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アカネのトラウマ ②

 ボロボロの姿で立ち尽くす茜。

 あまりにも悲しそうで今にも泣きそうな顔をしていた。


「久遠……」

「どうしたんだい?」

「助けて……」


 弱々しく助けを求めてくる茜。

 誰がどう見ても無事ではないので大丈夫かと声をかけることは出来ない。

 私は茜から何があったかゆっくりと聞き出した。


「私にね……今まで話してなかったんだけどね……お、叔父さんが……いるの……。その……叔父さんに……襲われて……」

「そうか。大変だったね。よく逃げてこれた」

「お父さんが殴って止めてくれた……。お母さんは止めてくれなかった……」

「……」


 胸糞が悪い話だ。

 すると、家の方に電話がかかってくる。発信元は茜の家。私は出てくると告げ、電話に出ると。


「すいません、うちの娘がそっちに行ってませんか?」


 母親の声が聞こえた。

 茜の話によると、茜の母さんは叔父が茜を襲っても止めなかった。ここで素直にいると告げると連れ戻しに来るかもしれない。

 私は口を開いた。


「いえ、来ておりませんが。どうかしたんですか?」

「あ、いや……なんでもないの。卒業おめでとねー……」


 ガチャリと切れた。

 ツーツー…と通話終了の音が鳴り響く。


「誰だった?」

「茜の母さんだよ。とりあえずいないとだけ告げておいた。茜、とりあえず着替えるとしよう。私の服が部屋にあるから勝手に漁って着てくれ」

「ついていってやれよ」

「茜の父さんとかに説明しておかないといけないからねぇ」

「俺がやっておくから。茜ちゃん、お父さんの連絡先だけ教えてくれるかい」


 茜はスマホを兄さんに見せて連絡先を教えていた。

 ボロボロの茜を部屋に連れて行き、茜を着替えさせて茜に話を聞く。

 未遂では終わったらしい。だがしかし、服まで破られて無理やりさせられそうになった。


「うわあああぁぁぁ!」


 茜は大声で泣きじゃくる。

 私に抱きついて「怖かった」とだけ連呼して泣いていた。

 



 そして、それからというもの。

 茜はしばらくうちに居候することになった。父さんと母さんが離婚協議中であり、ものすごく揉めているようだ。

 茜の父さんにお願いされ、落ち着くまで一緒にいてあげて欲しいと頼まれた。もちろん断るわけがないので二つ返事で了承。


 だがしかし、先日の一件でだいぶトラウマが心に刻まれたらしく、外に出ることを拒み始めた。

 私と兄さん、茜の父さんとは普通に会話できるようだが、他の人と関わろうとすると恐怖が襲って来て話せなくなってしまった。


 もともと評判の悪かった叔父はともかく、母が止めてくれなかったこと。身近な人間の裏切りが深く心に突き刺さったようだ。


「ごめんね、久遠」

「気にしないでいい。それに、君が悪いわけじゃない」

「そうそう。久遠の美味しい料理でも食べて気楽に過ごしてなって。むずかしーことは大人に任せとけばいいんだからさっ」


 兄と私と茜で食卓を囲む。

 そして後日、茜の父さんがやってきた。話し合いが終わったらしく、あちらが慰謝料込みを支払って離婚ということになった。

 親権はもちろん父親。


 そして。


「じゃあ、久遠。ちょっと遠くなっちゃうけど……また、ね」

「あぁ。また東京に来るといい。私はいつまでも待ってるさ」


 人が溢れた東京より、人が少ない田舎で過ごしてみようということになり、入学するはずだった高校を辞退し父方の故郷である北海道へ行くことにしたようだ。

 都会の喧騒は今の茜にとっては猛毒であり、蝕むから懸命な判断だろう。


 茜は車に乗り込み、バイバイと涙を流していた。


「……寂しいんじゃないのー? 泣いてもいいんだよ?」

「寂しくはないさ。これが茜にとって最良の選択。茜が少しでも復帰できるように願うばかりさ」

「強がっちゃって〜」

「うざいねえ」

「実の妹がドライすぎる……」

「ま、寂しくは本当にないさ。いつかまた会えると思っているからね。それまで待つのみさ」


 それに今現代ではスマートフォンなどという便利な機械もあるわけだしな。











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― 新着の感想 ―
ああ…うん…血の繋がらない叔父って厄介よね(;一_一) しみじみ思う(;一_一)
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