相撲
昨日は顔が戻らなくなってしまったのでとりあえず受け入れてホラーコイン集めを再開していた。
場所を移動しながら妖怪たちを倒していく。今日は第一エリアのミミミミ湖という湖のほうに向かっていた。
ミミミミ湖。言いづらい名前だが、第一エリアにある大きな湖だ。ここには水辺を縄張りとするマスコットモンスターのほわほわカピバラというモンスターが出現するエリアだ。ほわほわカピバラは魔物ではあるが敵対心がなく、いつも穴を掘ってそこに水を入れて自分で湯を沸かして温泉に入ってるだけのモンスターであり、その可愛さに癒される人が多いのだとか。
湖の周辺にはそのカピバラが掘ったと思われる穴があり、カピバラが目を細めて温泉を堪能している。
「カピカピ……」
「入れと言ってるのかい?」
私たちは温泉に入ったのだった。
カピバラが温泉に入ることを促すとは。いい湯加減である。
「カピカピ」
「なんて言ってるかさっぱりだねぇ」
「温泉に入ってるんだから気を抜けやーとか?」
「いや……そうだね。このイベントが終わったら温泉に行きたいものだ」
「じゃあいく!? 熱海、箱根、草津、登別……。どこでもいーよっ!」
「そうだねぇ……。有馬温泉はどうだい?」
「いいねっ!」
と、イベントが終わった後の予定が決まった。
それならば温泉でゆっくりしている暇はない。私たちはとりあえず妖怪たちを探して倒してホラーコインを集めなくては。
私が立ち上がろうとした時だった。
「まぁまぁ、ゆっくりしていきねぃ」
「……河童?」
「おうともよ。あっしは河童」
河童がキュウリを齧りながら温泉につかっていた。
「おみゃーさんら、俺たちのコインを集めてるんだってな」
「……話が早いね。やるかい?」
「いいや、あっしは殺し合いなんて勘弁さ。だからよ、あっしと相撲勝負をしようぜ。あっしに相撲で勝ったらホラーコインをやるぜ。どうだ?」
「まぁ、もらえるんならなんでもいいよ」
「よし来たっ! カピバラども! 土俵を作りやがれってんだい!」
カピバラたちが河童の号令で動き始めた。
円形に穴を掘っていき、水を入れたかと思うと中に入ってぐつぐつと湯を沸かす。絶妙な温度になっていた。
そして、その円形の土俵の真ん中に河童が立つ。
「いよぉ! 東はこのあっし、河童でござんす! さぁさぁ、かかってきやがれってんだ!」
「じゃ、私は西~」
「東、河童、西はアカネ富士! さぁ、勝ったら至福、負けたら極楽の相撲一番勝負だ~い!」
「はっけよい」
アカネは両手を地面についた。
そして、残ったと合図が出る。河童とアカネがぶつかり合っていた。回しがないので勝利方法は押し出しか転倒、その二択。
押し出された場合待っているのは温泉。温泉にドボンと投げ入れられる未来。
「残った残ったァ~!」
「ふぬっ……。攻撃力のパラメーターがちょっと足りなかったかな……」
ずりずりとアカネが押し出されていく。
「アカネ、ファイトだよ」
「頑張るッ!」
「ぬおっ!」
アカネが今度は押し出していた。
河童とアカネがぶつかり合う。河童は楽しそうに笑っていた。
「相撲っていうのはこうでなくちゃねぃ! 取っ組み合ったら種族の垣根なんてねぇのさ!」
「ふぬぬぬぬ……!」
「ぶつかり合い、わかちあう! 友情とおんなじさ!」
「ふんぬぉ~~~~!」
アカネが力いっぱい押し出していく。
そして、河童は宙を舞った。そのまま温泉の中に落ちていく。
温泉から顔を出し、濡れた体で土俵に再び入った。そして、右手をアカネに差し出すと、アカネもその手を取る。
さわやかな笑顔を浮かべる河童。
「いい勝負だったぜ……。アカネ富士、なかなかやるじゃねぇか。お前の心意気、あっしには伝わってきたぜ……」
「や、約束通り頂戴ね……」
「おうともよ。受け取りな」
河童はホラーコインを投げ渡してきたのだった。
「あっしはもう疲れたから今日は相撲やらねー……。また明日来たならやってもいいぜ」
「わかった……」
「それとお前さんら、ホラーコインを集めてんだろ? キュウリをくれたら妖怪の情報をやってもいいぜぇ」
「キュウリ? クオン持ってる?」
「持ってないよ」
「そうかい。ま、初回だから特別に教えたらぁ。次はキュウリをくれよな……。この第一エリアには妖怪中でも随一の強さを誇る妖怪がいるんでさぁ。そいつを倒しゃあホラーコインはザクザクよ」
「……随一の」
「ここから……少し先のあの山に住んでるっていう話でさぁ」
河童が背中の甲羅からキュウリを取り出し齧る。
超強い妖怪、か。アカネはどうやらやる気満々のようだった。この流れだと今から行く感じだな。顔がようやく取り戻せたからよかったものの。
「やるからにはいろいろ準備はしたいところだが……」
「だいじょぶだいじょぶ! クオンは回復に専念してくれたらいいから!」
「了解だ」
私はカーバンクルに変身しておいた。




