身体は資本
コポコポとコーヒーのバリスタが稼働する。
アカネのために一つは牛乳と砂糖を入れ、アカネの前に持っていく。今日はイベント最終日だが、私はギリギリのところで5万枚を集め終わったので問題はないのと、今日は一日ゲームしないデーということになったのだった。
「茜。私に付き合わずとも君はゲームをしていいんだがね」
「私も付き合うよー。とりあえず今日は運動とかしようか! 最近してないでしょ?」
「まぁしてないね」
ゲームをやり始めてから運動はしていない気がする。
一応、大学時代のときとかは健康のために毎朝ジョギングぐらいの運動をしている習慣はあったのだがいつのまにかやらなくなってしまった。
倒れたのは体力の少なさかもしれないな。外は快晴だし、運動するのも悪くないだろう。
「じゃあスポーツドリンクでも作ろうか。この炎天下の中、水分もなしに走るのは自殺行為だからな……」
「屋内でもいいよ! トレーニングルームあるから!」
「あるのかい?」
「久遠って家の中探検しないよねぇ。あるんだよ。ゲーマーも体が資本だからね! VRMMOは特に体を現実世界ではそこまで動かさないから体力の低下が著しいんだよ。ランニングマシンとかいろいろ設備充実させてるから!」
そういって、茜は地下へと続く階段を下りていく。
私は基本自分の部屋とトイレと風呂とリビングしか行き来はせず、ほかの部屋には興味がそこまでないためにこの地下室とかは知らなかった。
地下はひんやりして快適で、広い空間。ダンベルとかも置かれているし、小さいながらもジムのような設備が整っている。
「これ総額いくらだい?」
「地下室込みでざっと億は越えてる」
「富豪だね」
「ま、これでも有名配信者ですから」
私は早速ランニングマシンの上に乗り、速度を少しゆっくりにして走り始めた。
体力の低下は私にとっても避けておきたいからな。ゲームをやるのはやはり体力がものをいうし、運動神経はなくてもさして問題ではないが体力がないのは問題だ。
「ま、どうせなら視聴者に応援してもらいながらやろ!」
「配信できるのかいこの部屋」
「トレーニング配信もしてるからね」
「そうかい」
私はほっほっ、と息を切らしながら自分のペースで走る。
汗が首筋に伝ってくる。私は一度ランニングマシンから降りた。
「茜、ヘアゴムはあるかい?」
「あー、今ないや。私のあげる」
「ありがとう」
茜がヘアゴムを取り、私に投げ渡す。
私は邪魔な自分の髪をまとめ上げ、再び走り出す。
「……なんだい、そんなじっと見つめて」
「いや、髪をまとめる女子ってエロいよねっていう話」
「そうかい」
やはり体力がだいぶ低下しているように感じる。
もうすでにきつい。運動をさぼっていた期間がちょっと長いからここまで体力が減っている。運動はさぼったらだめだというのは本当だったようだ。
だが、きついからといってやめるのも情けない。せめて5分は走れるようにしなければ。全力で、耐える。
「はっ……はっ……」
「あ、初見さんいらっしゃい。今ね、トレーニング配信してます。体作りはゲーマーにとっても大事だからね。……イベント? あぁ、もうコインは集め終わったからあと交換するだけー。交換は期限過ぎても1週間はできるからねぇ。それに、久遠がゲームのやりすぎてぶっ倒れたからちょっとお休み。あ、うん、もう体調は大丈夫だよ。走れるし」
大丈夫かどうかは私が答えるべきではないだろうか。
私は何とか10分走り切り、タオルがないので着ていた服で汗をぬぐう。臍がちらりと画面に映っていた。
”えっろ”
”無防備すぎる”
”ありがとうございます”
”目覚めそう”
「あぁ、そういえば配信しているんだったね。まぁ、臍が見えるくらいどうでもいいか……。さすがに数週間もろくに運動してないときついね……」
「やっぱ人間運動は大事だよねー」
「そうだね。みんなも運動はこまめにしておいたほうがいいよ。私は身をもって体験したからね」
倒れたのは体力のなさが原因だからな……。




