56話
「新藤、こうして会うのは体育祭ぶりだな。元気だったか」
「お久しぶりっす猪田先輩。毎日元気っすよ。それで、急にどうしたんですか?」
今日から帰宅時間が早まっているのか、帰り始めた文化系部活動生と何度かすれ違いながら目的地へ。
そこには既に先程連絡を寄越した、窮屈に見えるほどに張った制服を身に纏う猪田先輩が仁王立ちで立っていた。
半袖の先から見える血管の筋がくっきりと見えるほどに鍛えられた腕に、少しばかりの畏敬の念を送る。俺が鍛えたってそこまで筋肉着かないしあれだ、男だから羨んでしまう。
猪田先輩の言った通り、帰宅部の俺には特に接点が無いので会うのは体育祭以降振り。
だから、急に連絡が来た時は驚いたし心当たりも無かったのでここに来るまでずっと首を傾げていた。
さて、一体何用だったのだろうか。
「まずは駆け付け一杯」
「飲兵衛ですか」
「ははっ冗談だ。ちょっと待っててくれ。微糖でいいか?」
「問題無いっすよ。あざっす!」
ずっと手にしていたのか、組まれた腕の中に隠れた缶コーヒーを差し出されたので受け取ろうとしたが躱された。
どうやら手にしていたものは自身のらしく、近くの自販機から購入してくれるとのこと。好意に甘え、その場で猪田先輩の戻りを待つことにした。
「ほれ」
「ありがとうございます!頂きますね〜」
購入したばかりで冷えた微糖の文字が描かれた缶コーヒーの蓋を開き、ほんの少し口に含める。
人から買って貰ったやつはなんで普段以上に美味く感じるんだろう、と若干ゲスい思考になったが、早速話題に入り始めた猪田先輩の声に意識を傾けた。
「いや今日な、お前がアルバイトを探しているって噂を聞いてな」
「ははー。え、それって今朝初めて親友に伝えただけの話ですよ?なんで猪田先輩の所にまで噂になって耳に届くんです?」
「あーいや、なんと言えばいいか」
俺から目を反らし、暗に言えないことがあるような態度に訝しむ。
「まあ今はそれは置いといて、探しているのは本当か?」
「ええ、本当ですよ。今は夏休み期間はしてみようって感じですけどね」
露骨に話題を戻されたが、渋っても話が進むわけでも無いので素直に従うことに。
いや、でも早すぎない?今日の今日だぞ?この学校内に噂好きが潜んでいるのは確実だろうな。
「そうか!だったら提案なんだが、夏休みは俺がバイトさせてもらっている所に来てみないか?」
「え、猪田先輩バイトしてたんですか?」
「ああ、長期休暇限定で焼き鳥屋にな」
「焼き鳥屋」
適当に店名の載ったのぼり旗と屋台の風景を想像する。
見たことがないのでどんな店内なのかはあやふやだが、客前で焼くスペースはあるだろう。
その場所で、網の上で香ばしく薫る鶏肉を転がし、焼き加減を確認後に串一本を完成させた猪田先輩を想像した。どこでタレを付けるのかはわかんないけど。
「想像したら何か腹が減りました!」
「そりゃお前、夕飯までに近い今の時間でそんな事したらそうなるわ」
猪田先輩が鶏肉を焼く光景を浮かべていたら、それに釣られてか腹が小さく鳴る。
ってこんな想像はどうでも良いとして、猪田先輩は俺で良いのだろうか?
