私の勝ちだ
旅先でゲームが出来るように携帯版のVR機器も持って来ているのでそちらを起動し、私は再び不思議の国へと降り立っていた。
うさぎ姿になってしまったが、問題はない。必要になるものを全て持ち込み、私はチェシャ猫を探すことにした。
「チェシャ猫やーい」
と呼びかけてみると。
「また来たんかにゃ。どうやって来たにゃ」
「来た」
またわざわざあちらから出向いてくれた。
チェシャは再び同じように木にぶら下がり登場。
「勝負をしよう」
「勝負〜? 今度はお前一人が相手してくれるんかにゃ?」
「そう。でも、勝負は勝負でもこれだよ。わかるかい?」
「トランプ……」
私が得た光明。
それはトランプでの勝負だ。心理戦ならばこちらの方が大得意でもあるが……。
トランプを見せると、なるほどとチェシャ猫は笑う。
「殴り合いだけが勝負じゃにゃい、か」
「私が勝てばハートの女王に言われてるよう「迷惑をかけるのをやめてくれ」
「……どうしようかにゃ〜」
「私が負ければ、バトルして負けた扱いでいい」
「……ま、いいにゃ! どうせどの勝負でも俺には勝てにゃいだろうし〜? 提案を飲んでやる。でも、勝負は一回こっきりだぜ〜?」
「あぁ。それで構わない。勝負はドローポーカーだ。いいね?」
「んふふ、いいよぉ」
チェシャ猫は座り、私と対面する。
私はカードを配り、チェシャ猫に5枚、私に5枚。チェシャ猫はにんまり笑っていた。
「1枚交換にゃ」
「私は3枚」
それぞれカードを交換した。
そして。
「ふふ、さっき言ったこと訂正するにゃら今だけ。可哀想だから3回勝負にしてもいいにゃんよ?」
「いや、1回でいい。二言はない。どんな結果になっても受け入れるのみさ」
「ふふ、優しさを見せてあげたのににゃあ! ストレートフラッシュ! どうにゃ!」
勝ち誇るチェシャ猫。だがしかし。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
と、一番強いロイヤルストレートフラッシュを見せた途端、チェシャ猫はピシッと固まってしまった。
勝てるはずと踏んでいたんだろう。
「にゃ、にゃんで……」
「私の勝ちだ。二言はないだろう?」
チェシャ猫は説明を求めるかのように私を見る。
私はチェシャ猫の言葉を待つことにした。チェシャ猫は自分が負けを認めないと先に進まないと思ったのか。
「負けたにゃ……。早く説明を! 俺は絶対勝ってたはずにゃ!」
「チェシャ猫さ、自分の因果律しか操作できないだろう?」
「……気づいてたにゃ?」
「まぁなんとなくはね。私が勝負を受けた以上、私の認識を変えるのは無理。つまり勝負を無かったことにするのは無理ってことでいいね?」
「……」
チェシャ猫は静かに肯定する。
「簡単だよ。チェシャ猫は絶対に負ける勝負を受けた」
「絶対に負け……?」
「イカサマしただけさ。私に干渉出来ないからイカサマを無かったことにする事はできなかったし、私を舐め腐っていたから見破る事すらしなかった。勝てる自信があったから」
「イカサマ……」
初手でいい役を引く可能性は限りなく低い。
ロイヤルストレートフラッシュなんて確率はものすごく低い。だからこそこちらで役を操作した。
絶対に負ける勝負なら因果律は関係ないからな。原因は自分が勝負を受けてしまった事で、無かったことにはならないと先ほど認めている。
「負けを認めてる以上、イカサマを咎めるのはナシだよ」
「……ずっる!」
「ずるくて結構さ。勝てない相手には頭を使うんだよ。弱いものの生存戦略みたいなものさ。さぁ、負けを認めたのだから約束は飲んでもらうよ」
「んぐぐ……。これで負けるのは納得いかにゃい……」
「では受けなければ良かった話だろう。舐めてかかった罰だ」
「それはそうにゃね」
無理ゲーというわけではなかった。
やり方を変える、というのはとても大事なことだ。
「まぁ、俺を出し抜くにゃんて凄いことにゃ。ふふ、認めてやる!」
その時だった。
勝手にテイマーブックが現れたかと思うと、チェシャはページをペラペラとめくる。
金色うさぎのマークをチェシャ猫は消して、自分のスタンプを押していた。
「金色うさぎは戦う力がにゃい。これからは困ったら俺を呼ぶと良いにゃ。主人として認めてやる! お前の因果律も操作してやるにゃ!」
「出来るの?」
「主従関係結んだら出来るにゃ。俺はいつでもこの世界で遊んでるから、暇があったら来るといいにゃ」
そういって、再び嵐が私の目の前に現れる。
私はその嵐に飲み込まれていく。
《金色ウサギのストーリーをクリアしました》
《スキル:ウサギモード を取得しました》
《チェシャ猫をテイムしました。いつでも呼び出すことが出来るようになりました》
チェシャ猫の勝ち方
要するに相手が絶対負ける勝負をすれば良いだけのこと




