誰が為に
コーヒーを飲んでいるとアカネが入店してきた。
スポーツウェアを着用し、髪もまとめ上げている。
「どったのー?」
「ほら、頼みたいことがあるんだろう? そういうことは自分の口で言うべきだ。場はセッティングした。頼んでみるといいさ」
「え、なに?」
「あ、あの、アカネさん! で、しょう、か?」
「え? そう、だけど……」
「わ、私! も、萌香って言います! あ、ああ、あの、お願いがございまして……」
萌香ちゃんは事情を説明していた。
アカネは困ったように顔を掻く。
「断ったら私悪者みたいだなぁ〜……。でも私あまり抜け出せるタイミングが今ないんだよな〜……」
「……ご、ごめんなさい。無理なお願いを」
「ん〜、ま〜、なんとかなるっしょ! いいよ! 怒られたら怒られたでその時! 今から行こう」
「え、大丈夫なんです、か?」
「私に会いたいんでしょ? 思い立ったが吉日! さ、案内して」
アカネはどうやら受けるようだ。
私が会計を済ませ、タクシーに乗り込んだ。タクシーで妹さんが入院しているという病院に向かってもらう。
カードでタクシー代を支払い、面会と告げて妹さんの病室へ向かう。
「妹さんはなんていうの?」
「え、えと、音令花です!」
「音令花ちゃん! オッケー」
宮園 音令花と書かれたプレートがある部屋に入っていった。
部屋には点滴がなされている女の子が外を見ていた。窓の外を眺めていたが、突然の扉の音に驚いたのかこちらをみる。
すると、女の子の顔がみるみる赤くなっていった。
「あ、ああ、アカネさんだ……!」
「音令花! 会いたい人連れてきたよっ!」
「お姉ちゃん……!」
二人は抱きしめ合う。
「感動のシーンだね……」
「…………」
「音令花ちゃん、初めまして。私のことは知ってるよね? うん、アカネです。お姉ちゃんに頼まれて来ちゃった」
「あ、ああ、お、音令花ですっ! ずっと……ずっと見てましたっ! クオンさんもいるっ!」
「初めましてだね。よろし」
と言いかけた時、扉が急に開かれた。
息を切らして入って来たのは妙齢の女性と息を切らしてる男性。音令花ちゃんに朗報よっと叫んでいた。
「適合する人が見つかったわ! 今から連絡したら間に合うかもしれないって……!」
「え……」
「よかった……。その人に今連絡してみてる最中なの」
と、その時スマホが鳴り響く。
スマホの着信が鳴っていたのはアカネだった。アカネが電話に出ると「嘘でしょ?」と呟く。
「誰からだい?」
「えと……適合者、私、みたい……」
「……マジ?」
「数年前に人のためになんならと思ってドナー登録してたんだけど……。マジで適合したみたい」
「それは……」
親族ならまだしも親族ではない人が適合するって相当珍しいことではないだろうか。
「えと、萌香、音令花、この方々は……」
「アカネさん! お姉ちゃんが連れて来てくれたんだよ!」
「そ、そうなの……。初めまして、宮園 萌香と音令花の母です……」
「あ、ご丁寧にどうも……」
医者の人が息を切らして入って来た。
音令花ちゃんに見つかったと言う事実を告げ、名前は雨宮 茜という女性ということを告げる。
アカネが手を挙げた。
「あのー、その雨宮 茜は私です……」
「えっ?」
「えっ?」
音令花ちゃんの両親も驚いて固まっていた。
すぐ近くにドナーの奴が来てたら驚くよな。
「もちろん私はオッケーですよ。その前にちょっと電話させてください……」
そう言ってアカネは医者に免許証を渡して出ていった。
アカネはため息を吐く。
「よりにもよって今! 流石にイベントに穴あけちゃうけどぉ〜……。私のおかげで助かるんならもぉ〜……。よりにもよって今っ!」
「奇跡……といえばいいのかね?」
「ある意味奇跡ではあるけどね……。とりあえずしばらく忙しくなるよもぅ……。まぁいいけどねっ。私の骨髄で未来ある若者が助かるんならねっ。……ちなみに久遠とかそういうの登録してたりする?」
「私もしているが……。私はこの傷で輸血されたばかりだろう。無理だよ」
「そうだった」
これは萌香ちゃんたちが頑張ったから奇跡が起きた、と捉えていいのか?
ま、これも人助けだろう。




