◇メンタルリセット
ベッドから這い出る。
自分が情けない。今もなお過去の傷が癒えない自分が情けない。久遠に助けてもらってばかりで、私はちっとも成長できていない……。
私は立ち上がり、ぼさぼさの髪を整えずに冷蔵庫に向かう。久遠は今何をしてるんだろう。ゲームだろうか。
私のアカウントで昨日は配信をして説明までしてくれて……。情けない。
「しょうが焼き……」
冷蔵庫には作り置きのしょうが焼きがあった。
冷蔵庫から取り出しレンジにかける。炊飯器には一人分のご飯が残されており、茶碗によそって、レトルトの味噌汁にお湯を注ぐ。
チン、とレンジが終わり、テーブルについて「いただきます」と手を合わせた。
「うまぁ……。久遠の手作りしょうが焼き美味し~……」
ご飯が進む。
昨日から何も食べていなかったすきっ腹にしょうが焼きという幸福感で満たされていく。
そして、食べ物を食べたからか、私のメンタルも回復してきた気がする。空腹は人をネガティブにする効果があるのかもしれない。
「ごちそうさまでした」と手を合わせ、私は自分が食べた皿を洗う。久遠はマメだから洗い物を溜めるということはなく、食べ終わった都度洗い物をしているらしい。勉強でもそうだが、久遠は基本的にマメ。私は割とおおざっぱだからため込むし、料理も久遠みたいに上手じゃない。
久遠が来てからというもの、晩御飯に彩りが出てきた気がする。
「私も、久遠をちょっと見習わなきゃな~……。洗い物済ませて早くゲームでもしよ。死ねって言っちゃったからあとで私からも謝らないとな~……」
私は洗い物を済ませて、ログインしたのだった。
ログインしたはいいものの、クオンがどこにいるかなんだよなー。合流しようにもメッセージを送るのもなんかちょっと気まずい。いや、クオンは絶対気にしないんだろうけど……。
それに、たまにはクオン抜きで遊んでもいいかもしれない。嫌というわけじゃないが、クオンに足幅を合わせる都合上、私もちょっと不自由にはなってしまう。たまには一人ではっちゃけるのも悪くない。
「よっしゃ!」
私は4番目の町まで飛んでいく。
今現在解放されている中で一番強いところ。チェシャ猫戦でレベルダウンしてしまったのでレベルを元に戻すことにしようかな。
クオンはまだここに来れないし、レベリングといこう。
「”竜頭穿”!」
竜の頭を模した炎が敵を焼き払っていく。
敵の攻撃をかわし、攻撃を叩きこんだ。今現在の私のレベルは15であり、ここの適正レベルは30くらい。
半分ほどの差があり、火力は足りないし、一撃食らうだけで瀕死にはなるだろう。だがしかし、私一人ならこの程度のハンデは余裕だ。
クオンのおかげでメンタルもだいぶ安定してきているし、地道に一体一体倒していこう。
「はぁああああああ! せいやぁあああああ!」
遭遇する敵を片っ端から倒していく。
あ゛ぁ゛~。レベルが上がる音ォ~……。やはりレベル差がある分経験値がだいぶ美味しい。経験値獲得量アップのアクセサリーをつけているからだいぶ効率もよくなっている。
ひとしきり楽しんだ後、クオンがいるであろう2番目の街に戻るとしようか。
「むふふ、やっぱ楽しいなぁ」
敵を蹴散らし終えて、クオンと合流することにしよう。街を探検していたらたぶん出会えるだろう。私とクオンは引き合う運命だと信じて。
2番目の街に転移し、街を探検するとクオンらしき人影を見た。だがしかしその隣に……。
「え、誰あの男……!」
知らない男が立っていた。