「俺で良いんですか?勿論バイトは初めてなんで勝手とか知らないですし、もっと他に知り合いとか」
「同級生は受験勉強もあって誘いづらい、部活動の後輩も誘ったが誰もうんとは頷かなくてな。俺も来れない日が有るだろうし誰かしら補充しないと、と考えていたところでお前の話を聞いたんだ。今月で一人退職するとのことだから店長の方で他校に居る一人は確保出来ているらしい。お前が入ってくれれば俺の後釜人員確保は終了だな」
「ほほー」
何とも猪田先輩的にはタイミングが宜しいことで。だがそれは何も猪田先輩だけではなく、俺にとっても大変都合がいい。
吟味を重ね中々決まらなかったバイトが、こうもすんなりと決まりそうなのだ。初めて働く経験をする以上迷惑を掛けたりする可能性があるため、最初だけでも猪田先輩が共に居てくれれば却って助かる。
何方にしろ都合好く、あいつらとの距離を少しずつ離す絶好の機会でもある。あの猪田先輩の紹介といえば変なバイト先には行かないだろうと心配する必要も無くなるだろうし、これを受けない手は無いな。
「猪田先輩」
「何だ。時給は、まあもしかしたら望んだ額では無いかもしれないが―――」
「いやいや違いますよ!?金にがめつく見えますか!?」
「今までに誘った連中の中に居たんだよ。他のバイト先のほうが時給良いからそっちにするって断ったやつが」
「お、おぉ……何とも世知辛い」
「俺としては、まあ昔から何度も足を運んだ場所だけあって楽しくやっているんだが……やはりそういった目線で見られると何ともな」
「猪田先輩ってめっちゃ良い先輩っすね」
「ははっ褒めるな褒めるな」
純粋に褒めただけなのだが、これ以上無いほどに顔をだらしなく緩め、むず痒そうに頬を搔いた猪田先輩を見て、体育祭の時に垣間見た威厳が全く感じられず何だか近所のお兄さん、という雰囲気を感じた。
ああいった行事では真面目ではあるが、こういった交流ではこんな感じだったのか。知らなかった。
「受けるかどうかの話ですけど、俺で良ければ大丈夫ですよ!働く大変さ、その中で見つかる楽しさというものを是非教えてくださいな!」
「おうとも。だったらテスト期間が終わる来週の土、日曜日位で面接出来ると店長に伝えてもいいか?厳しい人でも無いからただの受け答えのような面接だ」
「勿論っす!」
「あと、あれだ。担任や生徒指導、校長なんかの許可申請も一緒に周ろう。俺もまだなんだ」
「あざっす!めちゃくちゃ心強いっす!」
「働くようになれば勿論、店に出せなくなったものなんかで賄いも食べれるし、買って自分で焼いたものを親に食べさせてやるのも案外楽しいものだぞ」
「親に……」
俺の両親は平日休みはずっと共働きで帰りも遅い。そんな親に、猪田先輩が言ったように孝行をするのも有りかもしれない。
この成長を見せる時が来たのだ。やらずに何時やるというのか。
「フッフッフ。やってやりましょう!」
「両親好きなのか?やけに楽しそうになってるが」
「ええそりゃここまで育ててくれたんですからね!恩返しって大事っすよ!」
「そうか。お前は良い後輩だな」
「どうもどうも〜」
「ちっとは謙遜見せろ」
「「はっはっは」」
玄関前に居座るせいか、呵呵と笑う俺達を気にしながら帰っていく多数の生徒達。
だがそんな目など今の俺には何の影響もない。
それにしてもこんな感じで上級生と絡むのは初めてだ。
今までだったら上級生といえば少し怖い印象というか、無意識に避けてしまっていた自分が居たがとんだ勘違いをしていたものだ。こんなにも接しやすい相手だったなんて。
ここまで行けばただの先輩じゃない。アニキだ!!
「ア、アニキィ!」
「すまん。兄貴と呼んでくれる弟が居るから間に合ってる」
「アッすんません調子乗りました」
「お前面白いな。学校外では好きに呼んでくれ」
「それじゃ、親しみを込めて猪田パイセンはどうですか」
「パイセン……その程度だったら、まあ校内で呼んでも構わない」
「い、猪田パイセン!前に熊みたいな人だなって思っててすいませんした!」
「おうこら表出ろ」
生意気な後輩を相手にするように、自然な流れで笑いながらその逞しい腕を俺の頭に回しヘッドロックをかましてきた猪田先輩。
ただのじゃれ合いの範疇で力を込めていないおかげか思った以上に―――いででで!こめかみが圧迫されてますぅ!!
