酒呑童子
悪路王を撃破し、私たちはホラーコインを山分けしていた。
カーバンクルの新たなスキル、破邪の光を手に入れ、尚且つ撃破もできた。なかなか順調だ。一回は死ぬと思っていたがアカネが強かったので死ぬことはなく無事に終わる。
チェシャ猫が強制的に返され、私たちはひと息つこうとした時だった。
アカネが私の頭の上を指差した。
「クオン、その頭の上に乗ってる妖怪なに……?」
「頭の上?」
私は頭の上を手で弄り、何かにあたったので持ち上げて前に持ってくる。
古びた日本人形みたいな見た目をしている。呪いの日本人形……かと思ったが、名前には座敷童と表示されていた。
日本人形みたいな妖怪はニッコリ笑う。そして、私のアイテム欄からホラーコインを勝手に取り出すと、笑顔でその周りを踊り始めた。
「なにしてんの?」
「さぁ……」
「止めなくていいの?」
「まだ危害を加えられたわけじゃないからな……」
座敷童が踊る。
すると、ホラーコインの数がなんだか増えている気がした。
座敷童がニッコリ笑い私を指さすと、すうぅ……と消えていく。ホラーコインをとりあえずしまうと、ホラーコインが1.5倍増えていた。2万枚あったホラーコインが3万枚になっている。
「増えてる」
「えっ!? いい妖怪じゃん!?」
「ラッキーだな」
どうやら座敷童は取り憑いた人間のホラーコインを増やしてくれる効果があるらしい。いつ取り憑かれたかは分からないが、だいぶラッキーだ。
とりあえず、5万枚を目標にしていたホラーコインの目標額に一歩近づけた。
「だが、ここまで幸運には裏がありそうな気もするが」
「その通りだぜぃ。禍福は糾える縄の如しっていう言葉があるだろ?」
という女の声が聞こえる。
振り返るとら頭に2本小さいツノを生やした大きな金棒を持った女性が木の上に立っていた。
その女はしゅたっと地面に降り立つ。
「座敷童は幸運の象徴だ。それを付け狙う悪どい輩もいるってもんさ」
「クオン、下がって」
「アタシのようになァ!」
女は金棒を振るう。
アカネが剣で攻撃を受け止めた。だが力負けして吹っ飛んでいく。
「悪路王を倒すたぁやるじゃねぇかメスガキ共! お次の相手はこのアタシ、酒呑童子様だぜ!」
「三大妖怪……」
三大妖怪と呼ばれる妖怪がいる。
大嶽丸、玉藻前、そして酒呑童子の三体。三大妖怪と呼ばれるそんな妖怪たちがゲームで弱いというわけがまずないだろう。
アカネは死んでしまったのか、そのまま消えていく。モロに一撃を喰らった時点で負け、私は今現在チェシャ猫がいない。
「…………」
「次はお前さんだな」
勝てる気がしない。
アカネが一撃で死ぬ火力なら私は絶対耐えられないだろう。
私は金棒を振りかぶる酒呑童子に対し、唱える。
妖怪に通じるか分からないが……。
「テイム!」
私はテイムと唱えた。
酒呑童子の動きが止まる。まさか、妖怪相手にもテイムは通じるのか……?
酒呑童子は顎に手を当ててなにやら考え始めた。
「待てよ……。アタシがこいつを殺したところで座敷童の幸運が巡ってくるとは限らねえ……。だったら一度座敷童の加護を受けたコイツについてきゃ受けれるんじゃねェか?」
酒呑童子の周りから放たれるテイム完了の合図。
本気か? 苦し紛れのテイムだったし、通じるかどうかは賭け、通じたら硬直効果を利用してインダラを召喚し逃げる算段だったが……。
「へへっ、しゃあねぇ。アタシの力を貸してやんよ。アタシは酒呑童子。よろしくな!」
「……クオン。よろしく頼むよ」
「あんたが受けた座敷童の加護に乗っからせてもらうとすらぁ! アンタのそばにいりゃ座敷童の幸運に乗っかれるな! ほら、お前ら人間には捕まえたモンを入れとく奴があんだろ? アタシもそれにいれろ」
「あ、あぁ」
召喚を解除してみると、酒呑童子の姿が消えてしまったのだった。
そして、テイマーブックには瓢箪のマークが刻まれている。
「……酒呑童子が仲間に加わったことでいいのかね?」
とりあえず強いモンスターは大歓迎だ。
元気いっぱい酒呑童子!




