普通の帽子屋
地図を見ながら印がつけられている店へと向かう。
ずいぶんとファンシーな街だ。街の中はものすごく奇抜で、一目でなに屋さんかわかるような建物が多い。骨付き肉の形をした店、魚の形をした店などなど。
日本でもこういう見た目から売るものがわかる店なんてほぼほぼないんじゃないだろうか?
そして、建物の並び順もだいぶ意味不明だ。
肉屋の隣に肉屋があったり、八百屋の向かいに別の八百屋があったりと意味不明な店の配置をしている。なんつーか、奇を衒いすぎてよくわかんない街だな。
「マップで言うとここら辺なんだけど……。この様子なら一目でわかるよね?」
「まぁ……建物を見れば一目でわかると言ってたが、これ以上奇抜な建物あるのかねぇ」
帽子屋ゾーンに入った。
案の定、帽子の形をした建物ばかり。シルクハットだったりハンチング型だったり帽子の種類が多いのか帽子の形をしている建物ばかりが並んでいたが……。
「「これじゃん」」
と、明らかに異質な建物があった。
奇抜な街に似つかわしくない普通の四角い店がこじんまりとたたずんでいる。帽子屋と書かれた看板が古びているのか斜めっており、年季を感じる建物だ。
一目でわかるってこういうことか。周りがおかしい中一つだけ普通のものがあると逆に目立つな。
私たちは店の中へと入っていく。
「|いるぁっしゃいますぅえええええ(いらっしゃいませ)!」
「うわっ」
「帽子屋へ|ゆぉうこすぉおおおおお(ようこそ)~~~~~!」
妙にテンションの高い店主が出迎えてくれたのだった。
「きるぇいなお嬢さんどぅえぇすねぇ? 帽子をお求めどぅえぇすか? いろんぬぁ帽子がありますぅよぉ~」
「えっ、あっ、私たちハートの女王からこの店に行けばチェシャ猫の場所がわかると聞きまして」
「チェシャ猫! いいどぅえすぬぇえ。チェシャ猫の場所がすぃりたい、と!」
しゃべる言葉が大体巻き舌になってて気色が悪い。
「すぉれぬぁらぶぁあ! くぉの帽子でぅえす!」
手渡してきたのは猫耳のカチューシャ。
これ帽子と呼んでいいのだろうか甚だ疑問ではあるが、帽子と言い張るなら帽子ということなのだろう。アクセサリーであり帽子とは程遠いものだと思うが。
「くぉれは猫耳帽子! チェシャ猫の居場所を探知すぃてくれまぁす」
「これもらっていいですか!?」
「ノンノンノンノンノン。あげませぇん。くぉちらとしても商売。いとぅあどぅあくものはきっちり|いとぅあどぅあきむぁす(いただきます)」
やっぱりというか、そりゃそうだろうというか。
私たちはこの国で使えるお金を所持していない。あちらの世界のお金が使えるのだろうか。私としては違う世界に飛ばされているしあちらの世界の貨幣を使えるとは思えない。
だがしかし、私が狂った帽子屋と目が合うと。
「金色ウサギ……!? ぬぁるほど。金色ウサギを連れている勇者どぅえすか。ぬぁらヴぁいいでしょう。むぉってけ泥棒!」
私を見た瞬間、譲るように帽子屋は猫耳カチューシャを渡してきたのだった。
な、なんなんだこいつは。




