77話 海の日⑥
「お集まりのBクラス諸君! 今から開催するゲームの内容について説明するぞ!」
午後組も全員が集合し、予定していた人数にもなり準備も終えたことで、改めて全員を集合させた。
何も知らされていない者は何をするのかソワソワとしながら興味と興奮を、予想がついていると言えどそこからどんな展開が起こるのか楽しみにしている者など、多種多様な目が向けられる。
そんな中で、皆が見えるように遊び道具の一つを掲げた。
「やること自体はチーム戦だ。そんでルール説明の前に……これを使いまーす」
「水鉄砲?」
それを目にした誰かがそう呟いた事により、皆何をするのか理解したかのようにざわめきが広がっていく。
そう、本日俺が考えた企画とは……水鉄砲を使ったチーム戦。
この十数丁程の水鉄砲、一人で数を集めるのは苦労するので、住んでいる地域がバラバラな奴らに百円ショップとかで売ってたら買ってきてくれとお願いしていたものだ。
俺の急なお願いに対し、皆律儀に持ってきてくれて感謝感激。
「そしてこちら、ポイとヘアバンドもありまーす」
「ポイって言うとあれか、金魚すくいで使うやつ?」
「ザッツライト!!」
水を当てるだけのゲームではあるが、ただ水を当て合うだけじゃつまらないかと思い、的となるものも用意している。
これをやると決めた段階で、数十個単位で売っている店を調べたりして急ぎ買い走ったものだ。
家で置いていた買い物袋の中身を覗いた両親から、『なんでそんなものを大量に買った』という呆れた視線を貰ったがな。
「まずチームを組んでもらい、全員にこのポイを付けてもらう。そんで、あみだくじで決まった対戦相手のポイを狙って濡らすのが内容だ」
「なんか聞く限りでは普通のゲームだね〜」
俺の横で、ハンドガンタイプの水鉄砲を触っていた前田さんから率直な感想が飛んでくる。
まあ、これだけならば俺だってそう思うさ。
だが……そう思われると予想していたからこそ、ちょっとした遊びを付け加えるのだ。
「そんじゃ、ルールについてだな」
・上手いこと六チームに別れ、くじ引きにて対戦相手を決める
・開始時は水鉄砲の中身は空から始まり、補給は試合開始後に
・的は背中といった、対戦相手の見えない位置には着けない
・外野からの野次はOKだが、片方が有利になる様な情報は禁止
・開始前に審判にリーダーをが誰かを報告、試合中でリーダーの交代は出来ない
・チーム毎にリーダーを決めてもらい、相手の誰かがリーダーを仕留めた時点で残りの人数関係無く即終了
「むっ……」
最後の項目を言った途端、説明を聞いていた者達の間で若干の動揺が走る。
というのも、リーダーというのは言わば指揮官として動くわけだから、このままだと指示をしている時点で誰がリーダーか判断出来る。
そうして対戦相手に捕捉されピンポイントで攻められれば、そのチームは仲間を盾としての防衛の一手を切ることになるだろう。
とは言え、適当に撃った水が見事にリーダーに当たり終了ってパターンも有り得るが……序盤でそんな事になれば詰まらないと思う奴らは、却って慎重にもなるし、そんなヘマはしないと警戒も怠らないだろう。
「謂わばこれは心理戦が要のチーム戦。端から誰かをリーダーと決めつけ狙うも良し、それを逆手に取ってリーダーが突っ込むも良し。基本的には俺が審判を勤めるが、俺が出る時は誰かにしてもらうからな。それでは今から五分ほどチーム組の時間を取る!」
「意外と考えてたんだな」
「意外とは余計じゃ哲! 何か相談があれば俺の所に……あ、仲間が見つからない人は人数次第ではくじで決めるから俺の所に来るように。最後に聞くが、ルールはしっかり理解出来たか?……何も無ければ解散!!」
俺の号令に、皆はざわざわと騒ぎながら仲間に声を掛け始めた。
その光景を眺めながら、先の展開を想像した俺はほくそ笑んだ。
「ヒロ君、一緒に頑張ろー!」
「よろしく」
「言っておくがお前らとは組まんぞ?」
「「―――え?」」
そんな俺の元に、早速と言わんばかりに佑と朱音から誘いの声が。
最早この二人にとっては、俺と組む事が当たり前と感じているのだろう。
いの一番に声を掛けてもらえたのは親友として誠に光栄だが、今日の俺は一味違うのだ。
「今日の俺は一味違うのだ!!」
「ごめん、言っている意味が解らない」
「俺も」
「……俺達、昔からいつも一緒だったよな」
「「おぉ……」」
なんか……二人して此方が眩しいと感じる位に、すっごいキラキラした目で見てくるんですけど。
「学校生活に限らず、プライベートでもあちこち遊び回ったりしてさ……ふと横を見たら、何時も笑顔のお前達が居るんだ」
「……え、マジっぽい?」
「……え、もしかしてコレってマジなやつ? こんな急に……えっ? こんな事で?」
ちょっと五月蝿いぞ二人とも、というかこんな事でって何だよ。
今は大事な話なんだから、静かに聞いて。
「だから今日は正面切って向き合って……」
「「……」」
「お前達の『親友』として打倒すべき敵となり、壁となって全力で立ちはだかろう!」
「「…………はぁ」」
「揃えて溜息つくなッ!?」
本日の意気込みを語れど、返ってくるのは何処か期待外れといった眼差しと、がっかりした様な大きなため息。
さっきまでキラキラしてた姿は何処へ行ったと言うのだ。
「もうっ……ホンッッットにもう! いや、まあこんな事でって話なんだけどさぁ!? なんかイイ感じだったし、あれもしかしてってちょっとでも期待しちゃった私が馬鹿じゃんか!」
「激同」
「いや急に怒られましても……言い方が不味かったのかこれ?」
朱音は猛り狂う様に騒ぎ出し、佑も今迄に見たことが無いほどに何度も首を縦に振る。
ついつい大きくなった声に周りの視線を集めてしまったが、それに気付いた朱音が頬を染めながら場を整えようとして咳払いを一つ溢す。
「ソッチがその気なら、こっちはぎったんぎったんのボコボコにしてやります!」
「激同」
「……たすくん、それ以外で何か言おうよ」
「……じゃあ、運良く対戦相手になった時は一騎打ちを」
「んな!?」
「ほう……この俺に一騎打ちとな?」
朱音としては共に討ち取ろう思っていたのか、その宣言に一層驚き、俺は俺で不敵の笑みをもってこう返す。
「朱音と一緒に討ちに来なくていいのかい? うん?」
「別に、朱音を邪険にしたとかじゃ無いよ。ただ……」
「ただ?」
「親友を撃ち落とすって、思っただけだから」
「!」
「ハッハッハ! 言ってくれるじゃねぇか!!」
ほんのりヴィランムーブ出しただけなのに、なんか……すっごく少年誌風な展開になったんですけどー!!だがそれで良いのだ!! そんなヤツ(俺)、こてんぱんにやっちまえ佑ゥ!!
