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ルカ君の教育係になりました

 ケモミミと尻尾が生えているだけのショタをケモショタとは言わないということをつい最近知って衝撃を受けました、往復ミサイルです。


「なあミカ姉~! 俺にも戦い方教えてくれよ~!!」


 ぐいぐいと袖を引っ張りながら、一緒に遊んでくれよとねだる子供のように言うルカ。ぶんぶんと左右に大きく揺れるビントロング特有のでっかい尻尾(しかも極めてもっふもふである)が足にもふもふと当たってくすぐったいのだが、本人は多分そんなに気にしていない。


 いつもこう迫ってくるルカ。今までは「お前にはまだ早い」だの、「もうちょい大人になるまで待て」だの、「18禁ですから、18禁ですから(?)」だの言って誤魔化してきたミカエル君だが、今日は違う。


 仲間に謎の後押しをしてもらい、決断した。


「いいよ?」


「なあいいだろミカ姉~……って、マジ?」


「マジ」


「夢じゃない?」


「ほい」


 ぐいー、とルカの頬っぺたを引っ張った。


「いでででででででで!!?」


「現実だろ」


「現実だ……やった、やったよノンナ!」


「やったねお兄ちゃん!!」


 食堂車のカウンターの向こうからひょっこりと顔を出したノンナと一緒に、ぴょんぴょん跳ねまわりながら大喜びするジャコウネコ科の兄妹。こいつらそろそろ年齢的に反抗期に入っても良い筈なんだが、何でこんなに純粋なんだろう。見てて尊くなる。


 そしてその尊さはと言うと、俺よりも隣に控えているクラリス氏のハートを、まるで.338ラプアマグナム弾の如く見事にぶち抜いているようだった。


「はあ……尊い……」


「鼻血鼻血」


 だばー、と出血死不可避レベルの、致死量って知ってるかと言いたくなるくらいの鼻血を垂れ流しながら昇天寸前の笑みを浮かべるクラリス氏。彼女にとりあえずハンカチと輸血パックを手渡しながら椅子に座らせる。


 もうね、鼻から紅い滝が。


 こんな性癖の大暴走で大事なメイドを失ってなるものか。そんな最期ミカちゃん許さないからな……ああ、今度は口から魂が。


 ぐいー、とクラリスの口から昇天しようとする魂を引っ張り戻して口の中へ詰め込んでいると、後ろから駆け寄ってきたルカが抱き着いてきた。


「ありがとうミカ姉ー!!」


「うぼあー!!」


 思春期の男子ってさ、とにかくパワーが有り余ってるのよね。身体が大人に近付いていく時期だからとにかくパワフルで、体力も底なし。もうエネルギーの塊である。そんな子がテンションMAXで後ろから飛びかかってきたものだから、ミカエル君も意外とダメージを受けた。


 こ、こんにゃろ。


「ええいくっつくな!」


「やだやだ! ミカ姉いい匂いする!」


「お前俺の事女と勘違いしてないか!?」


「はあ……ご主人様とショタのカップリング、ごちそうさまです」


「お前は止めろ?」


 クラリスお前、何また鼻血だばだば流して―――ああ! コラ、何で端末で写真撮ってるんだお前っ、ちょっ、やめっ、撮るなぁぁぁぁぁぁぁ!!


 ……ルカ君の訓練開始はもふもふしながら通達された。







 






 さて、ルカ君に期待する役割を整理してみよう。


 彼に期待するのは第一がパヴェルの負担の肩代わり。場合によっては情報収集や破壊工作、事前の偵察で列車を留守にしなければならない彼に代わり、機関車の運転や車両の掃除などの業務を担当してもらいたいという事。


 そして彼に銃の支給を決断するに至った理由が、ギルドのメンバー不在の間の列車の警備である。


 冒険者という職業上、場合によっては列車が停車している駅から多少離れた場所での仕事もこなす事が想定される。日帰りで列車まで戻って来れる距離となると、引き受けられる仕事にも制限が生まれてしまうためだ。強盗ででっかい稼ぎがあるとはいえ、普段の収入を軽視するわけにはいかない。稼げるところでしっかり稼ぎたいというのが血盟旅団のメンバーの総意である。


 が、そうなると問題となるのが列車の警備だ。


 例の転売ヤーの一件もあるし、いつぞやの暗殺ギルド『クルーエル・ハウンド』の襲撃があったように、クソ親父の刺客(こんな遠くまで来るとは考えにくいが)が送り込まれてくる可能性も否定できない。それにノヴォシア自体も治安の良い国とは言い難く、ホームディフェンスの観点から見ても、襲撃を受けた際に反撃、主力メンバーの到着まで持ちこたえるための戦力は用意しておきたい。