腕をペチペチと数回タップし降参の意を示した。
「頭が破裂するかと思いましたが!?」
「鍛え方が足らんな」
「逆に何をしたらそうなるんです!」
「吹奏楽部で肺活量を鍛えるために日々筋トレしたらこうなった」
「吹奏楽部」
柔道部とかその類の部活に入っていると思っていた俺は驚く。楽器を手に立つ猪田先輩、なんかこう、ギャップあります。
それに筋トレだけでこうも身体を磨き上げたのか。日々の努力の賜物なんだろうけど、なんかこう、凄いです(語彙力低下)
「よし、バイトの件は済んだな。次だ」
「うっす、よろしくお願いします。それで、他にも何かあるんですか?」
「さっき俺が言い淀んだだろう。噂について」
「ああ、バイトだけの噂なのになんか余所余所しいとは思ってましたけど。まさか他にも何か?」
「そのまさかだ」
「うへぇ。聞かせてもらっても?」
「ああ。その前にズバリ聞くぞ」
今から言う内容が重い話なのか、何処か神妙な顔付きになる猪田先輩に、俺は何が来るのかと身構えた。
「女誑し込んでるって本当か?」
「何その根も葉もない噂。それ広めてる人は目が可笑しいと思いますよ」
「何故そう言い切れる?」
猪田先輩だって仲良くなった俺がそんな人間に見えている訳では無いだろう。だからこの確認は、きっと興味本位から聞いてきたに違い無い。
そしてその噂に対して俺が言えるのはこうだ。
「そんな人間だったならば、既に俺に一人や二人彼女出来てますよッッ」
「二人も彼女居たら一緒では」
「言葉の綾ですよ!彼女なんて今まで一人も居ませんったら」
「そうか、なら安心した。今お前に彼女が居ると聞かされたら嫉妬の念を送りまくっていた所だ」
「いや怖いっすよ絶対鬼の形相だそれ。ていうか猪田先輩は彼女とか居なかったんです?」
「もう高校三年生だぞ。今は居ないけど流石に交際経験の一つや二つ過去にある」
「グァーッッ」
自分からむざむざとカウンターを食らってしまった気分になった。
未だ交際経験の一つない残念無念な俺はズキズキと痛む胸を手で抑えていると、猪田先輩はそうか、と呟き喝をいれるかのように大きい掌を俺の背中に叩き付けた。
痛過ぎる!絶対背中腫れましたよこれぇ!!
「大丈夫だ。学生間の恋愛って続かないと聞くし、それ以上に良い相手なんぞ生きていればこの先何度も出会える。まあ、今のうちに得られる経験もあるだろうから損は無いと思うがな。だからそう落ち込むな、お前にだってチャンスはあるだろう」
落ち込んだように見えたのか、励ましの言葉が送られた。
その口振りからして、今の猪田先輩は既に別れた相手に未練と言った感情を微塵も感じさせない。
むしろ前向きに、未来の出逢いに期待を寄せてるようだ。
けれど俺はその言葉に理解はすれど納得が出来ない。その言い方だと、学生間の交際が踏み台のように聞こえるから。
それに納得してしまえば、幼馴染みたる佑と朱音がこの高校生活の間で交際してもいずれ別れ、それぞれ別の相手を見つけるといった俺にとって最も最悪な展開を自分で許容してしまうからだ。
そんな結末、たとえ死んだって見たくない。
「俺の言ったことに不満そうな顔をしているな」
「うぇっ?ああいや、そんな事無いっすよー」
「お前、感情的な人って言われるか?」
「え、ええ良く分かりま―――顔に出てたっすね。なんかすいませんこんな顔を向けてしまって」
不穏な展開を思い浮かべていたからか、やはり顔に出てしまっていた。
ああ、俺の悪い癖だ。佑のようなポーカーフェイスを極めなければ。何度も直そうとしてるんだけどね。
それにしても、直接そんな顔を向けられたのに猪田先輩からは悪感情のようなものは向けられなかった。何なら苦笑しているまであった。
「なんで謝るんだ。いいじゃないかそれで」
「うぇ?」
「人間味があるって事だ。お前の友人達もそんなお前と接やすかったろうよ。裏表がはっきりして素直なんだからな」
嘘が付けない奴だな、とは昔から言われたが、あまり接点がーの無かった猪田先輩すら俺のことそう見えているのだろうか?
