表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/93

69話

 ★★★★★★


 


「ねぇ朱音」


「んー?」


「卒アル、これといった感触はなかったね」


「だね。案外ハズレたのかなぁ? こう、ビビっと来たんだけどね」


「野次馬ちゃん達に対しての反応はどう思う?」


「たすくんまでその呼び方するのね……ん〜、アレもどっちかって言うと懐かしさを感じて〜って印象かなぁ?」


「ん、だよね」


 一通り高垣さんの成長の日々を眺めた後、あどけなさの残る幼少期に目を輝かせる朱音に今日の成果について語り掛ける。 


 あの帰り道で手掛かりのようなものを見つけ、ヒロがいる場で中学時代の女子の名前や思い出せる限りの出来事を話したり、今は高垣さんも来るというイレギュラーはあったもののこうして裏で朱音と結託して今の状況を作り、実際にアルバムを見ている所を二人で観察していた訳だが、これといって、怪しい点は見受けられなかった。


 もしかしたら、朱音が言ったように恋とは違う要因でヒロが変わった可能性もあるけれど、それでも俺の勘は諦めるにはまだ早いのではないかと訴えている。

 もっと違う形で攻めてみる為に今後も朱音と相談していくか、いっそのこと直接聞くのも手かもしれない。


「……ねぇ朱音」


「んー?」


「アレの進捗ってどう?」


「デザインが決まらないかなぁ。たすくんはどう?」


「俺もそんな感じ。どうにかしてよ美術部、役目でしょ」


「ドーモ、『素人』美術部員デス」


「その手のセンス無い癖して形に残したいものがあるんだーって勢いで入部したけど、部活動は進んでいるの?」


「ちょーっと絵心が無いだけです〜。それについては度々どう描こうか悩んで、サボるなとよく叱られますね」


「だめじゃないか。他の部員に迷惑かけないようにね」


「たすくぱぱん……」


「鳥肌たつから止めて。それで、ヒロは喜んでくれると思う?」


「泣いて喜ぶんじゃない?」


「そんな適当な」


「いやだって……毎年似たようなものじゃんか」


「まあ、うん。そう言われるとそうだね」


 もうすぐ、ヒロの誕生日が来る。

 

 朱音が言ったように、日常でも使えるような物を毎年プレゼントしているけれど、毎度の如く嬉しさ極まれりと言った様子で受け取ってくれてはいる。

 本来なら少し前、他クラスの子達も交えた多人数での遊びの誘いを受けた俺達は序にとそこにヒロも加えて、今年はどの様な物に目移りするかを調査する予定だった。 

 まあ、ばったりヒロと遭遇したりしてそんな事をしている暇は無くなった訳だけれど。

 

 結局は朱音とプレゼント内容はどうするかを相談して、折角なら今の自分達の状況も加味して一つサプライズ形式のようなものにしようと決めた。

 

 現状取り掛かっている物の仕上げに関してはどっちも滞っている状態だが、まだ時間はあるし間に合うだろう。

 今年のヒロの反応はどうなるのだろうか。

 予想通りであれば、大号泣までいくかもしれない。


「随分とまあ、昔の私に見入り込んでいるのね」


 そう悩みながらも返ってくる反応を楽しみに高垣さんの幼少期を眺めていると、妙に不機嫌な猫を抱えた高垣さんがベランダから戻って来た。

 そういえば、高垣さんはヒロの誕生日を知っているのだろうか?


「昔の詩織ちゃんが目茶苦茶可愛くて〜。あ、今も可愛い……というよりは綺麗、が似合うかな?」


「……そ、そう」


 朱音のお世辞でもおべっかでも無い素直な感想に、高垣さんはいたたまれない様子でそっぽを向いた。


「それにしても、ちゃんと声は抑えていたようね」


「そりゃあ、夜中だからね〜」


「けれど少し声が漏れていたから、もう少しだけ抑えなさい」


「はーい」


 これまたそういえばと……こんな状況になる前、理不尽な仕打ちを受けたように顰めっ面を作るヒロを外に放りだした高垣さんが、自身のアルバムを手に取って俺達へ二つの約束事をお願いしてきた時を思い出す。


 ―――私は外で新藤君の監視をするわ。コレを見て盛り上がっても良いけれど、ご近所さんに迷惑が掛かるような大声は出さない事。外に居る私が迷惑が掛かると判断したら、コレは即没収よ。


 ―――ヒロ君とも一緒に見たいんですけどー。


 ―――激しく同意。


 ―――色々事情があるのよ。……ああそうそう。コレにね、私の幼馴染み達も写っているわ。今日この時だけは見せてあげなくも無いけれど、今後はどうなるかしらね。


 ―――ここは背に腹は代えられない場面だよ。ね、たすくん!


