死シテ屍、拾ウ者ナシ ③
音を立てることを厭わず、ひたすら全力でインダラの背に乗りまたがっていた。
廊下の突き当りを曲がった先には。
「先回り……!? 止まれ、インダラァ!」
「逃ガサン……」
全力で走っていたインダラが急に止まれるはずもなかった。
インダラを強制的に送り返し、私は地面に放り出されて間一髪のところで攻撃を回避する。チェシャ猫が回復するまで残り2分。相当まずい状況だった。
私の今現在の防御でグレオンの攻撃を耐えられるか。たぶん答えはノーだ。そもそもとして私自身、アスリタに防具を購入してもらって以降、装備を更新していない。
レベルはあの時よりは高くなって今現在レベルは13。だがしかし、装備はまだ初期装備に毛が生えた程度の装備だから防御はそこら辺のプレイヤーよりも弱い。その状態で耐えられるわけがない。
「被弾=死……。私は躱せるほどスキルも高くない……。詰みというやつか?」
じりじりとにじり寄ってくるグレオン。
死刑宣告を受けている気分だ。諦めて次挑戦したほうが手っ取り早い。が、諦めるのはなんだか違うような気もする。
攻略法はなんとなく目途がついている今、後回しにはしたくない。
だから、全力で逃げる。
私は人間形態へ戻り、近くにあったドアを開けて、鍵をかけた。
無意味だろうが、ちょいとした時間稼ぎ。どうすれば逃げられるか考える時間が欲しい。カーバンクルの姿に再び変身し、物陰に隠れる。
その瞬間、扉が壊される音が聞こえた。剣で切って入ってきたようだ。私を探しているのか部屋を物色している音が聞こえる。
時間稼ぎをしているのはいいが、未だにどう攻略したものかわからない。
クローゼットの中に隠れているのはいいがいずれ見つかってしまうだろう。どうやってこの状況を切り抜けたものか。
私が思案していた時だった。
どこかから声が聞こえてくる。
「おいでなさい……おいでなさい……」
という女性の声が。
それは外から聞こえてきていた。
「おいでなさいと言われても困るがねぇ」
逃げ出す余裕がない。
姿を見せれば即切られて終わりだろう。
「来る……」
足音がクローゼットの前で止まる。
そして、不気味な面をしたグレオンがクローゼットを開けた。
「見ツケタゾ」
「……結局何も思い浮かばなかったねぇ」
素直にアカネたちを待っておけばよかったと後悔をしながら、私は死ぬのを待っている。が、しかしその時は訪れなかった。
グレオンの身体にはなにか帯状のような布が絡まっており、振り上げた腕が止まっている。
「誰ダ、私ノ邪魔ヲスルノハ……」
「ラッキーだな」
今のうちだ。
私は廊下に出て走ると、おいでなさいという声が聞こえてくる。私は仕方がないのでその声に従い、その声の主がいるところを目指して走る。
声の主がいたのは、最初にグレオンと出くわした部屋のさらに奥の部屋だった。
「いらっしゃい、私のお城によくぞおいでくださいました」
そこには、幽霊のような見た目の姫様が座っていた。




