次の闇市
ドンナが言っていた裏路地に足を踏み入れてみる。
だがしかし、闇市というものは案の定やっていなかった。
不定期開催でいつ開催されるか予測できないとなると毎日ここに足を運ぶ必要がある。何時かもわからないのでそれは大変困った……。
なにかしら開かれる法則とかが分かればある程度開催される日は推測可能ではあるが、朝、夜、曜日とどれをとっても法則性がない。規則がない。しいて言うなら前回開催された時と被らないようにはなっている。
たとえば水曜日の夜に開催されたなら、絶対に次は水曜の夜には開催されない。
ドンナが言うには、前回の開催は一昨日の朝。一昨日は日曜日で、日曜の朝は開催されないからそれ以外の日時で探せばいい。
足を運ぶ時間が多少減っただけで、労力的にはそこまで変わらないから、情報的にはあまり意味が薄い。
ただ、日時がわからない分、闇市はものすごく豪華な商品のラインナップが並ぶらしい。
ここじゃ出会えない魔物のレアドロップ品が並んでいたり、貴重なスキルが付与された装備や武器が売られていたりと、不定期開催の闇市ではプレイヤーもものすごい欲しがるような商品ばかりらしい。
「今日は闇市やってないのなら無理だねぇ。金策に必要な道具は最悪鍛冶でも作れるとは言っていたが……鍛冶師の知り合いは生憎いないからねぇ」
そうぼやきながら裏路地を進んでいく。
整備された町でも裏の面はあり、この裏路地はあまり治安がよさそうじゃない。感じるのは周囲からの視線。外部の人間がやってきて警戒しているのかそれとも……。
「いいねェ、この雰囲気。始まりの町に住むNPCも善人というわけではないというのがいい」
人間には性格がある。
ゲームといえどそこまで再現するのはものすごく難しいだろう。同じセリフを繰り返すような低品質のAIではなく、NPC一人一人にきちんと性格が存在しており、ここはその性格の悪い輩のほうのたまり場というところだろうか。
「金品置いていけぇええええ!」
「チェシャ猫」
私はチェシャ猫を召喚し、襲い掛かってきたチンピラをチェシャ猫が殴り飛ばす。
「探すのも面倒だ。NPCなら何か知ってるだろう。チェシャ猫、殺さない、気絶しない程度に痛めつけてやるといい」
「りょ~か~い♡」
チェシャ猫は筋骨隆々のチンピラをぼこぼこに殴っていた。
顔が腫れ、元の人物がわからなく朧げになった男が抵抗をやめ、私は男に尋ねるようにしゃがみ込む。
「私は闇市というものがいつ開かれるか知りたいんだ。何か知らないかい?」
「闇市……なら……次の……火曜日の……夜……ですっ」
「ふぅん。ありがとう。じゃあね」
こういう情報の聞き出し方もアリか。
まぁ、あまり褒められた行動ではないだろう。あまりこの手の尋問は配信ウケしないだろうし、控えておいたほうがいいな。
次の火曜日、か。一週間ほど先か。今日は水曜日だからな……。
「金策は来週からになりそうだ。それまでは地道に何もなしで頑張るとしよう」
努力も、また大事なり。