 ―――え? う、うん、ソウダネ。


 ―――交渉成立、ね。それと、今日見た物はあの馬鹿には絶対に口にしない事。いいわね?


 ―――え〜?


 ―――返事は?


 ―――はーい。


 酷い掌返しを見た気分だった。


 それにしても、そこまでしてヒロに見せたくない理由とは何なのだろうか。

 部屋から出ていく際に、ため息をつきながら「まさかこんな早くに貴方達に見せるとは思わなかったわ」と呟いていたように、一週間も経たずに弟妹にしか見えないと言っていた子達を、俺達が『確固たる意志』だった『信頼』を得る間もなく開示しだしたことも。

 俺の知らないところで何かが進んでいる気もしなくは無いが、俺も俺でやることが結構あるし、これらの件はまた今度聞いてみようかな。


「部屋に戻ったら私のちっちゃい頃のやつも見せるね」


「ええ、是非ともそうして頂戴」


 朱音と高垣さんの会話を聞き流しながら外を見ると、そこには追い出されたままのヒロがぼうっと此方を見ながら一人孤独に佇んでおり、少ししてスマホを触り始めていた。


「聞きたい事があるんだけどさ、いい?」


「ええ、どうぞ」


 眼下に並ぶ幼少期のアルバムには家族ぐるみで仲が良かったのか、高垣さんの幼馴染みらしき子と一緒のものが幾つかあり、小学生時のアルバムにも一緒に写った写真なども少しだがある。

 その一つ一つに朱音は指を這わせ、そして最後に、目立たない様にひっそりと写る中学時代の写真で指を止めた。


「何で小学までは幼馴染みさん達と一緒に写っているのがあるのに、中学に上がってからは一個も無いの? クラスが違っても行事毎とかで一緒に写る機会はあったと思うんだけど」


「ああ……まあ気になるわよね。まあ色々あったのよ」


「そっか〜」


 成長を見るにつれて分かる通りこれは多分、幼馴染みの間で何かがあったやつだろう。

 俺も気になってはいた。聞き辛い質問になるのでそっとしておこうと考えていたが、躊躇無く問い掛ける朱音に驚き少し目を見開いてしまう。


 対して高垣さんは特別気にする様子も無く答えていた。

 詳細は省かれたが、ただの質問にただ答えただけのように。


「確認だけどこの子達ってさ、ショッピングモールで詩織ちゃんの近くに居た男女二人組だったりする? 遠目だったからはっきりしてないんだけど」


「そういえばあの時に朱音達も来て見ていたのよね。そうよ、久しぶりに会ったから、()()()()()()()()()


(そうだったんだ。でも、話をしていただけって言っても……)


 あの時は朱音と共に遠目から成り行きを見守っていたが、雰囲気を見る限りでは高垣さんがヒロの手を引っ張ってまで其の場から離れたがっていたようにも見えたけど。


「会って話をしてみたいな〜。二人から見た詩織ちゃんの印象とか!……あ、そこら辺を真莉ちゃんに聞くの忘れてた!!」


「そうね、機会があれば聞いてみるといいわ。でも、私の居ない所で聞きなさい」


「はーい」


「まだ見るんでしょう? 一先ず飲み物取って外に戻るわ。みうちゃんをありがとう、朱音」


「どうもどうも。因みにだけど、させてくれた?」


「残念ながら機嫌が悪かったわ」


「あら〜」


「新藤君が居るから、かしら。どうなの、朱音?」


「…………」


「こら、目を逸らさないの」


 ……それにしても、何かこう、違和感を感じる。

 こういったデリケートそうなものは相手から打ち明けるまでそっとしておくのが常なのに、朱音は何故にこうも平然としながらそのような事を聞けるんだろうか?


