60話+おまけ
明けましておめでとうございます。
そして更新が遅れてしまい申し訳ありません。
本来であればクリスマス当日にある番外編を投稿する予定だったのですが、何故か執筆ページのど真ん中に広告が表示され投稿も何もできない状態になりモチベが一気に低下しました。(何故かその日だけ)
今更にはなりますがモチベ維持も兼ねて今後の投稿予定でもあるクリスマス編(番外編では無く)の序章を載せますので是非ともご拝読頂ければ。
「そういえば、海外ではスプーンとフォークを使ってパスタを食べるのは幼児だけって話だったっけ」
程なくして順に全員分の料理が届き、お陰で俺に向けていた視線は其々の目の前に置かれた料理へと注がれることになった。
結局は弁明が出来ないままだったがそれも次第に頭から抜けたのか間々に雑談を交えながら各々の料理に舌鼓を打つ最中、正面でカルボナーラを食べていた高垣を見ていたからか、唐突にふと思い出したかのように佑がそう言ってきた。
「え、そうなの?」
「確かね。前にネットかテレビで見たような。何処だったっけ……パスタ本場のイタリア?合ってるかな、ヒロ」
「いや知らない。てか、今その話は止しなさい。ね?」
「「…………」」
「え?何で?」
朱音は『そうなんだ〜知らなかったな〜』と呑気に感心している様子だったが、佑は間抜けにも口を開きぽかんとしている様子を見るに何も気付いていない。
このタイミングでそれを言ったら、暗に同じ手段でパスタを食している高垣姉妹の事をまるで幼児みたいだと言っているようなものである。
「「………………」」
今しがたスプーンを受けに、フォークにパスタを絡め綺麗に丸めていた高垣姉妹は揃って何も発する事なく、ましてやそれを口に運ぶこともせずにまるでその場だけ時間が停止したかのようにピタリと動きを止めていた。
高垣姉妹のそんな様子に気付く素振りは一切見せず、佑と朱音はそのまま会話を進めていく。
「昔はスプーン使って食べてたな〜」
「パスタ食べるの下手くそだよね朱音は」
「は〜?急に何〜?」
「丸めたけどスプーンから離れた瞬間にボロっと器に落としたり口元にソースを沢山付けてた記憶しかない」
「いやそれ昔も昔じゃんか。今じゃフォークだけで綺麗に巻けますけどね?大人のように、お上品にとぅるとぅるーってね」
「えーどうだったかな。ヒロ、どうだったっけ?」
「……どうだったかな」
今までに三人で何度もファミレスに来たことはあるが、正直に言って朱音のパスタの食べ方について特段気にしたこともなかったからか記憶が朧気である。思い出す限りでは朱音が言ったようにフォークだけでパスタを食べていたような気もするが、果たして形まではどうだったか。
というかその昔話、俺知らなかったけどアレでしょ。俺と出会う前の幼馴染みだけが知ってる幼い頃の思い出でしょ!はーっ!イイネッッ!(感動)
「はーっ!その喧嘩買いま〜す。皆にも見せてやりま〜す」
「お手並み拝見」
「詩織ちゃん、この馬鹿に見せ付けるからちょこっとだけでカルボナーラ頂戴なっ」
「朱音よりは頭良いから馬鹿じゃないよ」
「成績のことじゃないんだよ」
喧嘩の理由はそれはそれは幼稚じみてしょうもないが、仲睦まじく見えて大変宜しい(ほっこり)。普段ならば今のように和んだ雰囲気のままでいいとは思うが、状況が状況であることを気づいて欲しいな。
朱音ですらスプーンを使わず綺麗に食べれるといった、ある意味幼児脱却宣言とおねだりを受けた、今も黙りを決め込んでいた高垣の方はというと……ようやく動き出したかと思えばまず先に器にスプーンを置いて、今に食器収納具から新しいフォークを取り出した朱音に顔を向けた。
「その喧嘩」
「ん?詩織ちゃん?」
「私も買うわ浅見君。―――それと朱音」
「え?」
「えぇっ私!?何もしてないよ!?」
高垣はこの流れの発端たる佑だけではなく朱音にまでそう言い出した。佑は何故そんな流れになったのか分からず心底不思議そうに首を傾げており、対して朱音は何故自分までもがそう言われたのか理解出来ずに驚いている。
全体を見ていた俺からすれば、まあ負けず嫌いのある高垣の反応はある程度予想出来ていた。
そしてこんな事で対抗意識を燃やしても逆に子供っぽくみえるぞ、という感想は言わないでおく。触らぬ神に何とやらと言うしな。