「まあだからこそ、これから先苦労するとは思うがな」
眉尻を下げ、何処か気後れしたようにそう言った猪田先輩。
「……例えばどんな?」
「例えばそうだな。お前がこの先、真逆の価値観を持つ者と対峙した時、どうなると思う?」
今までにそんな友達は居るには居た。少し言い争いをしてどっちの言い分もまあ正しい、となった憶えはある。
だが今はそういった話ではなく、もっと根本から違う場合の事を言っているのだろう。
「……顔に出るから、まずは相手の癇に障ってしまう、とか?」
「それもある。ならどうしても受け入れられない、容認出来ないモノをぶつけられた時はどうだ」
その流れで例えるなら、俺がどうしても曲げれられない想いを真っ向から否定された時とか、だろうか。
「……これ以上無いほどの大喧嘩、起こすんじゃないんすかね?」
「そうだな。得てして感情的な人とはそういった人間だ。まあ、俺の推論だから保証はしないがな」
「実際にその時になってみないと分からないっすね」
互いに相容れない価値観のぶつけ合い。
傍から見ればそれは、思想の押し付け合いのような構図。
猪田先輩の言い分が正しいとは限らないが、いずれ来るかもしれないその相手を前に俺はどのような感情を見せるのだろうか。
今はまだ想像も付かない。
☆☆☆☆☆☆
「困ったことがあったらいつでも相談乗るからな。俺でよければ」
「その時が来たらお願いしまーす!」
少しの間俺という人間性の話になったが、その後はすぐに話の途中であった噂の続きとやらに戻った。聞く所によると前提として幾つか他の噂もあり、それに重なるように今回の噂を聞いたとのことだったらしく、この際だと残りの噂も全て教えてもらった。
教える最中、俺を見て少し心配そうな顔をしていたが終わった後は気を遣ってか別のことで軽く談笑した後、これから宜しくな、と言い残し先に帰っていった。
猪田先輩のバイト勧誘は思い掛けない展開であったが、それと同時に知らず知らずのうちに出回っている俺に纏わる噂を聞けたという収穫の多い出会いでもあった。
一つ、何やら女好きで常に誰かの近くに居座る。
二つ、前に見知らぬ女とデートをしていた。
三つ、佑の恋路を邪魔をしている。
四つ、朱音の好意を袖にしている。
一つ目と二つ目は、まあ女好きっていうのは専ら否定出来るものではないがとんだ解釈違いである。そういった意味では無く。というかこれ相手は一緒にいることが多い朱音ならまだしも他はほぼ高垣の事を指してるでしょ。放課後の密会にも見える相談会が誰かしらに見られていた可能性があるし。
デートしてたってのは高垣と行った二つの件を言っているのだろう。他に誰かと行った憶え無いしな。というか最初のならば結果的に佑と朱音も居たじゃん。そこ見てないの?二回目のは、まあ最後に入れ替わる形にはなったけど。そこも最後のほう見てないの?
