表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/93

58話

短め

 俺達のような学生にとってファミレスとは、各々で頼んだ料理を共有したり、くだらない内容ですら笑い話の種として盛り上がったり、はたまたプライベートもしくは学校内で中々言えないような愚痴を呟いたりと色んな意味でついつい騒ぎ立ててしまう(無論、騒ぐと言っても常識の範囲内で)、青春の一コマとなり得る場所と言えるだろう。 


 入店前の窓ガラスから覗くファミレス店内は平日だからか思ったより客の入りはそこまで多く無く、目を凝らしてみれば俺達五人が入店してもまだ空き席が数多く残る程度。俺達以外にも幾つかの学生グループも居るし子供連れの家族も見受けられた。

 今回は初対面の高垣の妹さんも居るとはいえ、妹さんからの俺への用件の後は、思えば聞いたことのない高垣家での話などを

多少なりとも教えて貰ったりして普段よりは賑やかになるだろうと確信していた。


「…………」


「……あの、そんな見詰められると穴が開いちゃうぞ〜なんて」


 そう思ってた時期が俺にもありました。


「口を動かす前に早くメニュー決めて私に貸してください。もう店員さん来てるんですけど」


「はいすいません」


 現在、俺に対して見定めんとする面接官の面持ちのような顔の妹さんと何故か二人席で対面中。じっと見詰めるその視線から逃れるように悩む振りをしてメニュー表で顔を隠してみれど、少し傾けて盗み見れば遮蔽物なぞ気にせず俺をガン見。

 いや、メニュー表の裏に気になった料理が載っている可能性も微レ存か。


「取りあえず大盛りポテトフライを一つ、和風サラダを二つ、あとは〜。次、たすくん」


「ツインハンバーグの和食セット。あ、ご飯大盛りで」


「カルボナーラを一つお願いします」


 隣の佑、朱音、高垣が座る席へは既に店員が注文の確認を取りに来ており、あれこれと軽い料理の注文を取る朱音、店内の香ばしい匂いに釣られ腹が空いたのかハンバーグ系の料理だけを頼んでいる佑、前に遊びに行った時にも昼食で食べていたから好きなのだろうパスタ系の注文を取りながらも此方の様子を伺う高垣。


 二人と三人という形で席に着いているのが現状だが、このような人数比で別れたのには単純な理由がある。

 入店時に店員からご自由にという案内後に店内を見渡したが見る限りではそもそもが四人席までしか無く、代わりにタイミング良く使われていなかった店内の隅にあるソファ型の四人席、隣に少し間を開けてソファ型と椅子型が対面した二人席の計二席を陣取る事になった。

 此方の席をずらし無理矢理席を共有する事も出来るには出来るが、非常識であるのでまずしない。

 変な視線を受けるし印象も悪くなるし、片付ける店員さんにも迷惑掛かるしな。


 でもさぁ……普通なら俺が居る場所には高垣が座るのが普通じゃね?と思う。

 何で俺が妹さんと二人で席を共にしてるの?妹さんも俺見てそこに座れって視線送ってきたからこうなったけど初対面ぞ我ら。 

 高垣が言っていた落ち着ける場所なんて何処にも無いんですけど!?


「そっち決まった〜?」


「あ、こっちもポテトフライ……大盛りお願いします」


「私もカルボナーラを。以上でいいんですか?他にも何か……」


 少し嫌っているらしい俺に対してもその気遣い、根は優しいと見たっ!


「随時頼めば良いっしょ。取りあえずは以上で」


「かしこまりました―――」


 店員の確認後、最後に俺以外の全員がドリンクバーもセットで注文し、各自飲み物を取る為に席を立とうとしたが、隣では佑が代表で取りに行くそうなので俺もそれに便乗する。

 ここで妹さんの飲み物も俺が取りに行って少しでも印象を良くしなければならないしな。


「妹さん何飲むの?」


「お姉ちゃんと一緒で……いえ自分で取りに行きます」


「そう遠慮すんな。もう立ったから一緒に持ってきてやんよ」


「……お願いします」


「任された。んじゃ佑、行こうか」


「うん」


 そうして佑とドリンクコーナーに。共同作業で俺が人数分のグラスを取り出し佑がその中へ氷を入れ、俺の分の飲料水だけを先に注ぎそのまま互いに必要な数のグラスを手にディスペンサーの前に並ぶ。

 そうして右手に持った妹さん用のグラスへ飲み物を注ごうとして手が止まってしまった。

 あれ、そういえば高垣は何飲むんだ?聞いてなかったけどいつもの紅茶か?


「高垣さんは烏龍茶だよ」


「オーケー烏龍茶ねやっぱそうだと思ってた」


「ふ〜ん」


 迷う俺へ察したらしい佑がそう教えてくれたので素直に烏龍茶を注ぐ。少し恥ずかしい思いをして適当に誤魔化してしまったが佑にはバレてる。生返事だったし。

 