そんな光景を横目に、俺は何も喋らないままだった若干空気になっていた妹さんに目を向ける。
妹さんは高垣と違って俯きながら固まったままではあるのだが……佑の言葉を聞いて怒りなのか恥ずかしさなのか定かではないが、ぷるぷると身体を揺らし耳も真っ赤に染まり始めていたところだった。
「あー、うちの佑がすまんな。悪気は無い筈なんだ。何時もあんな感じで突拍子も無いこと言ったりするんだよ」
佑は何気無しに呟いた疑問だったのだろうが、同じ食べ方をしていた妹さんからしたら馬鹿にされていると受け取られても仕方ない。
数ヶ月付き合いのある高垣ならある程度佑がどんな人間なのか理解しているだろうからこういう絡みがあったとしても今後に差し支えるような雰囲気にならないと思うが、なにせ妹さんはほぼ初対面だ。どんな感情を募らせたのか測り知ることは出来ない。
なので隣でわちゃわちゃしている最中の佑の代わりに俺が謝ると、声を掛けられたことで正気に戻ったのか、妹さんはゆっくりと顔を上げ俺に視線を向けてくる。見れば心做しか頬も赤色に染まりかけていた所だった。
「別に気にしてませんので」
「そ、そうか」
蚊が鳴くような弱々しい声でそう断言しパスタを口にしていたが、俺はそれ以上何も言うことはしなかった。
例え、そっとスプーンを手放した所が視界に映っていたとしてもな。
「見てみてヒロくん」
「うん?」
そんな妹さんをそっと眺めていると、横の朱音から声を掛けられる。
見れば無事に高垣から頂戴出来たようで、手元の取り皿の上で宙に浮かすフォークの先端には綺麗なカルボナーラの球が出来上がっていた。照明の光によって絡み付いたクリームチーズは心做しか輝いているようにも感じ、メニュー表に載っている写真よりも美味しそうに見えるそれを朱音は自慢げにしながら俺に見せ付けていた。
そして変顔になるからと滅多にしないよう心掛けていた筈のドヤ顔を晒す変顔になった朱音に向けて、感慨深そうな顔をして小さい拍手をする佑と何も言わずじっと見詰め続けている高垣。
「ほら、見事でしょ」
「お〜綺麗じゃん」
「なんか妙に美味しそうに見えるね。それ頂戴」
「食べたいなら自分で頼みなよ。それと、ハンバーグばかり食べてるけどブロッコリーは食べないの?」
「……褒めたじゃん」
「いや、これしきの事でこれあげたりその残った野菜を見逃す程私チョロくないから。で、コーンも残ってるけど。食べないの?」
「……ふむ、じゃあ朱音さんや、いい話があるんですが」
「……それは何だい、たすくんや」
俺と同じ様にそれを見て美味しそうと感じ要求したのだろう佑は朱音に一度は拒否と皿に残った嫌いな野菜を指摘されたものの、何やら俺の耳では拾えない声量で何かを囁き合い始めた。
恐らくだが交渉か何かしているんだろうな。例えばその野菜とカルボナーラを交換的な。だがこれだと成功確率はゼロに近しく見えるが、果たして佑は何か他に交渉に使えるカードを持っているのだろうか。
「…………」
「ん、そんなガン見して二人がどうかどうしたか?」
少しでも声が拾えないかなと耳を澄ませていたが、そこで正面の妹さんの食が進む音がパタリと途絶えていたことに気付きそちらを見ると、今の二人の遣り取りを眺めながら何処か羨ましそうな、けれど同時に寂しそうにも感じ取れる顔をしていた妹さんが見えてしまい、思わず声を掛けた。
妹さんは俺の声にピクリと反応し一瞥してきたのだが、直ぐに興味が失せたようで再び今もヒソヒソと楽しそうに交渉らしき何かを続けている佑と朱音に視線を戻す。
「春辺さんと浅見さん、お姉ちゃんの言った通り仲が良いんですね。幼馴染みでしたよね」
「そうだ。因みになんだけど、高垣からは俺のことはどんな風に聞かされてる?」
今の言葉を聞く限り高垣からこの二人が幼馴染みだということは事前に教えられていたらく、妹さんはただの確認と言わんばかりの淡々とした口調でそう聞いてきたので、俺は頷きながら返事を返した。
きっと、家で俺達三人が載った写真か何かを見せながらこの子は友達の誰々、みたいな風に教えたのではなかろうか。妹さんを知った今、そのような光景が頭の中でありありと映し出される。
そして次に気になるのは、俺をどんな風に紹介したのかだ。
初対面たる妹さんの今日の態度を見て是非とも教えてもらい気持ちでいっぱいですね!!
