005 ため息つくと……
5 奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき
おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきくときぞ あきはかなしき
【分類】秋
【超訳】はぁ――切ないよな。
こんな山奥でさ、紅葉が散って、鹿まで鳴くわけよ。なんでこんなに切ないのさ。悲しいのさ。出てくるのはため息だけだよね。
【詠み人】猿丸太夫
三十六歌仙のひとりだが、詳細は不明。実在したかどうかも定かではない。この和歌も「古今和歌集」では詠み人知らずとなっている。
【決まり字】おく(2)
【雑感】「鳴く鹿」とは秋は鹿の恋の季節で、雌鹿を恋うて鳴く雄鹿の声だそうです。恋の季節ならもっと明るくてもいいと思うのですが、秋と聞いて、紅葉と聞いて、鹿が鳴くと聞くと、下の句を読まなくても悲しいカンジに受け取ってしまいますよね。鹿が落葉した森を歩くカサカサという音が聞こえてきそうです。その音すら物悲しい。鹿の鳴き声も、と言いたいのですが、鹿の鳴き声ってどんなだったかしら。鹿というとあの奈良のおせんべいに食らいついてくる迫力ある鹿さんしか思い浮かばないです。猪突猛進ならぬ鹿突猛進ってカンジの。ごめんなさい、話が逸れました。
紅葉も散る前は秋を彩るのに、どうして落葉するとこんなに切ないんでしょうね。桜が散りゆくときもそうですけれど、命の終わりとか限りあるものの儚さとかを重ねてしまうのでしょうか。紅葉は散るわ、鹿は鳴くわ、俺はこんな山奥でひとりきりだわ(たぶん)、ため息ばかり出ちゃうじゃんかよ、といったところかしら?
そうそう、ため息ってつくと幸せがひとつ逃げていくんですって。すうぅ~っと息を吸って、はぁぁぁぁと息を吐く前に思い出してみて。って無理かな。それから幸せは向こうからは訪れてこないから、両手を挙げて捕まえる準備をしてないといけないんですって。
♪次回予告
006 静かな冬の夜