てか二つ目の件、あいつ擬態能力高過ぎない?たった二回だけの話だけど俺だけバレてますがな。俺ってそんな目立つか?周りと比べればぱっとしない男ぞワレ。
そして気になった残り二つ。
佑の恋路の邪魔をしている。まあ、基本二人の近くに居るからそう見える人も居たってことだろう。だが此方は嬉しいことに周りからは佑が朱音に恋している、と見られていることの証左。
ふふふ。実は俺も同じ目で見てるんですよ噂をする人達さん。
これに関してはまだいい。そういう風に見られても問題無いし。
ただし4つ目テメーは駄目だ。見当違いも甚だしい、そんな思いだ。
恐らくきっと、体育祭の時やそれ以降の朱音の距離感が変わった影響故なのだろう。熱が入っていたってのもあるがこれは大誤算である。こうなるならばあの時無理にでも拒否しておくべきだった。いや、でも転んで怪我してたしなぁ。むむむ
まあ、つまりこれもそういう目線で見られていた、ということだろう。
「はぁ……」
飲み切った缶を捨ててから、自分の靴箱の前で靴の履き口に手を掛けたまま溜め息が零れた。
なーんでこうなっちゃったんだか。
そういえば今回とは別に蔵元から少し前に聞いた、佑が何やら告白が続いていたという噂もあった。俺が関係しているっぽいみたいな事も言っていたけれど。
これも、ここ最近で耳にした噂。
あの時も思ったが、何故こんな噂が俺の耳に入らなかった?
可笑しくないか?
普通だったら、こんな噂出回っているぞと茶化したり警告してくる筈。逆の立場なら俺だったらそうしているから。
これらの噂、佑と朱音はまだ知らない筈だ。
一目見れば一発で気付く、というか直接聞いてくる筈だ。『何かこんな噂流れてるけど!?』と。昔は朱音が俺と佑がデキてるって噂聞いてすっ飛んで来たしな。
それ抜きにしても長年の勘で見破れる。
なら高垣はどうだろうか。いや無いな。隠している可能性は無きにしもあらずだが、何故かこっちも直接聞いてきそうな気がする。『こんな噂聞いたけれど、これからどうするつもり?』と試すような笑みを浮かべて。
これら全てを鑑みて分かった事はある共通点。
当事者が揃って知らないような状況にあるかもしれない。
だが何故だ?どっかで歯止めもしくは緘口令でも敷かれている?何の目的で?
今一度、自身の周辺について俯瞰的に観ようとした時だった。
どうしてか以前言われた、ある言葉を思い出した。
ああ何だ。すでにあの時から、そう言われていたじゃないか。
―――あんたはもうちょっと自分の事を客観的に見なさい。
つまりだ。高垣は俺の夢を知っていて、あの時のアドバイスはいずれこうして俺が困ることを見越しての『忠告』だったのでは、と。
俺はその意味を明確に理解して、思わず身震いを起こした。
高垣さん、先見の明有り過ぎ!!
いやいや、そんな相手を協力者として味方に付けれた俺も有り過ぎじゃないか!!俺、流石だァ。
そうなると今までのアドバイスも観点を変えなければ。
一つ、俺は大切なモノを見落としている。これは今もちょっと分からない。忠告として見るならば……意味なら確か、見たけど気付かずに居る、とかか?だが何を?
二つ、客観視に見なさい、これは今回実感したからパスとして。
三つ……いや、あれ?よくよく思えばこれだけじゃん!ちゃんとしたアドバイス少な過ぎぃ!!
だが焦るな俺。高垣と出会ってまだまだ数ヶ月程度。アドバイスを貰う機会なんぞ幾らでもあるはずだ。
これからも、何処か達観しているようで内実後ろめたい何かを持っている高垣と交流を深めれば自ずとアドバイスやその胸の内を知るタイミングも増えるはず。今回は貰えなかったけど。
もしかしたら、少し前から今日まで何となく言えずにいた今の悩みにも、鋭いアドバイスで解決の道筋が見えるかもしれない。
願わくば、俺が一番に欲しい答えが貰えたら感無量であるが。
ああ、今の考えている作戦も練り直しが必要だ。
アドバイスは何もなかったが、視点を変えれば何かしら穴が見つかるかもしれないし。すまんな高垣。良い点数は多分取れねぇ。
噂も考慮して取り組む必要がある故、時間が掛かりそうだしな。
ああ、何故だか胸が高まる。
今までで失敗してきたサポートの全てが高垣のアドバイス一つ一つで失敗も無駄でも無く糧として今後は改めて活用出来そうな予感がする。
ここからだな。これから、俺は新生『新藤喜浩』として生まれ変わる!