「それじゃ、見終わったら声を掛けて頂戴」


「はーい」


「う、うん」


 下手な誤魔化しに朱音の頬を一頻り揉みくちゃにした高垣さんはそう告げると、お菓子と共にテーブルに置かれていた二つの紙コップにジュースを注いでから手に取り、朱音の足元に擦り寄った猫を名残惜しそうに一瞥してからベランダに戻って行った。


 そのまま外に居る二人を眺めていると、少ししてヒロは楽しそうな表情をしながら矢継ぎ早に何かを高垣さんに語り掛ける。

 対して高垣さんは、此方に背を向けている為にどんな表情をしているかは不明だが、何やら上を見上げながらヒロの言葉を聞き流しているかのようだった。


「……ねぇ、朱音」


「んー?」


 けれどその光景に何故か……俺達にはない、繋がりのようなナニカを感じ取ってしまった。


「朱音はさ、ヒロが好きなんだよね」


「そうだよー」


「じゃあさ、何でヒロと仲の良い高垣さんをライバル視しないの?」


 当然ながら、ヒロにも女子友達は普通に居る。

 朱音の恋を察するようになった頃から覚えている限りでは、女子と楽しそうに話すヒロを見てハラハラと焦りを見せたり若干ながら警戒の色を向けていたりしていた時期があった。


 けれど朱音は高垣さんに対してその様な目を向けない、というよりは、上手く表現が出来ないが感情の向け方?というものがチグハグなもののようにも感じ取れる。


 俺の問いを受け、今はもうその繋がりを見せる姿は無いがそれでも並ぶ今の二人を見た朱音は、返答に少し考える素振りを見せる。


「う〜ん。たすくん達に詩織ちゃんの事を紹介する前の話になるんだけどさ」


「うん」


「あー、う〜ん。どうしよう。言っちゃってもいいのかな……」


「……」


 俺の問いに対し朱音は腕を組み、眉間に皺を寄せながら悩み始めた。

 この場合だとその紹介前になにかの会話をした際、高垣さんの何かを感じ取り、けれど自分の勝手でそれを他者に伝えてしまっていいのか判断しかねているのだろう。


 仮に、これらを恋愛関係を前提として捉えると。


 中学に上がってから幼馴染み間で三角関係のようなものに成ってしまった、または幼馴染みと何らかの過程があって、その果てに恋愛に対して苦手意識が生まれてしまった。

 その結果、件の幼馴染み達とこうも疎遠になったのでは?


 俺達以外でヒロと一番親しいようにも見える高垣さんが『恋愛』についてそう意識していて、朱音がそれを感じ取ったのならば……成る程、俺が疑問に思っていた通りライバル意識が薄くなっているのか、もしくは無いのかもしれない。