 というわけで、ルカにも銃の使い方や戦い方を教える事が決定した。


 さて、そうなると銃の選定を始めなければならなくなるのだが、彼に支給するライフルはもう決まっている。


 目を輝かせながらこっちを凝視するルカの目の前で、メニュー画面を召喚した。おお、とルカが声を上げるが、本当に驚いて欲しいのはこの後に召喚される代物である。


 生産済みのライフルの中からそれを選択すると、右手にずっしりとした重さと、無機質でひんやりとした合成樹脂ベークライトのグリップの感触が生じる。


「これがお前の銃だ」


「おおー!」


 マガジンも外れ、薬室の中にも装填されておらず、安全装置セーフティもしっかりかかっている事を確認してから、それをルカに渡した。


 ルカに渡した銃は、『AK-102』と呼ばれるAKの輸出モデルだ。


 ベースとなっているのはAK-74M。これの口径を東側で一般的な5.45×39mmから5.56×45mmに変更し、更に銃身を短縮して取り回しを良くしたものと言っていい。分類はアサルトライフルだが、その中でも銃身を短縮した”カービン”と呼ばれるタイプにカテゴライズされる銃である。


 まあ、分かりやすく言うと”西側の銃弾に対応したAK”である。俺のAK-19と同じだ。


 血盟旅団では、特別な事情がない限りはアサルトライフルの弾薬は5.56mmで統一する事としている。その方が戦闘中に仲間同士で弾薬を共有できるし、補給の観点から見ても効率的だからだ。


 カービンを選択したのは列車内部での銃撃戦になってしまった場合の取り回しを考慮しての事である。無論、そんなことにならないのがベストなのだが、今まで前例がなかったからと言ってそれが今後も続くとは限らない。備えあれば患いなし、である。


 それならSMGでもいいんじゃないかと言われると、それはミカエル君も悩んだ。でももし列車の外の敵を銃撃する事になった場合、拳銃弾だと貫通力とか射程が不足するんじゃないかという事でカービンで落ち着いたのだ。この辺は理解を頂きたい。


 見様見真似で銃を構えるルカ。その銃口がこっちを向きそうだったので、とりあえず事前に注意しておく。


「いいかルカ。今その銃は弾丸を装填していない状態だが、間違っても銃口は仲間に向けるな」


「え、どうして? 弾が入ってないなら安全なんじゃ?」


「確かにそうだ。だが、もし一発だけ装填されていて、うっかり引き金を引いてしまったら? 弾が入っていないという思い込みが俺を殺すかもしれない」


「え、そんなのやだ」


「だろ? それに、向けられた側も困るんだ。こっちは銃を持ってる相手を撃つ訓練を死ぬほどやってる。だからお前にそのつもりが無くても、銃を向けられた側は困るんだよ。下手したら反射的にお前を撃ってしまうかもしれない。だから誤解を与えないためにも、銃口は敵以外に向けちゃあ駄目だ。いいな?」


「うん、分かった」


「よろしい。あと引き金に指は掛けるな」


 そっと引き金から指を離させ、発砲する前に基本的な指導から。銃の各部位の名称から教え、機能についても簡単に説明する。これがセレクターレバーだよ、とか、これがリアサイトでこっちがフロントサイト、といった具合にだ。


 一通り説明が終わってから質問を聞き、続いて構え方へ。こんにゃろ昔のアクション映画みたくストックを脇に挟んで構えようとしやがったので、ストックは脇に挟むんじゃなくて肩に食い込ませるものだよ、と指導しておく。


 肩に当てて銃を安定させるのだ。正直、拳銃の方が扱いが難しいというのはストックの有無も大きな要因だと考えている。ストックが有るか否かで命中精度に大きな影響が出ると言っても過言ではないだろう。これはそれくらい重要なパーツだ。


 銃を安定させ、反動リコイルをしっかり肩で受ける。人によって構え方に差はあるし、撃ちやすさにも個人差はあるだろうが、概ね肩にストックをしっかり当てるという点は共通してるんじゃないだろうか。


 左手はハンドガードの下へ。あるいはマガジンをフォアグリップ代わりに軽く握り込んでも良い。


 弾丸の入っていない空のマガジンを渡し、再装填リロードの手順も説明。マガジンを前方に傾けるようにして取り外し、予備のマガジンを同じように角度を付けて装着。カチッ、とマガジンが装着されたのを確認したら機関部レシーバー右側面から突き出た爪みたいな形状のパーツ―――コッキングレバーを引く。これでマガジンの中にある一発目が薬室の中へ装填され、発砲可能な状態となる。