「……」
「え、無視?」
「……はぁ」
「何故に溜息?」
だが俺の溢れる気持ちとは反対に、まるで言いたく無い、といった苦虫を噛み潰したような顔をして無視と溜息を零す妹さん。
こんな反応されれば嫌でも気になるぞこれは。
教えてくれーと念を込めながらじっと妹さんに向けて目で訴えていると、視線が鬱陶しく感じたのか顎に手を添え少しの間考える仕草を取ってから、妹さんは徐ろにスマートフォンを手に取って何かを操作し始めた。
ここで文字会話に戻るのか、と思ってその姿を黙って眺めていると、やはりと言うべきか先程と同じように画面を俺に見せ付けてきた。
『底抜けなおバカさん、夢見がちな脳内お花畑男子、クサイ台詞がデフォ野郎』
画面にはやはりメモ帳アプリが映ってあり、見ればそこには短い単語だけがズラリと並んでいた。それも全部が全部罵倒といったもの。
「……は?」
そんな風に言われるとは思っていなかった俺は絶句する他無かった。
「……」
「実際にそう聞かされていましたけれども、どうでしょうか。合っていますか?」
「…………」
妹さんは何故か先程の苦い顔から一変して妙に勝ち誇った顔になっているが、きっと今の俺は普段の佑のようなスンッとした、表情筋が全く機能せずまるで感情が抜けた顔をしているだろう。
ああ、今に抱くこの感情。
まるで前に本屋でたまたま目に付いて買った恋愛小説が蓋を開ければ寝取りものだった時に、昔にハマったRPGゲームのセーブデータが気付けば佑の手で消去されていた時に、中学時代に相手に告白することをゲーム感覚のような感じで宣った馬鹿を見つけた時に。
その時々に抱いた感情と同じモノ―――そう、これは怒りだ。
俺の心は今、ムカ着火ファイヤーしている!!
「フ……フッフッフッフッフ」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。俺は今非常に冷静だ」
「その答えが既に大丈夫じゃない気がしますが」
急に笑い出した俺に引いているのか、若干震えた声で確認を取る妹さんにはそれとなく返事を返し、俺は今にフォークのみでパスタをくるくると巻こうとしていた高垣に声を掛けた。
「おい、そこのお子ちゃまな高垣さんよぉ」
「は?アンタも喧嘩売ってんの?」
「あ、いえ、えーっとですね」
「何よ」
俺の言葉に癪に障ったのかギロリと凍て付くような視線を向けてきた高垣に一瞬怯んでしまったが、何とか持ち堪え俺は怒りの籠もった言葉をぶつけることに。
「屋上に行こうぜ……久しぶりに……キレちまったからよぉ」
「いや意味が分からないけど。それにここ、お店だから屋上なんて行けないわよ」
まるで馬鹿を見る目で俺を見る高垣。
…………あー。うん、ソウデスネ。
「あ、じゃあ店の外に」
「料理が冷めるから帰りにして」
「あ、はい」
至極真っ当な返事に俺は速攻で頭が冷えてしまった。うん、確かに冷めちゃうもんね。じゃあ帰りでいっかぁ。
それを見て妹さんは『弱っ』と小さく呟いているが、聞こえてますからね?
「交渉成立、だね」
「うん」
そこで何やら佑と朱音のヒソヒソ話は終わったらしく、力強く手を取り合ってウンウンと頷き合っている。
今に朱音が言ったように、やはり交渉を行っていたようだった。
どんな内容だったんだろうかと、二人の様子を眺めていた俺は、始めに動いた朱音の行動に目を剥く事になった。
朱音が取り皿に置いていたカルボナーラが巻かれたフォークを手に取り、それをゆっくりと、自分の口では無く佑の方へ向けていたのだ。
「よーし。じゃあはい。あげる」
「ん」
「―――☆□◯◇ッッッ!!?」
それは、カップルがするような『あーん』だった。
☆☆☆おまけ(少し先の地獄のクリスマス編序章)★★★
本日は十二月二十五日、つまりはクリスマス当日。
この冬空の下で様々な想いが交錯する、特別な一日。
「おはメリクー」
「おはよう新藤君」
「……ノリ悪いなぁ。今日はクリスマスだぞ」
「そうね」
「……」
「はぁ……クッソダサイ挨拶したくないだけよ」
「女の子がクソだなんて言葉使うんじゃありません!はしたないですわよ!メェリークリスマァース」
「朝からうざすぎ。ねっとり言わないで気持ち悪い」
「辛辣ぅ」
そして、この日をもって高校は冬休みを迎える。