ていうか、正面切って親友って言われたの、何気に初めてなんですけど!感極まって涙がちょちょ切れそうになるんだが!?
「ふ、ふーん? たすくんがそう言うなら、私はサポートに回ろうかなー?」
「よろしく」
「任されました!」
凄く……すっごく感動してます。
コレはもう二人がタッグを組むのは既定路線だし、後は俺がどれだけ敵として大きくなれるかだな。
「楽しみにしてるぜ? 小童共よ」
「「……わからせてやる」」
「ははは。じゃあな」
小馬鹿にした物言いに、少しムッとした二人を背に俺も仲間探しに出ようとすると、正面にはまるで待ち構えていたかのように高垣が居た。
「どしたん、仲間は集まったか?」
「随分と良い空気を吸っていたわね」
「おう! そりゃもうたんまりとな」
「……キモッ」
「これはお前から始めた会話だろうが」
自分から振っといて、不気味な物を見るような視線をしながら下がんな。
「そんなことよりも」
「そんなことってお前……」
「ここはアンタの策に乗るとして。私はどう動けば良いのかしら?」
コイツ……元より俺達以外で碌な交流を取ってない故か、これ幸いにとどさくさに紛れて俺と組もうとしてやがる。
だがな……そうは問屋が卸さない、というヤツだぞ高垣よ。
「何言ってんだ。お前とも組む気はないぞ」
「……え?」
ここで何時もの「は?」が出ない辺り、本当に呆気に取られているのだろう。
何度も瞬きをし、訪れた事実をまるで認識出来ていない様子の高垣を無視し、俺は辺りを見渡した。
代わって探す、高垣の仲間候補は……っと、見つけたぜ。
声を掛けてみたいけどやっぱり緊張して出来ず、チラチラと盗み見ることしか出来ないといった女子の集団がな。
「どういうつもりかしら?」
「どうも何も……お前をあの女子メンツに入れてもらうんだよ」
「……意味が理解出来ないわ」
指を差したグループを見て、そして此方を見て。
それを数回繰り返し、それでも俺の思惑にちっとも予測が付かない高垣は、困惑を隠せない声色でそう聞いてきた。
俺としても、何も知らないままだったら流れで組んでいただろうよ。
だがしかし、都合のいいことに、耳寄りの良い情報がつい先程に入ったんでなぁ?
「お前……クールだとか格好いいって言われてるらしいな? それも同性の奴等から」
「……何でそんな事を聞いてくるのかしら?」
ここで知らないと断言しないのは、心当たりがあったからだろうな。
そんでもって高垣……自分で気付けているかは不明だが動揺を隠している時程、情報をしっかり聞こうとするのか、何度も耳がピクリと動いているぞ。
こんな所で新しい発見だなー、と内心思いながらも続ける。
「折角の機会だ。ここで俺達以外で友好関係の一つでも築いて来い」
「……はあ。あのねぇ、それだったら朱音にでも―――」
「俺達以外つったろ。つべこべ言わずに行って来い、よっ!」
「っ!」
続ける言葉を強引に被せ、そのグループが居る方へ高垣の背を押し一歩を踏み出させた。
触れられた事に一瞬だけ驚き数秒ほど俺を睨んできたが、説得を諦めた様子で深呼吸を一つ行い、そして歩き始めた。
その向こう―――視線を送っていたグループでは、本人が向かってくるのが予想外だったのか、アワアワと緊張しながら慌てていた。
「いい仕事をしたなぁ」
青春をしよう―――少し前に、高垣へそう語った内容を思い出す。
そしてその中で、『今は笑顔で楽しもう。仲のいい友達も沢山作ってな』とも語った。
これは、それを叶えるために降って湧いたチャンスなんだ。
ここで掴まずして、いつ掴まえると言うのだろうか。
「良い感じの青春を見せてくれよ?」
その場に辿り着き、何らかの会話をしている所を見届けて。
改めて仲間探しを始めた。
……始めた、のだが。
「いや、新藤君には心強い味方が居るじゃん?」
「ほら……この間話題になった守護霊が、さ」
「だから、ごめんな?」
「……(絶句)」
佑と朱音の居るグループ以外のどいつもこいつもが!
幽霊がどうのこうのとか言って、先に種明かしをしようにもいそいそしい態度を取りながら悉く断りやがるんですけど!!
「な、何故だ!?」
そもそもの話、幽霊が物理的に水鉄砲を持てる筈がねえだろうが!
「なんでだよおおおぉぉぉ!」