「もう一回やってみろ」


「う、うん」


 かなーりぎこちない動きでマガジンを取り外し、予備のマガジンと交換。マガジンの交換を終えたルカは右手をグリップから離し、そっちの手でコッキングレバーを引いた。


 ミカエル君の場合は左手だ。右手はグリップと引き金から離さないようにしている。これはどうなんだろ……後でパヴェルに聞いてみるか。


 再装填リロードの手順を何度も何度も、とにかく何度も繰り返す。


 10回を過ぎた辺りだったか。ルカがちょっと不満そうな顔でこっちを見てきた。


「ねえねえミカ姉」


「あ」


「撃たせてくれないの?」


「まだ駄目だ」


「えー!?」


「実際に射撃するのも大事だけどな、今はまだ駄目だ。お前には早い」


「ミカ姉のケチー」


「いいか、とにかく身体が覚えるまで繰り返せ。頭で考えるより先に身体が動くレベル……身体の細胞の一つ一つにこの動作を刻みつけろ」


「う、うん」


 ぶっちゃけ、5.56mm弾を使用するカービンだったら他にも良い銃はたくさんある。アメリカ軍を長年引っ張ってきた西側の象徴たるM4シリーズとか、ブルパップ式の代表(とミカエル君は思っている)ステア―AUGとか、ドイツの誇るG36Cとか、日本の守護者(自衛隊)の新たな矛たる20式小銃とか。


 そんな強豪を押し退けてAK-102をピックアップした理由は単純明快、『ミカエル君がAKに慣れているから』だ。


 一応、ルカへの教育は俺に一任されている。パヴェルは多忙だし、ルカが異様に俺に懐いているからというのが理由なのだそうだ。んで、その指導担当となった俺が使ったことも無いライフルについて語れるはずもなく、必然的に銃の選定は使い慣れたAKの中からとなった。


 まあいい、それは良いのだ。


 ルカにはもっと深刻な事が―――これから先生きていくために必要な技能が欠如している。


 銃の訓練は午前中で切り上げ、午後はそっちの訓練だな……と頭の中で予定を組みつつ、懐中時計を見た。


 お昼の時間まであと30分。今日はこの辺にしておくか。













「ハイこれ、読んでみろ」


「え、えーと……お母さんはり、り……りん……ご?」


 国語の教科書を手に、冷や汗を流しながら文章を読もうとするルカ。隣ではノンナが小声で兄を応援しているが、次はお前だ。


 頑張れ、頑張れ、と心の中で思いつつ、まさか俺が異世界で学校の先生の真似事をするとは、と苦笑いする。


 ルカとノンナがこれから生きていくために必要な、けれども欠如している技能。


 それは―――母国語たるノヴォシア語の読み書きである。


 なんでやねん、と思ったそこのあなた。それはちゃんと義務教育が徹底されている日本だからこその感覚なのです。ノヴォシアには義務教育という制度は無く、子供は親から簡単な読み書きを教わってから仕事を手伝ったりするのが当たり前なのだ。


 貴族の場合は家庭教師をつけて貰ったりするので読み書きは問題ない。だがそれが労働者階級となれば話は別だ。親が幼少の頃に読み書きを教わっている家庭であれば問題ないが、そんな余裕も無くすぐに労働力として駆り出されたような子が大人になった場合、その子供に読み書きを教えることなんてできやしない。


 それは農村でも同じだ。読み書きよりもとにかく働け、というのがノヴォシアの子供たちにとっての”当たり前”である。日本の子供みたく、学校に行って給食食べて勉強して友達と遊んで……などという恵まれた環境で育っているわけではない。


 しかもルカとノンナは幼い頃からあのスラムで暮らしている。2人とも、まだ小さい頃に両親に捨てられてしまったのだそうだ。だから親の顔も、声も知らぬという。


 他人から財布を盗まなければならない程追い詰められた生活―――そんな環境で生きていたのだから、今まで何やってたんだ、と咎めるのはお門違いだ。


「ミカ姉、こんな勉強より戦い方教えてよ……」


「文字の読み書きと算数くらいはできるようになってから言え。戦いってのは頭も使うんだ。というか頭で戦えるような男になれ」


「頭突きで戦うって事か!?」


「うん違うんだわそうじゃないんだわ」


 頭で戦う(物理)、うーん……。


「算数も出来なきゃ残弾の管理も出来ないだろ。お前、30発入ってるマガジンで15発撃ったら残り何発かすぐ言えるか?」


「え? えっと、えーと……」


 指で数え始めるルカを見て苦笑いする。


 とりあえず、最低でも小学生レベルの国語と算数は教えよう……そうじゃなきゃ、これからの生活にも支障が出そうだからな……。




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[一言] 小技を一つ、10円玉をマガジンリップとフォロアーで挟むとフォロアーが スライド止めに干渉せずに薬室閉鎖できる (射撃予習でドライファイアする時によく使う)
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