☆☆☆☆☆☆
作戦をどう変更し、またどのようなアドバイスが貰えるかワクワクしながら玄関を出ると、西に夕陽が隠れ始め微かに星が瞬く空となっていた。
夕陽の眩さに目を細めから何時ものベンチで二人を待とうと向かったが、何やら二人は既に集合しており誰か見送っている最中なのか此方に背を向けていた。
そうだったな。今日から部活動の終了時刻早まってたんだったな。
さて、俺の気配に気付かない二人にはどう声を掛けようか。
熱も入ってしまったことだし今までしたことのない挨拶でもしてみようかな?
想像を固める為に目を瞑り、顎に手を添えて考える。
『やっほー』じゃ詰まらんし、『んばッ!』と脅かしても効果無いだろうし。うん、たまには俺に似つかわしく無いようなものをしてみよう。
これなら今までしたこと無いし。
何か『どうさん』やら『変なコトを』やら聞こえるが、誰か言い争いでもしているのだろう。聞いたことが無い声だし俺の知らない誰かだろう。よって気にする必要性無し。
ヨシ、思い立ったら即行動。
喉の調子を整え次に胸に軽く手を添えて執事が主を迎えるポーズを取りながら二人へ声を掛けた。
「レディース&ジェントルメン、今宵の気分は如何かね?俺はもう世界の中心に居るような感覚だよ。てか世界は俺を中心に周っている!」
なんか支離滅裂な言葉になったけど言ったことは実際間違っていない。
今の俺にとっては、思わぬ収穫もあったがそう以上に胸に期待を膨らませる程の切っ掛けを見つけたからな。
声を掛けられた二人は振り返った。俺の予想通り今までに無い印象を作っているからか、大層驚いている。
朱音は口をあんぐり開け、佑は……口を閉ざしているけどどうなんだろ。
「……うん?―――ッッ」
表情を良く見ようと目を凝らせば、佑の後ろには誰かが……何故か帰った筈の、こちらがゾッとするほどの無表情を作った高垣が突っ立っているでは無いか。距離が開いているにも関わらず、見られた瞬間に蛇に睨まれた蛙のように身が縮まった。
―――あ、これ絶対既に気付いてて、俺を見た瞬間憤怒が駆け巡り反動で無表情になったヤーツ。
そこから俺の動きは速かった。
全速力で近くの自販機に駆け込み、夏限定の新商品と誘い文句が載った甘そうなジュースを即座に買い、すぐに高垣の下へ駆け寄る。
近くで盗見みれば、何故か髪は乱れたままだった。何で直してないの?佑と朱音から聞かれたのかもとも思ったのに。
いや、何方にしろ高垣のこの反応なら辿る道は見えている。これはそれを軽減させるための先行投資だ!
「へへへ。どうも高垣さん先程振りです。これ、教えた新商品のジュースですどうぞこれで勘弁してくださいお願いします」
一先ずジュースは受け取ってくれたことに心底安堵し、次に誠心誠意謝罪を込めてお辞儀をした。
「この人もプリクラに写ってた……こんな、こんなんがお姉ちゃんの友達……トモダチ……こんなちゃらんぽらんが?」
「おい誰だ俺をこんなんとかちゃらんぽらんって言った奴……え、ホントに誰?何かやたら高垣さんに似てますけど。妹さんですか?」
なんかやたら高垣と似た顔立ちの子が佑と高垣の間に居たんだが。
高垣さん。高垣さーん?何か喋ってくれないと却って恐怖心を煽られるんですが。
この高垣妹、略してイモガキさん。
結構前に存在自体は仄めかしてました。




