89話→夏だ!海だ!
「・・・海だ」
「・・・・水着だ」
「・・・・・いい眺めだなぁ」
上から、ケン、優、グリムの呟きである。
「・・・・なぜにスク水だし・・・」
俺はといえば、アリスだけがスク水を着用していることに大きな疑問を抱きながら、はしゃぎまわっている美少女達の映像を脳内に保存しまくっている。
無事に赤点なしで期末テストを乗り切った俺達は、夏休みに突入して2日目の今日、さっそく海に泳ぎに来ていた。
俺的には、家でゲーム三昧したかったんだが、皆から強制連行されて仕方なく砂浜で寝転んでいる。
いや、まぁ・・・大量の水着姿を見れたから今としては、来てよかったと満足してるんだが。
俺と優とグリムはともかく、普段は超むっつりなケンまで、人目を気にせずに目の前の水着美少女達にはぁはぁしているのだから、その破壊力は計り知れない。
さっきから、かなりナンパされてるみたいだし。
やっぱり、可愛いって無敵だよね。
「おい、はやと。あの人達なかなかよくないか?」
俺はグリムが指を差した方に視線をやる。
すると、女の子3人が砂浜に座ってアイスを食べながら、談笑している姿が目に入った。
確かにかなり高レベルなメンバー・・・・・・・ぁ。
「よし、グリム。あれはやめとこうな」
俺が女の子達から視線を逸らすと、グリムが頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。
「・・・・?あの子達、可愛くない?」
いや、可愛いけどさ・・・・・・。
「・・・知り合いがいるから関わりたくない」
それに、あの星の降る夜の考えがまだまとまっていないのだ。
ナンパなんかしたら、夏凪とアイリスに悪い。
「・・・・だな。じゃあ、一人で行ってくるわ」
こいつ、この世界に馴染みすぎだろ。
俺は苦笑しつつ、手を振って見送る。
きっと、行きたくないもう一つの理由を、グリムは察してくれたのだろう。
知り合いってことは、同じ学校の生徒なわけで。
学校のみんなが俺に嫌悪感抱いてるってことは、グリムを含め、みんな気付いてるみたいだし。
俺は、声をかけて談笑しているグリムを見ながら欠伸を一つする。
・・・・あれ?なんか、グリムが3人を引き連れてこっちに来てるな・・・。
俺は邪魔になるかな?と思い、立ち上がる。
「あれ?はやとどっか行くの?」
優が俺に声をかけてきたので、苦笑しながらグリムの方を親指で差す。
「俺、居ない方がいいだろ?」
俺がそう言うと、優は悲しそうな顔をして、「ちょっと待ってて」と言い残してグリムの方に歩いて行った。
何か2、3言葉を交わしたかと思うと、優が戻ってきた。
「はやと、大丈夫みたいだよ?なんか、はやとにお礼言いたいんだってさ」
・・・・・・やっぱりか・・・・どっかで見たことあると思ってたんだよな・・・。
優に少し遅れて、グリムが戻ってきた。
「はやと、なんかこの人がはやとにお礼言いたいんだってさ」
そう言って、一人の女の子を指差すグリム。
その女の子は、一歩前に出ると深く頭を下げた。
「あの時はありがとうございましたっ!!」
「いや・・・どういたしまして」
そこまで感謝されることか?確か、不良に絡まれていた・・・・。
「ゆかりちゃん、だっけ?」
俺の言葉に、顔を上げてコクコクと頷くゆかりちゃん。
「えっと、あの時は言いそびれたんですけど、何かお礼をしたいなぁってずっと思ってたんです」
そう言ってニコッと笑うゆかりちゃん。
「そんなの、いらないよ。ねぇ?はやにぃ」
いつの間に来たのか、夏凪が答える。
さっきまで遊んでたのに・・・・なんなんだ一体。
「あの、今ゆかりんは葉雇君と会話してたんだけど」
ゆかりちゃんの友達の一人が、夏凪を睨む。
「知ってますよ〜。だからなんですか?かなは、はやにぃの気持ちを代弁してあげただけだよ?ねぇ、はやにぃ」
「・・・・いや、俺は別に」
「はやと様?別にお礼なんていらないですよね?」
・・・・アイリスか・・・こいつもいつの間に・・・・・・。
「お邪魔虫・・・・・」
ゆかりちゃんの友達のもう片方がボソッと呟く。
夏凪とアイリス、ゆかりちゃんの友達二人がお互いに睨み合い火花を散らす。
太陽の暑さにも負けないくらいヒートアップする4人と、何事かと寄ってくる野次馬。
俺はため息を吐くと、気付かれないように、その場から逃げ去った。




