子だったので、孫の代の紅緒さんと少尉に順番がまわってきたというわけ。
何十年と流れを分けていた大きな岩だったけれど、ようやく紅緒さんと少尉で流れはひとつに戻りました。それを見届けた少尉のおばあさまは、昔詠んだその和歌の短冊を燃やしました。
私はこちらの漫画を先に読んでいたので、百人一首に選ばれている昔の和歌だと知り驚いたのを覚えています。
でもまさにそんな心情ですよね。今は離れなきゃいけないけれど、きっとまた逢えるから。そう言って相手にも自分にも言い聞かせて別れるせつなさ。もう逢えないかもしれない、なんて思いもよぎるけれど、それでもまた逢おうと、また逢えると思おうとして……。
切ない恋物語の極致ですね。こんな恋はすべて叶えてあげたくなる。当のおふたりで無理なら紅緒さんたちみたいに子孫で? もしくは天国で。あるいは夢の中ででも。どこかで流れはひとつに戻ってほしい。そして永遠の海にたどりついて。そのままふたつにさけて別の川にだけはならないで。
♪次回予告
078 望まぬ人事異動