 だがこのまま付き合いが続き、何時しかそんな高垣さんをどうにかしたいと思ってヒロが動いたりしたのならば、結果がどう転ぶのかは解らなくなる。


 朱音もそこの所は理解しているとは思うが……うーん、所詮は恋愛関係を前提にした話だし、俺が感じるチグハグさも絡んでいるのかもしれない。


「話し辛い事なら無理しなくても良いよ」


「そうだね。こればっかりは、たすくんが感じ取って直接聞いてみるのがいいかも」


「そうだね」


 現状は、確証足り得るものが少ない。

 ここは、時が来るまで下手に藪を突かず見守る方に徹するか。


「みゃぁ」


「あっ」


「おっと」


 内心でそう締めくくっていたら、朱音の膝元で丸まっていたみうちゃんが俺の手へと頭を擦り寄せてきた。

 それが甘えてる仕草だと理解して、気持ちを切り替え優しくその頭を撫でる。


「たすくんには懐くのにね〜」


「そうだね」


 家族の朱音程では無いにしろこうして俺に懐いてくれるのは親戚から貰ってすぐの赤ちゃんだった頃から顔を見合わせている、という理由もあると思うけど。

 それと同じ期間、顔を合わせているヒロにだけは未だ敵対心を向け続けるのは、ヒロに朱音を取られたくない側面があったりして。


「ふぅ〜。ちょっと目が疲れちゃった」


 パタンと見ていたアルバムを閉じて、朱音は眉間を解しながら背中から床に寝転がる。

 その際にTシャツの裾が捲れてしまい、見る人によっては釘付け?になりそうな健康的な腹部が露わになってしまっていた。


「はあ、少しは羞恥心持ってくれ」


「すんませーん」


 付き合いの長さ故なのか、俺を男と認識していないからか。

 視線には気付いているだろうに見られても気にしない様子に少し呆れていると、朱音は気の抜けた返事を返しながらやっとこさ裾を直す。


「これがヒロ相手だったら直ぐ隠すくせに」


「へへっ、そりゃあ恥ずかしいからねー」


 もし仮にヒロが俺の立場なら、注意をしながらも仕方無さそうに裾を直してあげそうなもんだけどね。

 勿論、そこに異性を見るような目はない。


「全校生徒の前で背中から抱き着いていた癖によく言うよ」


「それは言わないでよ!!」


「は〜。あざといあざとい」


「喧嘩売ってんの〜? あざとくしてないし」


「擽ったいからやめなさい」


 少し不服そうな顔で寝転がりながら足先で俺の脇腹辺りを突付く朱音を見てため息が溢れた。

 俺達だけならまだしも、直ぐ其処には高垣さんも居ることを忘れているのだろうか。


 ペシペシと突付いてくる足を叩いていると、反応の薄さに悪戯心が湧いたのかニヤリと怪しい笑みを浮かべ、今度はくすぐる様な動きに変えてきた。


「うりうり〜」


「…………」


「うわっ!急に何?」


 それに少しウザいと感じた俺は、今に接触していた左足のくるぶしを掴み、脹脛辺りを脇に挟んで逃げられないように固定する。


「ねえ、朱音」


「は、はい」


「最近、こんな動画を観たんだ」


「ど、どんな?」


 急な動きに驚いていた朱音は、しかし俺の質問から先の展開を想像したのか、ヒクヒクと口端を引き攣らせた。

 俺は朱音の足裏に、敢えて緊張が走る様にゆっくりと親指を押し付ける。


「足つぼマッサージ」


「……もしかして、怒ってる?」


「怒ってないよ。イラッとしただけ」


「怒ってんじゃん!たすくん無表情だったから気付かなかったの!許して!!」


「ダウト。それを知ってておちょくって来たんでしょうが」


 あのまま続けたら俺がどう思いどう動くのか、朱音なら予測出来ない筈がないだろうに。

 その上でおちょくってきたのだ、だからこれはお仕置きだ。 


 朱音は抜け出そうとして必死に片方の足で俺を押しのけようと足掻いているが、男の俺と女の子の朱音とではそもそもの身体能力に差がある。

 岩の様に微動だにしない俺の目を見た朱音は、今度は血の気が引いたように顔を青冷めさせた。


「お仕置き執行」


「え、ちょまっ―――い゛っッッッ!」


 適当に足裏のツボを力任せに押してみると、朱音は女子にあるまじき悲鳴を上げる。

 ああそうそう、先に言っておくことがあるんだった。


「高垣さんも言っていたけど。近所迷惑になるから、声は抑えてね」


「は!? じゃあ止めて―――いい゛ッッッ!?」


「これってさ、血行が促進されてむくみとかも取れるんだって」


「し、知って、ますぅッッッ!ていうか場所が全然違う!痛むように適当に押してるだけでしょ!」


「何だかんだ言って今年も海に行くんだろうし、ヒロにホッソリとした脚を見せれるよう、ささやかながら協力してあげるよ」


「だ、だいじょっぶで、すぅッッッ」


「ははは、どういたしまして」


「話聞いてよ!ぐぅぅ!何でこんなに拘束が硬いの!」


「ああ、ダウトと言ったら……後からUNOもしようね。何処に仕舞ってあったかな」


「話聞いてよっ!……あ゛」

高垣さん「マッサージ、しているのかしら」

新藤くん「しゃ写真撮らなきゃ!あー動画でも良いな。高垣はどっちがいいと思う?」

高垣さん「どうでもいいわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 高垣さんの過去が気になりすぎる
[良い点]  幼馴染み恋愛を一番近い所で見たいがためにあなたがたに近付きその仲を促進させようとしているので己は明確に幼馴染みと認識していないのだ、なんて結論にはなかなか至れないでしょうよw  それでも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