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愛ですよクオン ①

「寒気がする」


 ぶるっと身震い。

 風邪だろうかと思ったが、ここはゲームの中であり、現実で風邪を引いていたとしてもコンディションが現実世界に影響されるわけもない。

 だがしかし、謎の寒気がする。


「どうしたんや?」

「いや……なんか寒気が」

「ゲームの世界で風邪ひいたかー?」

「いや、ゲームの世界で風邪なんて引かないでしょ」

「マジレスやめてもらってええすかアカネさん……」


 アカネも杢屋、もといウェザーと少し打ち解けてきたようだった。

 なんだろう。本能的に危機を察知してしまったのかもしれない。私は嫌な予感がして、一応チェシャ猫を召喚したのだった。

 チェシャ猫に私を防御しておいてと告げたときだった。


 私の身体を、剣が貫いた。

 貫いたというのか、通り過ぎたというべきか。私の身体を剣が突き抜ける。


「あーん♡ だめだったぁ♡」

「その声は……」


 あまり聞きたくない声。

 私はこの声の主を知っている。アカネも目の前にいるプレイヤーに見覚えがあるのか、すぐに剣を構えていた。

 いきなり攻撃を仕掛けてきたこの女。明らかに私たちを狙って攻撃を仕掛けてきている。敵意をもって攻撃してきたことは明らかであり、敵であるということを理解するのに時間はいらない。

 だがしかし……。


「お久しぶりですねぇ、せんぱぁい」

「げ……雑賀さいが……」


 目の前にいる女、雑賀 ほのか。

 私はこの女が苦手である。


「サイネリア……」

「知ってるの?」

「有名なプレイヤーキラーだよ。結構ネットで有名なんだ。結構強いらしい。私とやるつもりで来たの?」


 アカネがそう問いかけるが、雑賀、もといサイネリアは「ちがいますよぉ」と声を上げる。


「私は愛する先輩に会いに来たんです♡」

「愛する先輩?」

「クオン先輩♡ お久しぶりです♡」

「……知り合い?」

「……私のストーカーさ」

「えっ!?」


 思い出すのは大学時代。

 大学二年生のとき、雑賀は私が通う大学に入学してきた。田舎から出てきたのかあまりにも芋臭く、あまりなじめずにいたところに声をかけて仲良くしていた。のだが……。

 3年になったころ、告白されたかと思ったらいろいろと私のことを調べ上げていて怖かった。断ってもなお付きまとってきて辟易していた。


「ふふっ、私はですねぇ、先輩がだぁいすきなんです♡ 先輩、私は諦めてませんよっ」

「諦めてほしいものだがねぇ……」


 社会人になった時も一週間に一度は私の家の近くで見かける仲だった。私はそのころになると私の家を特定しようとしているのがわかっていたので、違う方面の電車に乗って家を特定させないようにしていたが……。

 今もなお私を探していたらしい。現実世界が無理だったらゲーム世界でってか……。


「私はね、先輩を愛してるんです。先輩とならどんな道でも歩めると思ってますし、先輩となら一緒に自殺してもいいと思ってるんです。だから……」


 サイネリアはウェザーの胸を剣で貫いた。

 クリティカルと表示が出て、そのままウェザーが消えていく。レベル差もあり、耐えられるような攻撃じゃなかった。


「私たちの邪魔をするなら死んでくださいね」


 今度はアカネに切りかかったのだった。

 アカネは剣で攻撃を防ぐ。素早い双剣の連撃を捌くのでやっとのようだった。アカネは防御することしかできていない。


「サイネリア、やめろ」

「やめませんよぉ! 先輩の隣に立つのは私です! 先輩の隣に立てないのなら、先輩の隣に立つを殺すまで! 先輩を探して、先輩と会えないさみしさを紛らわすためにプレイヤーを殺してきましたがっ! 今ほど殺したい相手がいたことはないですよぉ!」

「やっぱ噂にたがわぬ強さだよっ! なんでこんな強いの!?」

「愛です! すべては愛なんですっ! 愛があれば強くなれるんですよぉ!」


 私はインダラを召喚する。

 

「インダラ!」

「邪魔です」


 インダラが攻撃を仕掛けるが見切られ、インダラが切り伏せられる。

 そのままインダラが消えていく。ワンパン……。レベル差があるとはいえ、ものすごく素早く動いていたはずだ。それを見切って躱し攻撃を……。

 愛という原動力はここまで人を強くするものなのか……。


「先輩、邪魔しないでくださいねぇ? 先輩は私に敵わないんですから、じっとそこで見ててくださいねぇ」

「……ちっ」


 たしかに今の私が介入してもアカネの足を引っ張るだけだ。

 サイネリアはアカネに殺意を抱いているが私には抱いていない。最初にもろ攻撃してきたが、あれはサイネリアなりに絶対躱してくれるという信頼があったんだろう。

 サイネリアは私を殺そうとしない。だったら……


「アカネぇ!」

「……わかった!」


 私はカーバンクルに姿を変えた。













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