故に今日も今日とて変わらず三人で終業式を迎える為に登校……とはならず、俺は冷え込む朝一番に誰よりも先にがらんとした教室へと赴いていた。
朝に弱い俺が何故こうして一番に来ていたのか、その理由は俺の少し後に教室へと入ってきた、今は目の前で手を組みながら心底うざそうに俺を見る高垣が原因である。
「んで、昨日電話してきた『朝早くに教室に来なさい』って指示、何だったん?」
「ちょっと待ちなさい。今から渡すから」
「渡す?何か貸してたっけ?」
何やら俺に渡す物があるらしく、肩に掛けたままだった鞄に手を入れゴソゴソと中を漁っている。
「寝惚けて察しが悪くなってるのかしら?今日は何の日?」
「クリスマスだけ、ど……待て待て待て!夜のクリパで皆で渡す予定でしょうが!」
そう、少し前に朱音の提案で高垣も含めた四人でクリパをしようという約束を交わしている。
そこでスマートフォンのアプリを使ってルーレット形式でクリスマスプレゼントをランダムで渡し合おう、ということになっている筈なのだが、何故この場でそれを渡そうとしているのだろうか。俺は家に置いたままだし、そもそも高垣個人に渡すようなプレゼントを用意していない。
意味が分からず焦る俺に、高垣は鞄から小さい箱を取り出し俺に差し出してきた。
「夜のは誰が貰っても大丈夫な物でしょう。これは私から、あなた個人に向けてのプレゼントよ」
「……そ、そっかぁ!いやぁありがとな!めっちゃ嬉しい!」
「どういたしまして。大した物ではないけれどね」
「そんなの関係ねぇよ!気持ちが大事じゃんこういうのって!」
「ふっ。そうね。因みにだけど、個人でのお返しは要らないから気にしないで」
「そ、そっか」
見ればクリスマス仕様のラッピングがされた箱。
それを見てはしゃぐ俺に妙に優しげな目で見てくる高垣に少し子供っぽく見えたかと恥ずかしさが込み上げる。
差し出されたそれを有り難く受け取ろうと手を伸ばしたが、触れる直前で高垣は何故か席に座る俺が届かない宙へプレゼント箱を持って行ってしまった。
「―――え?」
「新藤君、少し私の遊びに付き合ってくれるかしら?」
「え?遊び?え?」
一度下がった困惑が再び浮かび上がる。
「お付き合い頂けるかしら」
「え、いいけど。え、何すんの?それが欲しかったらって意味だろ?」
「ええそうよ」
俺の様子とは反対に、高垣はそれはそれは楽しそうに―――いや、何方かというと愉しそう、といった色が顔に出ていた。
「折角包装したのだけれど、貴方には今から中身だけ渡すわ」
「お、おう。それは構わないけど」
「今から取り出すから私が合図するまで目を瞑って頂戴」
「わ、分かった」
果たしてこれが遊びと言えるのだろうか。そう疑問が湧きながらも高垣の指示に従い目を瞑る。
しっかりとその様子を見たからか、目の前では次第に紙を擦るような音や箱を開くような音が聴こえ始める。もしやこれはサプライズ的な意味での遊びなのだろうか。
そのまま一分程経って、少し重たい音を置くような音が机から聴こえた。どうやら高垣の言う中身だけを置いた音なのだろう。
「新藤君、まだ目を瞑ってて」
「お、おう」
「これを貴方にあげる。けれど―――」
「……けれど?」
やけに勿体ぶった言い方に俺は鸚鵡返しのように尋ねる。
すると何が愉しいのか、クスッと小さい笑い声が聴こえた。
「貴方が目を開けた瞬間から、家に帰るまで絶対に誰の目にも入らないように注意なさい」
「え?な、絶対って?……あ、もしかして恥ずかしい系?エッ―――」
「断じて違うわ」
「あ、はい」
思春期の男子舐めんなよ!すーぐそういう思考に行っちゃうんだからな!?
「目、開けていいわよ」
「ん、分かった。あ、開けるぞ?」
「ふふっ、そんな緊張しなくていいわよ」
高垣の言い回しに不安を募らせるが、遊びの内容と指示が下りた為に徐々に瞼を上げる。
元より音がした方に顔を向けていたので、高垣からのプレゼントというものは直ぐ様視界に入った。
「は、いや……えお前これっ何で」
「ふっ」
―――だが、俺はそのプレゼントを見た瞬間に、全身から冷や汗が噴き出るような感覚に囚われた。
「お、おおお前ええーーー!こらあーーー!!?駄目だろうが!!?」
「ふっ……くふっ、あは、あっはっはっは!」




