死シテ屍、拾ウ者ナシ ②
まずいな。
私はひたすら逃げるために走り出している。カーバンクルの姿に変身しているのが功を奏しているのか、当たり判定が小さくなっていて被ダメは今のところゼロに近い。
道中逃げるだけでも動く甲冑だのと出くわし、そのたびにチェシャ猫に蹴散らしてもらっている。が、リミットが来てしまった。チェシャ猫の召喚時間が終わりを迎え、クールタイム。
「グレオンは追ってきているか……?」
息をひそめ、隠れる。
のそり、のそりと何かが歩く音が廊下のほうから響き渡る。確実に追ってきている。侵入者である私を殺すために、その死んでいる身体を引きずり、徘徊している。
どうやら相手は私を見失ったようで、足音が徐々に遠くなっていったのだった。
「さすがに怖いねぇ……。あれをどう対処しつつ、ストーリーイベントをクリアするかだが……」
真正面から戦うことは基本的に避けるべきだ。チェシャ猫が使えない今、まだレジェンドモンスターのあのインドラウルフのような強さに届ききっていない未成熟のインダラで対処せざるを得なくなる。
未成熟であるため、つい昨日にはサイネリアにもやられている。あまり信用度は今は薄い。
私がとるべき行動は……。
「あれをどう対処するかをこの城の中で見つける必要があるな」
あれは忠義の騎士グレオンといったな。
忠義……ということは誰かに仕えていたはずだ。何らかの理由でこの城に取り残され、忠義を果たさんとこの世を去ることなく、未だに彷徨っているのだろう。
その命令を知ることができれば解決の糸口にはなるだろうか。
「かつてのユ・ロ帝国についてもっと知る必要があるな。ここは元王城だからな……。書物とかを保管しておくための書庫はあるだろう。まずはそこを目標にしよう」
埃っぽい倉庫から恐る恐る外へ。
廊下の先には忠義の騎士グレオンの姿は見えない。周囲を警戒しながら、書庫を探そう。まずは話はそれからだ。
あと注意すべきは音、だろう。ホラー映画では音を立てて気づかれるというのはお約束だからな……。戦闘は極力避け、音を立てずに探索する。これが理想的な行動だ。
私はカーバンクル姿のまま、ゆっくりと歩き進めていく。
周囲を警戒しつつ、書庫を探すために一部屋ずつゆっくりと扉を開く。
「ほほぉ……」
王城の入り口の真正面にある大きな扉はやはり玉座の間だった。
古びた玉座が今もなお鎮座しており、薄暗くて不気味ではあるがそれでもなお黄金の輝きを持っていた。
玉座が二つ。王と王妃のものなのだろう。栄えていたユ・ロ帝国、この座に座るものは今はおらず……。だが今もなお、騎士は忠義を果たさんとばかり彷徨う。
尽くす主もいない今、不思議なもんだ。
「何もないな。仕掛けも何もない」
念のため調べておくが、なにもなかった。
「見ツケタ」
「げぇっ」
背後にはグレオンが立っていた。
グレオンの剣が鋭く飛んでくる。私はギリギリのところで躱した。玉座が真っ二つに切れ、その残骸が地面へと落ちていく。
「インダラァ!」
「ガルゥ!」
「全速力で逃げろ!」
私はインダラの身体につかまり、インダラは雷のような速さでかけていく。
迂闊だった。油断していた。グレオンは私を殺そうと徘徊しているのをすっかり忘れていた。ここでインダラを召喚してしまった。インダラがやられてしまったら手持ちのモンスターがなにもいなくなってしまう。
「ありがとう。だが、インダラはちょっとデカいから目立つな……」
私は体が小さいからなんとか物陰に隠れられる。
が、インダラはそうもいかない。召喚して還してしまうと再び召喚できるようになるまでクールタイムを設けられてしまう。
そうなるとやられた時と同様にチェシャ猫のクールタイムが回復するまでモンスターを召喚することができなくなってしまう。手持ちがチェシャ猫とインダラしかいないがゆえに。
だから還すわけにもいかず、かといって目立つからあまり一緒に行動したくはなく。
「インダラ! 今から5分間全力で走れるか!?」
「ガルゥ!」
「いい子だ」
走って追いつけないようにするしかない。
少なくともチェシャ猫を召喚できるようになるまで粘らなくては。