「高垣さ……茉莉さん、ヒロに一体何を言う気なんだろうね」


「あん?いや、俺も心当たりねーんだけどな。何なんだ良くないことって」


「さあ。でも最初物凄い剣幕だったからあれって余程の内容なんじゃないの?」


「……そんな目で見んな。知らねーもんは知らねーぞ。てかちゃんとグラス見てないと溢れるぞ」


「大丈夫、ほら」


 俺の番が終わり、佑が朱音用にオレンジジュース、高垣用の烏龍茶を注いでいる中、胡乱な目付きと共にそう聞かれる。

 恐らく佑も俺が高垣に対して何かを仕出かしたと思っているだろうが、俺としては心当たりは全く御座いません。


「まあ、困ったことがあれば合図送って」


「お〜。おうそん時が来たらな」


 佑の気遣いに軽く返事をしながら、俺は二つのグラスを両手にそれぞれ持ち、佑は三つのグラスをくの字にくっつけ器用に持ち上げながら席に戻る。


「これがみうちゃん」


「めちゃくちゃ可愛いですね羨ましいです。うちはお父さんがペットの許可はしてくれないので飼えないんです」


「え〜?何で?」


「本人曰く、あんな悲しみは二度と御免だ、らしいわ。子供の頃実家で飼ってた犬が死んじゃって凄く悲しかったんですって」


「あー、そうなんだ。それは悲しいかも」


「小さい頃はお姉ちゃんと一緒に猛反発したね。飼わないと学校行かないぞって言い張って」


「憶えてないわそんな小さい頃」


 俺達が居ない間に女子三人で何やら朱音の家で飼う猫で盛り上がっていたらしく、朱音がスマートフォンに飼い猫の写真を映し妹さんに見せている最中だった。妹さんは食い付くように画面を眺めているが、高垣は反対にそれ程興味を唆られていない様子。

 幼少期の高垣姉妹はそんな事してたんですね。懐かしむ妹さんに高垣は惚けて返事しているが、多分憶えていそうだな。


 それにしても、みうちゃんなあ。

 可愛いとは思うが昔から俺が春辺家にお邪魔すると威嚇してくるんだよなぁ。

 撫でようとすればダメージ覚悟しなければならない程に。可愛いんだけど。今度会ったら顎撫でよう。


「へいお待ち。烏龍茶でございます」


「あ、どうもです」


「お待たせ。キンキンに冷え―――」


「ありがとー」


「どうも」


「……うん」


 側に烏龍茶の入ったグラスを置けば、律儀にペコリと頭を下げ感謝を告げる妹さん。

 佑は……ネタが遮られたせいで心做しかしょぼんとした雰囲気を漂わせながら席に着いた。


「さて、本題に移ろうか妹さん」


「そうですね」


 席に付きすぐに口火を切ると、妹さんも少し固い顔付きになり居住まいを直す。

 さてさて、何を言ってくるんだか。


「……」


「……」


「「………………」」


「?」


 そうしてそのまま妹さんの言葉を待てど、頭の中で話す内容を纏めているのだろうか、数秒経っても何故か黙ったままだった。


 一向に口を開かない妹さんを待ち続け、なんなら俺の方から疑問を投げてみればスムーズに進むのではと思い始めたその時、やっとこさ妹さんは動きを見せてきた。

 だが予想外な事にそれは話す行為などではなく、テーブルに置いていた自身のスマートフォンを手に取り、そのまま何かの操作をし始めてしまった。

 いやあの、何してるんでしょうか?


 意図が掴めず、呆気に取られた俺のことは視界に入っていないのか高速で指を動かす妹さん。もしかしたら友達とかからメッセージが来ていたのを思い出し今になって返信をしているのかもしれない。

 いやでもこんなタイミングで?流石に無いだろうな。


 これまた数秒ほど同じ沈黙が降りた後、やっと操作し終えたのか小さくよし、と呟き、そのまま暗転させずにまるで俺に見ろと言わんばかりにその画面を此方に向けて差し出してきた。

 突飛な行動に困惑しながら、差し出されたその画面を見てみるが。


『すいませんがこれで会話をしましょう』


「いやメンドクサッッ」


 どうやら操作していたのはメモアプリで、態々見易いように少し大きめに調整してそう文字を刻んでおり、文字通りこのまま互いに無言でスマホを向け合い会話をするという非効率極まり無い遣り取りを想像して思わず渋い顔になる。

 マジで言ってんですか?普通に喋っちゃ駄目なんですかね。

 

「マジですか?」

 

「マジです」


 いやいや至って真面目な顔でそう返事してるけど、今普通に会話したじゃん。このままでいいじゃんかこっちが早く終わるぞ。


「因みに聞くけど何で?」


「……」


 俺の疑問に妹さんは目を伏せた。

 そして再びスマートフォンで文字を打ち始め、そう聞かれることを想定していたのか今度は速攻で返事が返ってきた。


『お姉ちゃんに内容を聞かれたら、最悪私が怒られる可能性もありますので』


「あー」


 ああ……俺に言いたい事、聞きたい事が出来るまでの過程で妹さんは高垣にバレたら不味い何かをやらかしたのだろう。

 まあ、言った通り高垣なら少ない情報だけでその何かに辿り着きそうな感じがする。万が一、声で会話をしてそれが気付かれるのが怖いから、こういった手段を取ってきたのかね。

 

「オ……『オーケー』」


 どの位の時間と労力を使うか定かではないが。

 これがこのまま続くかは分からないが仕方無く、料理が来るまでは土俵に乗ってあげることに決めた。


「シッッ。声に出さないで下さい」


「やってらんねぇなぁ。これなら家に帰ったあとででも良くね?連絡先交換する?」


「貴方とは交換したくありません」


「辛辣ぅ」






「ん?何か二人とも黙りこくってるけど何してるのかな?」


「さあ。あれじゃない?一騎打ちのような見えない闘いでもしてるんじゃないの」


「どうせくだらない事でしょ」


「あれ、何かお互いにスマホ向け始めたけど?見せ合いっこしてない?」


「流石にここからじゃ何を見せてるのかは分からないね」


「バカバカしいわね。どうせ茉莉の方に私にバレたくない事の一つや二つあるんでしょうよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